「トイレの神様」
(植村花菜著、宝島社、2010年8月18日発行、第3刷、206ページ、952円+税)
デニマルさん:3月号
今回紹介の本の話題は、この本よりもレコードやテレビドラマとして放映されたことの方が大きい。昨年末のNHK紅白歌合戦にも初出場したことが更に話題を高めた。この紅白歌合戦の視聴率は35.7%(ビデオリサーチ社調べ)と多くの人が観ているので、自ずと話題性は高くなった。所で、曲名が「トイレの神様」とは妙であるが、それが大ヒットしたのは何故だろうか。それも話題の一つかも知れない。この本の話に戻ろう。この曲が出来た背景と著者の成長の過程を書いている。家族のこと、祖父母のこと、恋人や友人のこと等、著者の心の優しさが溢れている。著者が音楽との触れ合いからミュージシャンとして自立まで、その間の親子喧嘩、祖父母との離別等と自然な家族の営みや心の葛藤が書かれてある。現在の日本の多くの家庭は、核家族化して一家団欒という言葉が聞かれなくなった。しかし、この本には家族を中心とした親子の絆や家族の愛情が満載されている。その延長線上に、今回ヒットした曲の感動がある。そのCDを聞きながらこの本を読むのも趣がある。
トイレの神様(小説編) ―― 著者の心の原点 ――
著者は、諸々の事情で幼い時から、お婆ちゃんと二人暮らしである。だからお婆ちゃんから生活のことから遊びまで色々と教わって成長した。しかし、トイレの掃除だけは苦手だったという。お婆ちゃんは「トイレには綺麗な女神様がいる。トイレを綺麗にすると、女神様のようにベッピンになる」話をした。それ以来、家でも学校でもトイレを人一倍熱心に掃除したという。この純真さが、小説のベースとなり感動のヒット曲を生み出している。
トイレの神様(レコード編) ―― ヒット曲誕生の背景 ――
この本が出る1年前、著者が自分の生い立ちとお婆ちゃんとの想い出を歌った「わたしのかけらたち」というアルバムを制作した。この曲の特長は、兎に角長い。一般的な歌の長さは、4分前後であるが、この「トイレの神様」は、10分弱もある。更に、この曲は小説の様なストーリィがあり、曲名も過去に例を見ないないネーミングである。その背景には、デビュー以来ヒット曲もなく、背水の陣で渾身の力を振り絞って制作した曲だったという。
トイレの神様(裏話編) ―― 感動は電撃のように伝わる ――
この本には、著者が作詞・作曲した経緯が書いてある。長い長いストーリィにそのイメージを表現するメロディーを付けたのだが、中々思うように出来なかった。ある日、お婆ちゃんが生前好きだったテネシーワルツを思い出すと一気に出来上がったという。それは神様が天から降りて来て、その曲を授けてくれたと書いている。小説とヒット曲が一体となって多くの人に家族の温もりを伝え、その感動が心地よくいつまでも心に残る本となった。
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