リレー随想
次号

『「組込みシステム開発のP2M」研究委員会』成果物完成に当たり

理事長 田中 弘: [プロフィール] :4月号

 社団法人 日本機械工業連合会(日機連)の委託事業として、当協会「組込システム開発プロジェクト研究委員会」が開発中であった、組込システム開発事業におけるP2Mプログラムマネジメントの活用を提案する調査研究報告書が3月末日に完成し、委託元である日機連に提出されました。これは当協会だけではなく、我が国にとっても大きな成果となることと思います。
 2009年の経済産業省の実態調査によると、組込関連製造業は、国内総生産比率で、組込以外の製造業の約2倍にあたる13.5%を占め、475万人が従事している由。この比率は、(情報サービスを除いた)一般のサービス業に次いで第2位の大産業です。
 しかし、同じ調査によると、プロジェクトの計画達成度において、機能や品質では世界の技術大国日本らしく、まずまずの達成率ですが、開発費用と期間では達成度は50%以下と大変苦労している、という統計が出ています。この事実があって、組込開発事業において、プロジェクトマネジメント・モデル、とくにプログラムマネジメント・モデルを以ってパフォーマンス向上の仕組みを構築したいというのが委員会の大志でした。
 とはいうものの、約7カ月の委員会活動で200ページ強の量、かつ公的委託に堪える質の成果を出すのは至難の業であると思っていましたが、これは杞憂でした。金子龍三委員長以下7名の委員の皆様の素晴らしい共創力に最大の敬意を表したいと思います。
 内容のエッセンスに関しては、次号以下のこのリレーエッセイで各委員が解説をしてくれることになっていますので、そちらに譲ります。
 P2Mは「高い視点と広い視野からの問題解決」を説いていますが、本委員会はまさにその見本を示してくれました。内容にも感服しましたが、私が感心したのは、委員会のリサーチ・アプローチでした。ご案内のように、リサーチの推論でよく用いられるのは演繹法と帰納法です。業界のPM系委員会で用いるのは大体が演繹法で、WBS等ロジカルシンキングに慣れているプロジェクトマネジメント関係者もここまでは割と得意です。しかし、個別的・特殊的な事象・事例から一般的・普遍的な法則を見出すという帰納法は(その入り口はいわゆるベストプラクティス構築)学識経験者が入らないと難しいものです。
 本委員会は組込開発のシステム側のベテラン実務者と実務者OBのコンサルタントの混成軍ですので、組込開発のプロセスに通暁しており、問題点も把握しているので、これまでの演繹的、問題の深堀的アプローチではなく、帰納的に問題解決の仕組みを探索する課程で、一歩進んでアブダクション、つまり、P2Mと正面から取り組んだ上で、件名の問題解決に有効な仮説モデルとしてP2Mのプログラムマネジメントを採用し、これを事実で検証していく推論を試みました。これはまさにイノベーションのアプローチです。これで成果そのものだけではなく、当協会の委員会活動や会員活動に模範的な仕組み作りの例を残してもくれました。
 このような委員会ですから、3月13日の土曜日に特別セミナーを開催すべく、参加者募集をしましたところ、たった2日で46名のPMAJ会員の参加エントリーがあり、44名が参加しました。委員会の成果の鋭い匂いがするのでしょうか。
 では次号からの委員の皆さんのリレーをお楽しみに。
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