PMP試験部会
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冷めつつあるプロジェクトマネジメント熱

イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭:8月号

1. 社会的背景
 マネジメントという言葉に対応する的確な日本語が無い、経営、管理等の言葉はどうもマネジメントということを的確に指してはいないような気がする。筆者のような世代では、もう古いのではと思うPFドラッカーの著書が書店に行くと山積みとなっている。特にドラッカーの基礎的マネジマント関係の著書が売れているようだ。このとこから見るとどうもドラッカーのマネジメントの基礎でさえも日本では普及してはいなかったのではないかと思う。ドラッカーの基礎的マネジメント論は段階の世界では常識化していたが、習得した世代は次代に引き継がなかったようだ。筆者も敢えて意識して後輩に基礎的過ぎて、教育した経験はなかった。今の時代の指導理念無き経営者がマネジメントの教育を何も行っていないことが書店でドラッカーが売れる原因ではないだろうか。
 マネジメントに対する的確な日本語が無いことは、日本ではマネジメントという概念にあたる作業が無かったか、必要無かったのでないなだろうか。
 筆者はマネジメントとは「組織を統べる術」というのが適切な日本語のような気がする。
マネジャーは「棟梁」・「頭領」・「統領」と近い日本語があるのでマネジャーの必要性は認識されているが何をすべきか、どうも認識されていなかったように思われる。

2. 日本におけるプロジェクトマネジメント
 では日本人がプロジェクトを成功させることが出来なかったかというと、そんなことはなく、大規模な神社・神社仏閣の造営、昭和における戦争遂行のための戦艦の建造等、現代でいうプロジェクトマネジメントがなければ遂行出来なかったと思われることが多々発生している。QCDを明確に意識することなく自然とプロジェクトを成功させることが出来てきていた。ただ体系だったプロジェクトマネジメントという認識はしていなく。古典的プロジェクトマネジメントは存在したと思われる。
 プロジェクトマネジャーについてはどうだろうか、大規模な神社仏閣の建設・修理ではその頂点に棟梁という技術の頂点、調達の責任、人材育成を行って来た現代のプロジェクトマネジャーに相当する人物がいた。

3. システム開発業界の熱しやすく冷めやすい体質。
 プロジェクトマネジメントがシステム開発業界で注目を浴びるようになっておおよそ10年がたった。システム開発業界とは不思議な業界で新たな言葉が現れ流行ると大凡10年を経ると、その言葉は必要性の有無とは無関係に廃れていく傾向がある。熱しやすく冷めやすい業界であり、無定見な業界とも言える。特にマネジメント等の方法論に関する言葉は40年前のMISに始まりMOT、他の業界では深く研究されるようなことも研究無しに消え去ってしまう。一部大手企業のコマーシャルベースでの謳い文句に利用されているのが原因の一つではあるが。アジャイル開発のように効果を出す前に研究もされず消えていってしまったものもある。だが技術的な言葉は、実態を伴っているデータベース、オブジェクト指向、インターネットプロトコル、DBのようにCODASYL型DBからRDBへの変化はあるが10年以上に渡り使われ定着しているものが多い。
 深く考えない、熱しやすく冷めやすい業界となってしまったのは経営者層に高い見識、専門的知識への理解力が欠如していることが大きな原因となっている。有名な話だが、大手SI企業に商社出身の社長に就任した際、俺の前で三文字英語は使うな、OSと言われても分からん、といわれても説明しようも無く、多くの優れた人材を失った例がある。自動車会社でエンジンと言うなに等しい、このような人材が社長になる業界なので見識、専門的知識をもって会社の指導理念を部下に説くなどということは望むべくも無い

4. システム開発業界のPMBOK、PMP
 システム開発業界でもPMBOKが表れる前から大規模システムは行われており、システムは完成してきた。システム開発では開発の手順を標準化することは、プロジェクトマネジメントが盛んに言われる前から行われてきていた。その当時からプロジェクトを成功さるには開発方法の標準化を行うだけでは不足しているのではないか、プロジェクトを成功させるための方法論があるはずではないかと、プロジェクトを成功させた経験者は思うようになった。そのように思っていたプロジェクトを成功させることのできた経験者からすると、PMBOKはまさに自分の体験が整然と体型だって書かれているものであることを発見した。このように元々プロジェクトを成功させることが自然と出来た先天的プロジェクトマネジャーも存在するが、それはここの技術者の素養によって出来たのであって、体系だった教育を受けて出来たものではないことも事実だ。今後は先天的にプロジェクトマネジメントの素養を持った人間が偶然出現するのを待つのではなく、プロジェクトマネジメント教育されてプロジェクトマネジャーになる人材を計画的にようせい養成を行わないとプロジェクトの成功率は高まらない。PMBOKが出現する以前から先天的プロジェクトマネジメントの才能がある技術者が次々プロジェクトを成功させる一方、多くの先天的プロジェクトマネジメントの素養がない技術者が多くのプロジェクトを失敗させてきた。このような技術者にプロジェクトマネジメントの教育は不可欠である。

5.システム開発業界でPMBOK、PMPは役に立たないのか?
 システム開発業界ではPMBOKの出現以降、又PMP資格取得者が増加した以降もプロジェクトのトラブルは下がったというデータは無いようである。このことを持ってしてPMPの資格取得者を増やしても、システム開発のトラブル防止には役に立たないという評価が出る一因ともなっているという人たちもいるようであるが、先天的プロジェクトマネジメントの才能がない人間がPMBOKを机上で勉強しPMPを取得しても、その人間がプロジェクトマネジメントに必要な感性を持っていない場合、PMBOKは単なる知識になってしまい実際の行動に役に立たないだろう。
 ではプロジェクトマネジメントに必要な感性とはなにか、QCDに対する直感能力、PMBOKの出現以前からプロジェクトを成功させることが出来た技術者は持っていた物で、何か一つの仕事の遅れがQCDにもたらす先行きに及ぼす影響、もたらした原因の究明、対応の判断が直感的に出来る感性であると思うが、このような直感的な素養・資質を今後新たになるプロジェクトマネジャー全員に求め、全員がプロジェクトを成功させることには無理がある。PMBOKの知識に則り、プロジェクトマネジメントの直感力の無い複数のプロジェクト内外のステークホルダー間で、問題を共有し問題を解決することが必要である。PMBOK、PMPはプロジェクトマネジメントに対して先天的素養が無い人々にこそ重要なもので、プロジェクトに携わる多くの人間にPMBOKの知識があれば、問題認識・解決で無駄な時間を要することなく、プロジェクトを成功に結びつけることが出来るであろう。

6.PMPはプロジェクトマネジマントの先天的素養を持っていることを保証したものではない。
 PMPの資格取得はプロジェクトマネジマントの先天的素養を持っていることを保証したものではないので。個人的直感に頼らず、プロジェクトマネジメント運営をPMBOKに忠実にプロジェクトを遂行することが必要である。先手的なプロジェクトマネジメントの素養がある人間の個人的力量にプロジェクトマネジメントを頼っている限り、システム開発のプロジェクトの成功率は上がらない。より近代的プロジェクトマネジメントを教育された技術者を多く育てる以外にプロジェクトの成功率を高めることは出来ない。
 日本ではマネジメントスキルを個人的スキルに頼っていることが多く、また単数民族の意志の疎通の良さからマネジメントの教育、スキルアップを図ることが少ないが。マネジメントスキルの基礎は先天的に獲得したものか、後天的に獲得したものか分からなくなるくらい若い時から教育し実践することが望ましい。あまり自己流を長く続けたマネジメントと組織遊泳術をマネジメントと勘違いした人間には、優れた方法論を教育しても受け入れ、実践する柔軟性は無くなっているだろう。出来る限りマネジメントの基礎、優れた仕事の仕方は早く教育することが必要で20代前半に教育する必要がある。
 PMPの資格取得と実際のプロジェクト成功率を高めるには、PMPが先天的にプロジェクトマネジメントの素養を持っていることが保証されたものではないことを謙虚に受け止め、PMBOKを実際のプロジェクトマネジメントに実際に適用することが重要である。

7.PMPは役に立たないという言葉惑わされてはいけない。
 プロジェクトマネジマントに対して良いセンスを持っていた人、先天的プロジェクトマネジメントの素養の高かった人からはPMBOKの評判は決して悪くなく、プロジェクト運営の当然のことが書いてあるという人が多い。
 一方PMPの資格取得者が増えてもトラブルが減らない云々といっている人の多くは、PMP等の専門的資格も取らず(取れず)に会社経営者になり、経営が分かっていると勘違いしている経営層の人間である。日本で無資格、無教養で高収入を得ることが出来る職業は政治家と経営者と言われており、よく無能な政治家、経営者が現れ、国・企業を間違った方向に持っていってしまうことがある。現在がその時期である可能性は高い。

8.誤った文化の選択―「作る文化」から「作らせる文化」
 この20年の新卒者の初任級の伸びはわずかであるにも関わらず、企業経営者の給与の伸びは数十倍になっている、また理系大卒者の生涯賃金は文系大卒者の生涯賃金に逆転され、より専門的職業の待遇は下がり、自ら手を汚し主体的に作る人間より、自ら手を汚そうとしない、作らせる側人間に成りたがる人間が多くなってしまった現在のような社会では、何かを作りだそうとするプロジェクトの必要性は低くなってしまう。プロジェクトの減少はプロジェクトマネジメントブームの衰退の大きな原因となっている。
 作る人間より作らせる人間が、業績主義により高給を得る事が出来るようになったのが「文化の選択の誤り」で、国の衰退の始まりであり、文化の選択の誤りは簡単には変えられず、もう取り戻すことは出来ないと筆者は思っている。

9.進化の停止。
 現在あるシステムでも、より便利に、より多くの人に利用するように進化させる必要がある、又コンピュータを活用しないと出来ないビジネスモデルの構築する必要があるはず、又中小企業が廉価に高度なシステムを利用出来ず、IT化の恩恵を受けていない。
 システム開発の進化が停滞してしまっておりシステム開発の需要は大幅に下がってしまっている。ハード・ソフトを融合したシステムの開発という面では国際的に大幅に遅れてしまっている。iTune+iPod、iPadの例が良い例である。

10.専門性無きゼネラリストが企業、国を亡ぼす。
 明確なリーダシップを持った人間の欠如と、専門性のない多数のゼナラリストが社会の上層部を占めていることにより、問題解決が長期に渡り出来ない(待機児童の不足、特養老の不足など40年以上放置されている、このようなことは数多く存在する。問題を解決する決断が出来ない状態が長期続き、日本の現在の低迷になっているように思われる。問題を解決するプロジェクトを発生させるメカニズムが無くなったこのような状況では、プロジェクトマネジメントが社会の深い理解を得る前に、衰退しかねないのが現在の状況のように思われる。
以上
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