PMプロの知恵コーナー
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ゼネラルなプロ (9)

向後 忠明 [プロフィール] :7月号

 前月号まではスキームモデルとそれに関連したビジネスマネージメントについての話をしてきました。
 今月号では、前月号で軽く説明した価値算出(アセスメントマネジメント)に関してもう少し詳しく説明していきたいと思います。
 プログラムのアセスメントも対象となるプログラムの環境や立場によって変わってきます。とりわけ、価値の受益者であるオーナー側からの視点、サービスモデルからの視点などによりそのアセスメントも異なってきます。
 本コーナでは請負企業側がオーナーから請け負った設備/システムに関する分野に関してオーナー側に立ってのアセスメントを対象として話を進めていきます。
 プログラムは複数のプロジェクトが連関した事業であり、P2Mでは「プログラムの価値はプログラムを構成するプロジェクトの単体価値の総和を超えるものでなければならない」としています。
  よって、アセスメントの方法としてはプログラムを一括でその価値を算出するよりもプロジェクトごとに検討していくことが必要です。
 プログラムを構成するプロジェクトには価値を算出するものとそうでないものもあります。しかし、投資コストには価値を生まないものでもコストとして跳ね返ってきます。
 一方、プログラムに反映されないがそのプログラムを行うことにより派生する事業や便益も出てくる場合もあります。例えばインフラ事業の高速道路を例に取ると以下のようなことが考えられます。
 高速道路プログラムを構成するプロジェクトとしては以下のようなものが考えられます。
道路建設プロジェクト/料金徴収ゲート
各種システム(電源、電気設備、電話システム、交通情報システム、料金徴収システム等々)
サービスステーションの各種施設
 この例からもわかるように、投資コストを最小限とし、サービス面での利便性を犠牲にすれば①だけでその機能を果たすことはできます。実際、筆者の外国での経験でも②の基本的な電源や通信システムのみを含んだ高速道路の検討依頼がありました。
 しかし、実際はサービス面および人件費の削減といった点から必然的に②や③は高速道路プログラムのプロジェクト群として考慮され、価値算出の検討項目として入ってこなければなりません。
 特に②の料金徴収システム(ETC)等は人件費の削減そして、③はサービスステーションには多くの店舗/テナントの導入による高速料金以外の収入となります。
 ただし、このようなことはプログラムを構想する時にすでにプログラムアセスメントとして全体価値が出るように戦略的アプローチの段階で考慮されなければならない項目です。
 その他に、高速道路のインターチェンジを利用した土地開発による宅地分譲、各種店舗の誘致そして流通の便利さによる産業の振興と言った付帯的経済価値が発生します。

 このような思考がプロジェクト群の総和以上のプログラム価値を生むことになるのです。これらは前月号で説明した投資対効果算出のDCF法やIRR法の計算では出てこない価値です。これを外部測定指標としての経済的効果と言います。

 さて、それでは具体的にはどのようにプログラムの価値算出を行うのでしょうか?
 前月号では、DCF法やIRR法によって投資対コストの算出をすれば良いようなことを説明してきました。
 この作業は“言うは易し”ですがかなりの専門知識とプロジェクトマネジメントスキルが求められることになります。以下にその検討のために必要な作業手順を示すと:

基本① :プログラム全体の具体的構成と構成するプロジェクトおよび機能の分解
基本② :機能を構成する設備、システム等の技術的仕様および関連図書の作成
基本③ :プログラム実行体制および役割分担
基本④ :調達方針と投資コストの積算
基本⑤ :プログラムスケジュールと投資回収期間
基本⑥ :プログラムを構成する設備/システムおよびサービスにかかわるコスト算出
基本⑦ :資金調達(ファイナンススキーム)の検討と投資キャッシュフロー分析
基本⑧ :外部測定指標を考慮した事業化最適検討

 以上がアセスマネジメントにおける作業手順となりますが、前月号で説明したDCF 法やIRR法と言った手法は上記の基本⑦の部分の作業です。実際にここまで持ってくるまででも如何に膨大な作業があるか経験ある読者諸君なら理解できると思います。
 この作業はP2Mではスキームモデルのアセスマネジメントに属しています。
 これまでは、オーナー(事業者)側が、多分、コンサルタントを利用してこのような作業、すなわち事業化最適検討(FS:フィージビリティースタディー)をさせていたと思います。

 しかし、これまでの筆者の見聞の中では、上記で説明したFSに関する作業をコンサルタントが行い、その結果責任もコンサルタントが持って最後まで実行したという事は聞いたことはありません。
 ここで登場することが期待されているプロフェッショナルが「ゼネラルなプロ」です。

 この段階になると、これまでのミッションプロファイルや戦略的アプローチおよびアーキテクチャマネジメントのような事業の構想にかかわる段階からより具体的な作業になってきます。
 一方、この段階の作業はエンジニアリング会社ではすでにFEED(Front End Engineering Design)の一環としてすでに実行されています。よって、ハイクラスプロジェクトマネージメントと称される人材のスキルとしてはFSに関するスキルは当然持っていなければならないものと筆者は考えています。

 なお、価値算出の過程において重要なもう一つの要素はファイナンスです。読者諸君はどちらかと言うと技術者が多いので”ファイナンス!!!!“と思う人もいると思います。
 しかし、「ゼネラルなプロ」としては当然、この分野の知識も必要となります。

 プログラム&プロジェクトの規模が大きくなればなるほど必要となる資金のすべてをオーナ(事業)会社一社でまかなうことは例外的で、第三者からの資金調達が必要となってきます。
 このためオーナー(事業者)は事業に必要な資金の拠出先、融資先そして資金の借り方等を検討しながら事業の生成を進める必要があります。
 事業者が必要資金を借りようとした場合、投資家や金融機関が資金を融通するに当たって考える主なポイントは下記に示すとおりです。
資金の出し方
資金の拠出または融資に当たっての事業の投資対効果
その後の投資安全性や収益性の検討

については間接金融(銀行)および直接金融(債券発行)および出資等の資金の調達方法があります。
このケースは間接金融であれば融資額、融資期間、金利、担保そして出資であれば配当やリターン等が資金拠出の条件となるでしょう。
および③はまさにこれまで話をしてきた事業価値すなわち事業採算性の検討結果と言うことになります。

 また、ファイナンスの考え方にはコーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンスがあります。
これらの違いをP2Mの図を借りて示すと以下(図8-1)のようになります。

図8-1 コーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンス
図8-1 コーポレートファイナンスとプロジェクトファイナンス

 これまでの日本における伝統的な民間金融機関における金融手法はコーポレ―トファイナンスでしたがこれは借入企業の企業活動全体のキャッシュフローから債務を返済してもらうことを前提としていました。このため、金融機関はオーナー会社(またはスポンサー)そのものの健全性や安定性を最も重視し、融資の判断基準としていました。
 これに対して、プロジェクトファイナンスは、企業(オーナ会社やスポンサー)に対する融資と言うより、そのプロジェクトに対する融資であり、その融資の返済はそのプログラム&プロジェクトのキャシュフローを財源としています。
 そのため、金融機関はプログラム&プロジェクトのキャシュフローを重視する意味からも、その事業の価値を判断する手法として、DCF法やIRR法による価値算出そして付帯価値としての経済効果に関する検討結果を要求するのです。

 特に、今般、事業推進体制としてPPP(Public Private Partnership)およびPFI(Private Finance Initiative)と言った特別目的会社(SPC)と言った組織体制を敷いてプログラムやプロジェクトを推進することが多くなってきています。
 この場合の多くは、金融機関からの融資はプロジェクトファイナンスの利用がほとんどであり、技術者の読者諸君も、今後は上記に関する知識とその利用方法を知っておくことも必要となってきています。

 次回はPPP/PFIとプロジェクトファイナンスについての話をします。
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