今月のひとこと
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守破離モデル

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :5月号

 先のジャーナル「私流PM、日本流PM」では、期せずして、複数の方より「守破離」について提起がありました。この概念が日本文化の中核を成すという証なのでしょう。学生時代の武道経験を通じて、私も同様の想いを抱いていましたので、この議論をもう少し発展させてみたいと思います。

守破離 1.守破離
 日本文化を形作る元である知識の伝承、即ち教育の原点は「守破離」の思想であると言われます。「守破離」とは修行の段階をあらわす教えで、600年前に能の世阿弥が「風姿花伝」(「花伝書」)のなかで展開したものです。指導者から何かを学び始めてから、ひとり立ちしていくまでには、守・破・離という順に段階を進んでいく。どの道にも型というものがある。型は昔から代々受け継がれてきているが、少しずつ工夫が加わって、次第に良いものだけが残される。受け継がれたモノを守り、時代合わなくなったモノを捨て去り、新しく独自の工夫を加え、それまでの型を越える。師に教えられて、師に止まっているようでは発展はない。後継者としての存在価値はない。師をしのぎ、伝統を越え、親を超越して、より高い次元に発展成長してこそ進歩がある。そのことを通じて自己実現も可能になる。「守破離」とはそのような意味の言葉です。一つの物事を通じて、生き様や真理の追究を体現することや自己実現の修練を行う、日本における価値観・哲学とも言われます。日本人のDNAともいうべきものです。これは武芸の世界だけの教えではありません。学問も経営も技術もすべてにあてはまる、日本人の生き方にとって大事なことと思います。

守破離モデル 2.守破離モデル
 多くの場合、「守」「破」「離」は、別々の次元の概念として理解されますが、私は「守破離」はむしろ一体となった「価値創出エンジン」として捉えたいと思います。それを「守破離モデル」として表すと図のようになります。「守」「破」「離」が密接にリンクし、重奏しながら「破」及び「離」で価値創出がなされるという考え方です。
 これをビジネスシーンに置き換えてみますと、既知のセオリーや外部フレームワークに頼っている内は「守」の段階で、与えられたもの(計画・目標)を実行しているに過ぎません。これを試行錯誤し、創意工夫を加えるのが改善活動であり「破」の段階であります。更に、独自のセオリーやフレームワークを創造し、自在に操り、独自の価値を創出できるようになるのが「離」の状態です。部下の指導育成においても、「今は守・破・離のいずれの段階にあるのか」を見極めながら対処していけば、適切なコミュニケーションが図れます。逆に、部下からの「破離」における価値創出に敏感に反応し、チーム及び組織としての「守破離」に統合するマネジメントが重要になります。これは日本的なマネジメントのエッセンスであると思います。
日本では武芸に限らず、多くの分野で「道」の一字が加えられます。また「職人芸」や「匠の技」という表現が強調されます。これは日本人の行動様式として、日々の活動の裏で「守破離モデル」を回し、無意識の自己実現への思いが貫かられているからでしょう。

 翻って、プロジェクトマネジメントにおいて、この「守破離」はどのように扱われているのでしょうか!?  ジャーナル次号では「私流PM、日本流PM」の再考として、
    特集Ⅱ「プロジェクトマネジメントにおけるコミュニケーション」
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