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「エンタテイメント論」(47)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :2月号

エンタテイメント論


第2部 エンタテイメント論の本質

2 左脳的認識と右脳的認識
●性同一障害とは
 前号で男と女の定義をした際、近年の研究で明らかになった「性同一障害(性分化疾患)」の事を少し触れた。しかしその何たるかは説明しなかった。ついてはエンタテイメントとの関係で述べたい。

 人は、通常、肉体と精神は同一である。しかし何らかの原因で肉体的に「男性」でも、精神的に「女性」、又は肉体的に「女性」でも、精神的に「男性」という子が生まれることがある。この現象を「性同一障害」という。性同一障害を持って生れた子は、肉体と精神の不一致のため、親から男の子の格好をさせられ、男の子として育てられても、子供の頃から女の子が好む様な「遊び」を好む。また女の子の格好をさせられ、女の子として育てられても、男の子が好む様な「遊び」を好む。

 性同一障害者は、親の保護が必要な時期には、直面する様々な問題を本人が保護を受ける身であるため、自分の努力で解決できない。本人は、親にも、誰にもその悩みを打ち明けられないと、問題は更に深刻化する。そして一人密かに泣き、悩み、もがき苦しむ。

 青春期に達する時期には、肉体が完全な男性に成長しているに拘わらず、男性に強い関心と興味を持つ。また肉体が完全な女性に成長しているに拘わらず、女性に強い関心と興味を持つ。時には本気で同性の人物に「恋する」のである。そして成人に達しても、肉体と精神の不一致を解決できず、悩み続け、自らの努力では到底解決が不可能である現実を知り、誰にも相談できない苦境に立つ人物は、「自殺」という最悪の手段で現実逃避を行う場合がある。「哀れ」という他に言葉はない。

●性同一障害を引きお起こした責任者
 この様な深刻な事態を引き起こした責任は、一体誰にあるのだろか? 「生みの親にある」というのは簡単だ。しかしその様な子供生む親などどこにもいない。しかし本人には一切の責任はない。性同一障害者は、生まれながら目が見えない子、耳が聞こえない子、手足が不自由な子と全く同じ様に厳しい境遇に生まれた人物である。しかし性同一障害者は、肉体的には完全な健康体である。一方精神的には肉体と一致しないという事を除けば、その精神活動は正常である。

 性同一障害者は、一般の障害者と同様に、本人の責めに帰すべき理由がなく、生まれながらのハンディキャプを背負った人物である。従って彼らに対して、親、兄弟、親戚、友人、知人、世の中の人、そして国は、温かい理解と支援を与えるべきである。しかし日本では十分な理解が得られず、支援など無い。そして時に一般の障害者以上の精神的苦痛を味わい、残酷な人生を呪うのである。

 さて筆者が「エンタテイメント論」として何故、これほど「性同一障害者」のことを詳しく説明するのか?既に気付いている読者はいるだろう。

 映画、音楽、TV、漫画、アニメなどのエンタテイメントは、社会に与える影響は極めて大きい。その分野で「自ら」を性同一障害者であると宣言し、活躍している人物が数多くいる。彼らの存在と活躍は、日本や世界に数多くいる性同一障害者に「夢」と「希望」を与えている事実に先ず注目して欲しい。

 そしてエンタテイメントが性同一障害者のために重要な活躍の場を与え、社会的役割まで果たしている事実にも注目して欲しい。ついては、日本のエンタテイメント分野で活躍している人物の例として以下に「はるな愛」と「クリス松村」を紹介したい。

●「はるな愛」
 はるな愛は、1972年生まれ、大阪府出身。戸籍上の名前は「大西 賢治」である。柏原高等学校を中退(現・東大阪大学・柏原高等学校)。日本のニューハーフ・タレント、ファッション・モデル、サンズ・エンタテインメント所属。ANGEL.LOVE株式会社代表取締役など実業家の一面ものぞかせている。

出典:はるな愛
同氏の「ファンクラブ」
出典:はるな愛 同氏の「ファンクラブ」 出典:国際ニュー・ハーフ美人コンテスト2009年で優勝 AFP・BBNews 出典:国際ニュー・ハーフ美人コンテスト2009年で優勝 AFP・BBNews

●はるな愛へのTV番組に於ける蔑視
 彼女が出演する幾つかのTV番組で、心ない某司会者や某お笑いタレントが彼女を見下し、大声で平然と「お前、男だろう」と詰め寄る場面を何度から見た。彼女は、それに対して「平然」とTV番組スタジオの聴衆の「笑」を誘いながら「大人」の対応をした。流石であった。

 彼女は、肉体的には「男性」であるが、精神的には「女性」であることを忘れてはならない。「お前、女だろう」が正解である。彼女を「女性」として扱うことこそ「基本的人権」に配慮した人間的行為である。この本質を同番組の登場人物達も、多くの日本人も分かっていない。

   彼女は、女性としての外見を完成させ、自ら「女性」である自意識を確立させるため、長く、厳しい「苦痛」を伴う整形美容を行い、今も継続していると聞く。そして顔も、容姿も、化粧も、衣装も徹底して「女性」に変貌している。一方以下で説明する「クリス松村」は、女性への外見の拘りは、彼女ほど強くはない。しかし本質は「女性」である。

●はるな愛の「美人コンテスト」への挑戦
 彼女は、毎年10月にタイのリゾート地「パタヤ」で開催されるニュー・ハーフの国際ミスコンテストの「ミス・インターナショナル・クイーン2009」に遂に優勝した。また「Angel of Talent Contest」にも優勝して2冠に輝いた。「遂に」とは、今まで過去に同コンテストに何度か挑戦していたためである。

 彼女は、帰国後、「日本外国特派員協会」から招かれ、在日外国人記者のための特別会見を行った。日本人の芸能記者相手の会見はした様だが、社会、政治、経済などを扱う記者相手の会見はなかった様に思う。彼女は、この「美人コンテスト」に優勝したことを大変な「誇り」としていると聞く。

 日本では「美人コンテスト」が誤解されている。人によっては蔑視されたりしている様だ。世界中で実施されている名の知られた「美人コンテスト」の中で、顔とスタイルの美しさだけで優勝できるコンテストは、筆者の知る限り、皆無である。何故なら凄い美人で、素晴らしいスタイルの女性は、世界に掃いて捨てるほど存在するためである。

 どの美人コンテストでも、顔とスタイルの美しさへの評価と同等に、優れた芸、優れたプレゼンテーション力、優れた話術、優れた演技力、優れたコミュニケーション力などを評価基準にしている。また当該コンテストの評価基準や運営基準は公表され、多くの応募者が同じ土俵で競う様になっている。

 美人コンテストは、エンタテイメントの「花」である。国際美人コンテストで世界的に有名なものは、「ミス・ユニバース」、「ミス・インターナショナル」、「ミス・ワールド」、「ミス・アース」などである。その優勝者は極めて高い社会的評価を受ける。この一事を以ってしても、エンタテイメントが海外で正当に評価されていることが分かる。

●クリス松村
 筆者は、ある事情から本号の1月25日の提出締切に遅れた。申し訳ない。しかし遅れたため、ある偶然に遭遇した。その偶然とは、1月27日夜、本号のテーマである「性同一障害者」の「クリス松村」がTBSテレビ番組「金スマSP」に登場し、彼が告白したこと視聴したことである。

 彼は、日本テレビ「三宅裕司のドシロウト」に2005年に初出演。2007年にアバン・ギャルドに所属し、「おネエ・キャラ」でタレント活動を開始。フィットネス・レッスン・ビジネスも継続中である。彼は、学習院初等科~中等科~高等科を経て学習院大学を卒業した。年齢、本名は非公開扱いになっている。

 彼はオランダのハーグ生まれ。祖父は衆議院議員の松村謙三、父は外交官。弟が2人。その1人は秋篠宮文仁親王と学友。残りの1人は清子内親王(現・黒田清子)の学友。父親が外交官であったため彼はオランダ、パキスタンなどに住む。ロンドンにも留学経験があり、フランス、オーストリア、アメリカなどでの海外生活経験が豊富。

出典:クリス松村 Web Bing 出典:クリス松村 Yokocyou Seesaa Net
出典:クリス松村 Web Bing 出典:クリス松村 Yokocyou Seesaa Net

 彼は、良家の子として大邸宅に住み、「学習院」での教育を受けた。しかし彼は、幼少の頃から思春期にかけ、性同一障害者であることの意識がなく、相当悩み苦しんだ様である。

●TBSテレビ番組「金スマSP」
 同番組で彼は、新宿2丁目の「オカマ・バー」を初めて訪れた時のこと、男性との交際などを包み隠さず告白した。また彼の実弟が自分に味方していることも語った。しかし彼の両親は、彼を「一家の恥」として今も受け入れていない事実を悲しそうに語った。

 彼の最大の悩みは「性同一障害」である。彼の両親が彼を「一家の恥」とする心情は分からないでもない。しかしその様な境遇に生まれた「性同一障害者」は、彼だけではない。生まれながらに目が見えない、手足が不自由な人物が世の中に大勢いるのと同様に、彼らは、日本だけでなく、世界中に大勢いるのである。

 同番組は、以上の事実を紹介する一方、司会者、共同出演者達が彼を支援する発言をして欲しかった。更に彼を産んだ両親に対して「彼は一家の恥ではない」と同番組が主張すれば、どれほど彼は救われただろうか。また性同一障害で悩む視聴者やその家族も大いに救われであろう。

 エンタテイメント番組は、楽しい、面白い、感動などの「感性的充足の機能」を果たすだけでは十分ではない。視聴者に同意や理解などを求める「理性的充足の機能」も同時に果たすべきである。しかし同番組は彼の半生の歩みや苦労話しの紹介で終始した。そして番組の最後に「自分らしく生きる彼」を讃えた。しかしそれでは番組としての突っ込みは不十分である。「お涙頂戴番組」では視聴者の満足は得られない。もし同番組が「性同一障害者」の社会的問題を明らかにしつつ、彼の半生を紹介していたら、同番組は、充実した内容になり、真のエンタテイメント性も達成していたであろう。

●性同一障害者の基本的人権
 日本では、性同一障害者のための「性同一性障害特例法」がある。しかし彼らへの人権擁護は、諸外国に比べ、まだまだ不十分である。そのため、はるな愛、クリス松村などの性同一障害者である有名タレント達が立ち上がり、自らの人気と地位をフルに活用して、人知れず悩む多くの性同一障害者の人権擁護のため是非、社会運動を起こして欲しいものである。

 海外では、性同一障害者の人権を保護するため、2006年7月にカナダのモントリオール国際会議でLGBT(★)並びに同一障害者のための「モントリオール宣言」がなされた。また2006年11月にインドネシアのジョグジャカルタ・ガジャ・マダ大学国際会議でも、同種の「ジョグジャカルタ原則」が採択された。これらの宣言や人権擁護活動に支えられて多くの国で様々な人権擁護の法律が整備されている。そして「同性愛者」同士の結婚まで法的に認める国もある。(紙面の関係から詳細説明を省略)。

 ★LGBTとは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexuality)、性転換者(トランスジェンダー、Transgender)の人物のことを呼称した頭字語である。性同一障害などが基でLGBTの人物になると言われている。

●性同一障害の原因
 性同一障害の原因は、医学的に完全に解明されてはいない。また「性同一障害」への有効な治療方法も無い。そのため性同一障害者はその障害を一生背負って生き続けなければならない。

 人の胎児は、性分化(男性化・女性化)のために極めて複雑で数多くの成長段階を辿る。その段階で異常が起こることがある。それが「性分化疾患」である。この性分化は、性腺、内性器、外性器などの性別化(肉体的性別化)が行われた後、脳の中枢神経系にも同様の性分化が起こり、脳の構造的な性差が生まれる(精神的性別化)。

 この脳の性差が生まれる時、通常は脳と身体的性別は一致するが、何らかの原因で身体的性別と一致しない脳を部分的に持つという「脳性分化疾患」が性同一性障害の実態である。その原因説としては、ホルモン照射説、遺伝子説などさまざまである。

 その一説としての「ホルモン照射説」を簡単に紹介する。それは、胎児が肉体成長過程で男性と女性の両方の「脳的性ホルモン」を浴びる。しかし肉体と異なる「脳的性ホルモン」を異常に大量に浴びると男の体で「女の脳(精神)」を持ったり、女の体で「男の脳(精神)」を持つことになるという説である。
つづく
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