PMプロの知恵コーナー
先号

プロマネの表業、裏業 (24) :最終回
「国内外の組織運営の相違点からグローバル化に向けた表業を学ぼう」

芝 安曇:3月号

1.前回の要約:前回は米国型組織の説明をした。
@ 米国では「企業は組織なり」で俗人的組織のあり方を嫌う話をした。
A 米国では組織のポジションに決められた権限と責任が一対となっており、トップダウンで業務指示が出され、決められた成果を出したことで評価されている。
B 社会が決めたスタンダードを各社が採用している。これらスタンダードは社会が更新をするから、常に時代の変化を取り入れ最新化されている。また、スタンダードには資格者がおり、企業独自のマニュアルとスタンダードで、転職者はすぐ仕事を始めることが出来る。また、スタンダードに書かれた内容以降の業務を始めることができるので、生産性が高い。

日米組織の相違点

2.今回は日本企業に戻ってみる
日本企業の良さは、人々がマニュアルやスタンダード以上のことを実行し、世界的に類を見ない製品を提供してことである。ここで再度図から見た日本企業体の特徴を説明する。
@ 人材育成は企業が担当してきた
その理由:日本は戦後欧米企業組織の仕組みを取り入れてきたが、組織運営の中身(スタンダード、蓄積された知識やスキル等)は簡単に取り込むことは難しく、人材を育成して、組織運営の不足分を補強してきた。ここで「企業は人なり」という課題が生まれた。
A 企業別労働組合と企業別スタンダードの誕生
日本企業による人材の育成は長期的に計画なされ、育成された人材の定着が目的で終身雇用制がとられた。従って終身雇用下での労働組合は必然的に企業別組合となり、米国と異なり、流動性の少ない労働市場が成立した。また、日本企業の終身雇用の良さは社員の企業に対する忠誠心が大きいという特徴を生み出したが、スタンダードやマニュアルの重要性に対する認識が、米国企業に比して低く、習得した知識の組織内蓄積の努力を怠ってきた。これが現在の知識社会で、マイナス面となっている。
B 緩やかな組織権限と責任
高低コンテキスト文化企業の業務遂行システムの特徴
図は日米の組織運営の相違を示したものである。
◎米国型組織運営:業務は上位者が作業指示書(Job Description)で命令し、権限と遂行責任を与えて、命令を確実に実行することで成立している。
◎日本型組織運営:部長。課長、係長それぞれに組織の職務分掌は記されているが、部長は部長の任務を果す程度のゆるいものである。課長、係長も同様である。日本組織は作業指示書(Job Description)なしで業務を進めているが、各人は状況判断で助け合いながら業務を進めている。それには緩やかな理由がある。終身雇用制度下の組織は、業務遂行と出世のためのロードマップが複合されており、年功によって得られる地位と実力の不一致がある。そして緩やかな組織権限と義務の履行で、実力不足者の不足分を実力者がカバーしてきた面がある。これを補う方法として集団が活躍しやすい場(グリーンエリア)が存在し、集団の力を重んじる日本企業では誰もが、大きな不満を言わず、集団としての共創場を活かし、高度成長期に大きな成果をあげてきた。だが、この高度成長期に効力を発揮した日本型組織運営はグローバル化の流れに乗り遅れているという問題が表面化している。

3. 高度成長期の日本は従来の方式で間に合っていた。高度成長期が終わり、インターネットの発達で社会の変化のスピードが増してきた。米国は市場の変化に追従できる組織つくりを真剣に実行している。米国は「企業は組織なり」だからできる。日本は未だに「企業は人なり」である。変化のスピードは個人の努力では追いついていけないことは自明の理である。
まず、国である。少子高齢化に向けて、海外市場の重要性が叫ばれているにもかかわらず、世界で通用するスタンダードから離れた独自路線を固執している。携帯電話が国内でしか通用しない。海外のスタンダードを使えば楽に仕事ができ、生産性が上がり、マーケットが広がる。ある企業は海外企業にM&Aされるかもしれないが、海外が日本に来てくれるなら、相互交流ができて、国内も活性化される。日本は打たれると強くなる。実力があるからである。しかし、現在は皆内向き志向で元気がない。脱ガラバゴス化が求められている。

4. 「プロマネの表業、裏業」最終回
プロマネの表業、裏業はプロマネにとって必要な業である。しかし、IT産業が発達するにつれて、人々はツールに頼るようになり、プロジェクトマネジメントのみならず、モノの本質を捉えた動きを無視し始め、プロジェクト成功の基本を知らずに業務を進めている人が多い。PMにはまず表業があり、表だけでは処理できないとき裏業が生きる。現在は表業ができない人々が増えてきた。このコーナーで裏業を学ぶより、今必要なことは表業を習得することだと、最近の人々の行動から痛感している。その意味で2年間に渡ったこのコーナーを最終回としたい。

終わりに際し、読者の皆様に申し上げたい。筆者が実践して感じてきたことは「未来は何時でも、過去より面白い」ということである。面白い人生を歩かれることを期待している。
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