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アジャイル開発のリーダーシップ−アジャイル成功の秘密

竹腰 重徳 [プロフィール] :1月号

 市場変化の迅速化に対応してアジャイル開発に対する期待が米国のみならず、日本国内でも高まっている。アジャイル(スクラム)開発は、変化する顧客の要求に的確に応えるために、高品質で無駄のない、かつ変更要求に対応できるソフトウェアを作成するための適切な一連のプロセスに従い、高い協調と自律的なチームによって実施される反復的、漸進的なアプローチである。
 ウォーターフォール型開発は、一般的に、まず要求(スコープ)を固定させてリソースと期間を見積もるというやり方を、アジャイル開発では、まずリソースと期日を固定させたうえで、その前提条件の中で、どう作れば一番価値の高いシステムが作れるかという考え方をし、限られた資源の中で何から順番に作ればいいのか、何を省けばいいのかいう発想で実行する。
 アジャイル(スクラム)開発の流れは、まず、顧客ニーズを優先順位付けした要求事項をプロダクト・バックログというリストを作成する。次にチームの作業能力や容量をみてスプリント(反復)期間の対象となる優先順位の高い要求事項を選択し、ストーリーと作業量を見積もり優先順位付けしたスプリント・バックログを作る。そして、チームはスプリント・バックログの優先順位の高いストーリーから反復を開始し、要件定義、開発、テストの作業をして動くソフトウェアを作り出し、評価して問題がなければ次のストーリーに取り掛かる。小さなロットで追加的に要求をつけたしていくイメージである。
 アジャイル(スクラム)開発のプロジェクト・チームの構成は、顧客の要求事項収集やプロダクト・バックログの管理を行うプロジェクトの責任者であるプロダクト・オーナー、プロダクトの機能を反復的に納品する責任を持ち、開発、テスト、品質保証、文書化を自律的に実施をするスクラム・チーム、スクラム・チームがゴールを達成することを支援することに責任を持つスクラム・マスターから構成される。
 スクラム・チームには、共通の目標を一緒に協力して達成する、チームは自主運営される、結果をコミットする、チームで意思決定する、情報はオープンで共有化されている、振り返りセッションにより継続改善をするなどが要求される。このために、スクラム・マスター、スクラム・チームに要求されるリーダーシップは、チームの持つ目標を実現するために、オープンなコミュニケーションをはかり、チーム内の信頼関係を築き、自律性を重視し、メンバー各自の能力をフルに発揮でき、協調して目標を達成するコラボレーション型リーダーシップが要求される。
 このスクラム・マスター、スクラム・チームで構成されるアジャイル開発チームには一般的な企業社会と異なり、指示命令系統となる職務上の上下関係・権限等はなく、上記の通り、水平の関係におけるコミュニケーション・信頼関係・自律性・協調といったキーワードが極めて重要になる。従って権力・権限による上から下への指示管理型体制から脱却し、アジャイル開発チームメンバーが相互に影響しあい誰もが共通のビジョン・目標を共有しながら仕事を進めていくコラボレーション型リーダー シップスタイルが必要となる。
 コラボレーション型リーダーシップに近いものとしては、米国AT&Tのロバート・グリーンリーフが提唱し、ピーター・ドラッカー、スティーブン・コヴィーなどが賞賛しているサーバント・リーダーシップがある。リーダーは明確な夢やビジョンを持ち、それをメンバーと一緒に実現するためには、まず、メンバーのニーズを最優先することにより信頼を得て、導くやり方で、従来の指示管理型リーダーシップと対極のものである。
 前グリーンリーフ・センター代表のラリー・スピアーズは、サーバント・リーダーシップ特性として、傾聴、共感、癒し、気づき、説得、概念化、先見、スチュワードシップ、人々の成長、コミュニティ作りの10個に分類している。傾聴とは、他者のニーズ・要望を聴く能力、共感とは、相手の立場・視点で相手を理解する能力、癒しとは、自分や相手の精神面や感情面に注目し悲しみや悩みを癒す能力、気づきとは、自分自身や他者・環境を認識する能力、説得とは、相手に行動すべき内容を納得させて行動を決定させる能力、概念化とは、夢や目指すゴールやビジョンの具体的なイメージをかく能力、先見とは、過去から学び、現実を見、未来への道筋を示す能力、スチュワードシップとは、謙虚さと思いやりを持ち責任を持って高い成果を上げる能力、人々の成長とは、人々の成長を助ける能力、コミュニティ作りとは、よいコミュニティを作る能力である。
 これらの特性は生まれつき備わったものではなく、各自自分の現状の特性を自己評価し、強化したい特性を選択して学習と実践をすることにより、リーダーシップ能力を向上することができ、アジャイル開発を成功に導くことができる。
以上
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