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メンタルヘルス・ラインケアのリーダーシップ

竹腰 重徳 [プロフィール]   Email: こちら :2月号

 労働者の受けるストレスは拡大傾向にあり、仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、厚生労働省の調査(2007)によると58%と高く、また、企業内の「心の病」も増加傾向にあるため、より積極的に心の健康の保持増進(メンタルヘルスケア)を図ることは、社会にとって非常に重要な課題となっている。これに対処するために、厚生労働省から「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が公示されている。
 メンタルヘルスケアは、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減するあるいはこれに対処する「セルフケア」、労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う「ラインによるケア」、事業場内の産業医等事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また、労働者および管理監督者を支援する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」および事業場外の機関および専門家を活用し、その支援を受ける「事業場外資源によるケア」の4つのケアが継続的かつ計画的に行われることが重要である。ここでは、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」をベースに「ラインによるケア」に必要なリーダーシップについて記述する。
 ラインにおける管理監督者は、部下である労働者の状況を日常的に把握しており、また個々の職場における具体的なストレス要因を把握し、その改善を図ることができる立場であることから、部下のストレスの把握・早期発見・早期対応、職場環境などの把握と改善、労働者からの相談対応を行うことが必要である。
 部下のストレスに対して適切に対応するためには、ストレスをできるだけ早期に把握し、発見して対応することが何より大切である。部下のストレスを把握する手段には職業性ストレス簡易調査票によるストレス調査などがあるが、ストレスを把握する方法の基本であり、最も重要なのはコミュニケーションである。ストレスは部下との対話の中で、部下の言葉だけでなく表情・態度などでも把握することができる。部下の不調な状態をコミュニケーションの中で発見することができれば、すぐに対応することが可能となる。まずは、部下の話を聴くことである。このときは、問題解決を目的とするのでなく部下の気持ちに焦点を当て、傾聴と共感の姿勢で聴き、部下の状況を理解することが最も重要である。
 部下のストレスを弱めたりなくしたりするためには、管理監督者を含む周囲からのサポートが欠かせません。このサポートをソーシャルサポート(社会的支援)といい、大きく4つにわけることができる。1)情緒的サポートは、「やる気」を起こさせ情緒的に安定させることを目的としたサポートである。声をかける、慰める、励ます、笑顔で応える、丁寧に対応するという態度が情緒的サポートである。2)情報サポートは、問題解決に役立つ情報を与えるサポートである。悩みや困難な立場にあることなどについて、管理監督者や同僚による助言によって的確な指示や解決法を与えることは、ストレス要因を取り除くために必要なサポートとなる。3)道具的サポートは、実際に手助けをするサポートである。大量の仕事を一緒になって片付ける、人員を増やすなどが該当する。4)評価的サポートは、仕事ぶりや業績など適切に評価するサポートである。自分の行ったことについて認められれば「やる気」も出て心理的に安定する。これらのサポートは、ストレスの発生を抑え、ストレス反応を低減することができ、ストレス予防の重要な役割をはたすことができる。
 メンタルヘルス・ラインケアにおけるリーダーシップは、指示命令系統となる職務上の上下関係・権限による上から下への指示管理型リーダーシップではなく、部下が気軽に話し合える信頼関係、コミュニケーション、ソーシャルサポートといった支援型リーダーシップが極めて重要である。
 支援型リーダーシップに近いものとしては、元米国AT&Tのロバート・グリーンリーフが提唱し、ピーター・センゲ、スティーブン・コヴィーなどが賞賛しているサーバント・リーダーシップがある。リーダーは明確な夢やビジョンを持ち、それをメンバーと一緒に実現するためには、まず、メンバーのニーズを最優先し支援することにより信頼を得て、導くやり方で、従来の指示管理型リーダーシップと対極のものである。
 サーバント・リーダーシップの特性は、「傾聴」、「共感」、「癒し」、「気づき」、「説得」、「概念化」、「先見」、「スチュワードシップ」、「人々の成長」、「コミュニティ作り」で、メンタルヘルス・ラインケアの支援型リーダーシップの基盤となる。これらの特性は生まれつき備わったものではなく、管理監督者自身の現状の特性を自己評価し、強化したい特性を選択して学習と実践をすることにより、リーダーシップ能力を向上することができ、メンタルヘルス・ラインケアをより有効に実施することができる。
以上

参考資料
(1) メンタルヘルス・マネジメント検定試験U種(公式テキスト)、大阪商工会議所
(2) Greenleaf Center: こちら
(3) Larry Spears &: Practicing Servant Leadership(2004)
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