PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (10)

向後 忠明 [プロフィール] :8月号

 前月号では価値算出(アセスメントマネジメント)およびファイナンスについての話をしてきました。
 今月号は、前月号に引き続きファイナンスとそのスキーム、特にPPPやPFIとの関係で話を進めることにします。
 まずPPPとPFIの違いですが、PPP(public private partnership)は、文字どおり、官と民がパートナーを組んで事業を行う新しい官民協力の形態です。PPPは、従来地方自治体が公営で行ってきた公共事業での事業遂行スキームです。例えば、上下水、交通、港湾設備など設備は官が保有したまま民間事業者が企画段階から参加して、設備投資、建設、そして運営を行う手法を指しています。

 これに対して、PFI(Private Finance Initiative:民間資金を活用した社会資本整備)は、国や地方自治体が基本的な事業計画をつくり、資金やノウハウを提供する民間事業者を入札などで募る方法を称しています。

 この定義からすると、これまで例として示してきた[海外へのインフラ輸出]はPPPによるケースであり、日本で現在盛んに公共事業体と民間で行われている公共事業はPFIのケースと言えるでしょう。しかし、ファイナンス的にはPPP方式は公共側も資金を出すが、PFI方式は民間だけが資金を出すことになっているようです。

 この違いから見ると、PPP方式は公共側と民間側はプログラム当初から技術、知恵、お金も出し合いパートナーシップを組んで行うプログラムであり、その事業期間は投資回収ができるまで運営を任されるものです。
 一方のPFI方式はコンセッション契約に基づき事業の権利を公共側からもらい、技術、知恵、金もすべて民間の責任で一定期間事業運営を行い、その期間が過ぎると事業採算性に関係なく設備やシステムを公共側に譲渡する方法です。
 このコンセッション契約もいろいろな種類があり、BOT(Built Operation transfer),BTO(Built Operation transfer)そしてBOO(Built Operation Ownership)などがあり、引き渡しの条件によって変わってきます。
 なお、コンセッション契約については次月号の契約にて説明するので、ここでの説明は省略します。

 このように見てくると民間企業側から見ると何となくPPP方式がベターのように見えます。特に海外のインフラ事業は相手国の事情や特殊性によるカントリーリスク、地域住民との調整、そして国対国の外交関係からも多いに影響されるので民間企業だけでのアプローチには限界があります。
 PFI方式は日本においてすでに多くの実績がありますが、やはり公共側の不慣れ、変更に対する議会承認と言った時間を無視した行政によるプロジェクト遂行上の問題、コンセッション契約に基づく規制、そして金融機関から見たファイナンス上のリスク等々と多くの問題が存在し、民間側にも多くのリスクがあるようで現在ではその利用度合いは下火になっています。
 その点、PPP方式は公共側とパートナーでプログラムの企画段階からかかわることができ、事業運営期間にも制約がないことから、PFIに比較し、民間も金融機関も安心して事業を進めることもできる方式と考えられます。

 もちろん、プログラム実行にはPPPやPFI 以外のこれまで通りの事業主(オウナー)自身が金融機関よりコーポレートファイナンスをベースとしたファイナンスと出資者よりの資金調達にて対象プログラムを実行するケースもあります。この場合は、プログラムの失敗はそのオウナー企業にすべての責任がのしかかるばかりでなく、その出資者や金融機関にも影響し、多くの関係者に多大な損失を与えることになります。
 このようなリスクを避けるため、大きなプログラムにはオウナーと出資者と共同でこのプログラムを実行するための特別な会社(特別会社:SPC)を設立します。そして、金融機関に対してはこの特別会社を通じて資金を貸し出してもらう方法をとります。

 読者諸君も聞いたこともあると思いますが、このファイナンスを“プロジェクトファイナンス”と称します。
 このファイナンスの特徴は特別会社が返済の不履行が生じても原則として金融機関はそのプログラムを目的に設立した特別会社(SPC)のみへの返済要求であり、事業主体企業本体およびその出資者にまで返済を求めることのできないスキームとなっています。

 このファイナンス方法については読者諸君も「本当にそのようなファイナンスに金融機関が応ずるの?」と言う疑問を持つことと思います。
 しかし、実際にPFI手法による公共事業関連プロジェクトではイギリス、アメリカをはじめ日本を含め多くの国で行われています。
 但し、このファイナンス手法は金融機関にも多くのリスクが科せられるので、これまでのような審査条件では資金の貸し出しを許してくれません。よって、各種の条件を設定してきています。
 例えば、以下のようにその審査条件を厳しく求めていきます。
リスクの短縮のためのスケジュール通りの完工保証
売り上げ収入の先取り特権(いわゆる第3者信託勘定:Escrow A/C)
プログラム資産の包括担保の設定と第一抵当権者としての担保執行権
プログラム活動における各種制約(例えば、新規借り入れの制限、プログラム進捗や各種書類の提出、デットカバーレシオやローンライフカバレージレシオの保持、元金や金利支払いの保証積立等々)

 上記の中でも完工保証が最も重要であり、プログラムの進捗に関し第三者機関を採用し厳しくチェックすることになります。
 なお、プロジェクトファイナンスの方法にも読者諸君も耳にすることもあると思いますが、大きく次の2つの形態にかけられます。

プロジェクトまたはプログラムがうまくいかない場合でも、オウナーおよび出資者に責任を全く問うことのできない融資のケースとしてノン・リコース・ファイナンス(Non Recourse Finance)
金融機関ばかりにリスクを負わせるばかりではなく、オウナーおよび出資者にも一定の責任を持ってもらう条件を考慮したリミテッド・リコース・ファイナンス(Limited Recourse Finance)

 上記のどちらを採用するかどうかは、融資をお願いする企業側と金融機関との交渉にもよりますが、傾向としては②のミテッド・リコース・ファイナンスが利用されることが多くなると思われます。

図10-1に②のケースのファイナンススキームの参考図を示します。

図10-1 リミテッド・リコース・ファイナンス
図10-1 リミテッド・リコース・ファイナンス

 以上がプロジェクトファイナンスの概要ですが、本ファイナンスの形態はアメリカで開発発展してき方法であり、現在では多くの国で各種プロジェクトに利用されています。読者諸君もこの種のファイナンスに関する知見をさらに得て、多いに利用していくと良いと思われます。
 しかし、そうは言っても筆者も海外で数社の外国企業と共同でSPCを立上げPFI方式でノンリコースファイナンスを利用した事業を責任者として行ってきましたが、上記で言うように簡単なものではありませんでした。
 この事業の内容については、すでに「PMの知恵コーナ」で筆者は“昔取った杵柄”で説明しているのでそちらを参照してください。

 以上で説明してきたことをまとめたものが「マスタープランまたはF/Sプラン」と称されるものとなり、事業主(オウナー)として完成させなければならない事業の「プログラム計画書」となるものです。
 P2M的にいえば「プログラム統合マネジメント」および個別マネジメントのプロジェクトファイナンスマネジメントのプロセスに含まれた内容と考えられます。

 これまでIT系のプロジェクトにおいて“顧客要件定義”が不十分なため多くのプロジェクトが失敗の憂き目にあっていると良く聞きます。
 その理由は、顧客(オウナー)側がこれまで述べてきたようなスキームモデルのプロセスを踏むこともなく、またはできずに、プロジェクトの基本要求の詳細を示さずに請負業者に仕事を依頼していたことが原因のようです。

 これまでの顧客(オウナー)対請負業者と言った対立状態の事業の進め方では現代社会の複雑な課題の解決や新しい仕組み作りに対応していくためには十分な方法ではなくなってきています。これからは、顧客(オウナー)と請負業者双方の得意分野の技術や知識の結合により事業(プログラム & プロジェクト)を進める必要があります。

 次月号では、これまで説明してきたスキームモデルによって「見える化」されたプロジェクト群を実際の設備またはシステムを構築していくために必要なプロジェクトマネジメントの重要と思われる要素知識について説明していきます。
 その第一番目が、スキームモデルとシステムモデルの狭間を埋め、プロジェクト開始にあたって考慮しなければならない将来リスクに関する砦となる“契約”について説明していきます。
 なお、プロジェクトマネジメントに関する個別のプロジェクトの詳細説明はPMBOKやP2Mと言ったプロジェクトマネジメントのガイドブックに示されているのでそれらの書類を参考にしてください。
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