編集部より
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東日本大震災の復興プログラムの早期確立を

PMAJ副理事長 高橋 道夫:6月号


 この度の東日本大震災に合われた犠牲者の方々および被災者の方々に、心よりお見舞い申し上げます。そして皆が助け合い協力して、各地で素晴らしい復興が一日でも早く実現されることをお祈り申し上げます

 PMAJでは、日本を震撼させたこの大震災に遭遇したことを機に、ジャーナルで特集を行うほか、オンラインジャーナルでは会員や読者から個別の意見や感想を募り、1年間掲載するコラムを設けることにした。

 この大震災が起きた3月11日の驚くべき光景を、日本中や世界中の多くの人々がTVを通じて同時に見ることが出来、映画と同様に擬似的に体験できたことになる。自分もその一人として、またプロジェクトマネジメント(PM)に携わるものとして、根源的に考えさせられた点が幾つかあるので記してみたい。

 今回の大災害は、地震と津波と原発事故の三つの原因が重なり未曽有の大災害になった訳である。今後早急に進めて行かなければならない国としての対応業務は山積しているが、その中でも特別に大きな意味を持ち、国の内外から注目されている3件のプログラムがある。
緊急対応復旧プログラム
事故・災害調査委員会プログラム
都市・産業復興プログラム
 災害発生後すでに4か月になろうとしているのに、これらの骨格となる方針や組織が、依然はっきりしていないのは問題である。

は、人命救助を第一として、被災者救援、ライフライン復旧、自治回復、サプライチェーン復旧、自立支援等であるが、国、自治体、消防、警察、自衛隊、ボランティや各国支援隊を中心に活動し、緊急の対応は終了段階に近づいていると思われる。
この活動は、市町村単位あるいは企業単位で行われるが、時間との戦いであり、物量作戦であり、可能なあらゆる方法がとられるので、まさにプロジェクト活動そのものである。それを取りまとめるプログラムマネジャーにあたる市町村長やグループリーダーの情報収集力と判断が、非常に重要である。
緊急対応復旧プログラムとして残された問題は、ごみ処理、ライフライン復旧、病院・介護施設の復旧、住宅復旧・建設、自治システム・緊急避難システムの再構築、金融支援システム構築等をあと半年内位に急ぎ終わらせる必要がある。
被災者や住民に安心してもらい、今後の生活再建に取り組んでもらう上で一番必要なものは、復興プランである。詳細プランではなく、町や市の復興目標や骨となる確固たる方針である。それがあれば、人々は黙っていても動き出す。後から出たのでは、効果が無くなるだけではなく、喧嘩の元になるからである。

は、いつものことであるが、災害調査委員会(地震と津波対応)や事故調査委員会(原発対応)が組織されて、調査・報告書の作成が行われるが、各国が今最も注目しているわけであるから、出来るだけ早く公正なものを期待したい。
今回の災害を起こした要因は、地震、津波、原発の三つあるとしたが、大きくは自然災害である地震・津波と、人工災害である原発事故とに分けられる。自然災害の二つも地震と津波に分けて、考えた方合理的ではないだろうか。死者や行方不明者や倒壊家屋の大部分は、津波によるとされている。そして津波は、単独でもやってくる(海外での地震による場合)からである。
人工災害の原発事故の原因は、地震と津波というより電源喪失が最も根源的原因と言える。地震と津波がなくても、例えばテロ活動や運転ミスで電源が喪失されれば同じことが起きるのではないかである。
特に原発事故については、メルトダウンを起こし広範囲に及ぶ放射能汚染を引き起こし、今なお国民に不安を与え続けているのであるから、単なる事故調査に終わることなく、確実に安心できる収束工程を示してもらいたいものである。これまでも原発が地震で運転停止したことはあるが、メルトダウンに至ったというのは、それこそ想定外である。(あるいは、紙一重であったのか)まだ終息していないが、世界の原発やエネルギー政策に大きな影響を与える極めて重要なプログラム活動だけに、専門家達の知恵と先見性を見守りたい。本件は専門家の意見が重要であるので、本稿ではこれ以上触れることは避けることにしたい。

は、インフラ復興、産業施設建設、住宅建設、港湾河川改修等で、いわゆる都市再開発や町おこしに繋がるもので、これからの経済復興の原動力になるものである。
これらを一括管理するのは政府や府県であるが、グループにまとめてミッションを与えたり予算分配することが中心となる。その下に多数のプログラムやプロジェクトが組織され、具体的な復興事業が行われる。その際に多くのプログラムマネジャーやプロジェクトマネジャーが活躍することになり、彼らの力の差がプログラムやプロジェクトの成否に繋がってくるので、人選や教育が重要である。
既に産業界や民間の個人を中心に動き出しているが、要はその復興事業の中に災害対策がどのように織り込まれているかである。政府が基本方針を早く示さないと、それが民間の事業に織り込まれないだけでなく、相乗効果も薄れてしまうことになる。

もう一つ重要なことは、災害対策を盛り込んだモデル復興プロジェクトを計画することである。ある特定の都市あるいは町を選んで、モデル復興都市あるいは町とし、完成の暁には、世界から見に来てもらえる観光資源にすることである。世界中が日本の復興力に期待しているから、モデルを参考にしたいと見に来られる人が多いのではないだろうか。それは町の観光資源となり、永い間町の収入が得られることにもなる。
防災モデル観光都市を創ることは、それなりのお金や工夫がいるが、そういう成果を目に見える形で世界に報告することにもなるので、一石二鳥ではないだろうか。1か所だけでなく、2か所でも3か所でもよい。また、日本の優れた災害防止設備・機器の展示館を作れば、その宣伝にも使えるはずである。

 繰り返しになるが、今回の災害の特色は、その範囲が非常に広い地域に亘り、かつあらゆる種類の産業に亘っているというだけでなく、原子力災害を含めた被害額並びに復興必要額が巨額になり、日本全体に与える影響が極めて大きくなっていることである。当然政治が指導力を発揮して優れたリーダーを選出し国民が一丸となって取り組まなければならない時期に、政治不信で対応が遅れ増々国民の不安を高めているのは、まったく日本の不幸である。しかし嘆いていても始まらないのは常であるから、それぞれの部門のリーダーが全体や関連する事項の全てを俯瞰する指導力を持って、確実に求められている事項の遂行を進めて行かねばならない、
 プロジェクトマネジメント協会は、このような大規模・複雑で緊急性の高いプログラムやプロジェクトを無駄なく進めることのできる人材を養成することを目指している協会である。そして今回の災害の復旧・復興を通じて沢山の新しいプログラムマネジャーやプロジェクトマネジャーが生まれるから、彼らの経験を活かして多くの分野で彼らと協力してPMやP2Mの普及を行っていきたいものである。

注:本稿でプログラム、プロジェクト、プログラムマネジャー、プロジェクトマネジャーという用語を頻繁に使用しているが、用語の意味やその意味する活動を知りたい方は、日本プロジェクトマネジメント協会が作成した「プロジェクト&プログラムマネジメント標準ガイドブック(略称P2M)」( 日本能率協会マネジメントセンター発行)を参照下さい。
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