グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第41回)
P2M 2009ヨーロッパ夏の陣 その4

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :1月号

 前月号では、休載となり申し訳けございませんでした。11月27日から三週間の出張に出て、福岡でこのコラムを書こうとしたらネタとなる文書ファイルを家のPCからコピーして持参するのを忘れたためです。
 最近は、出張となると必ず何かを忘れる。一番多い持参忘れはパジャマ(国内出張が多くなった最近は、出張=ホテルにパジャマがある、が頭を支配している)、次がベルト2本のうちの1本、3番目がヨーロッパ用の電源アダプター(とくに、プラグごとに微妙に異なる穴の位置でも、自在に調節できる軸幅可変式のアダプター)であるが、7月のウクライナ出張では、キエフからフランクフルトへのルフトハンザ機にPCを忘れてかろうじてフランクフルト空港で取り戻した。
 福岡からウクライナに直行し、2日間のP2Mイノベーションセミナーを5回開催し、大変好評であり、大きな収穫があった。来月号から「厳寒のウクライナを駆け抜けたP2M」と題してお届けします。

 さて、年が明けてから「夏の陣」は間が抜けているが、フランス編の締めくくりです。
筆者は昨年8月15日から21日まで、ESC Lille School of Management(本校は、ニースのビジネススクールと統合して11月中旬にSKEMA Business Schoolとなった)教授とし、同校主催の2009年度EDEN Doctoral Seminar に出講し、また、年に数回の他の教授としての業務を行った。
 ESC Lilleは2001年度から毎年8月第3週に1週間のWorld Project & Program Management Seminarを開催してきた。このセミナーに昨年度から、EUのリサーチファンドが付き、EDEN Doctoral SeminarとしてEU諸国のPM専攻博士課程生にも開放され、名実ともにPMアカデミックの世界で世界最高のセミナーとなっている。
 参加できるのは、@大学のPM専攻課程の教授・准教中のうち、ESC Lilleのコミティーが指名した先生、A EUの大学ならびにESC Lilleの兼任教授の所属大学のPM専攻博士課程生(渡航費自己負担で、滞在費+宿泊費込みの参加費1,500ユーロが必要)、並びに、B 年度テーマに即してスポットで招かれる実務家若干名である。
 なお、PMAJは本セミナーの認定パートナー団体に指定されており、PMAJが参加を推薦した会員は大会登録費と夕食費が免除される。
 2009年の参加者は、世界経済不況の影響があり、昨年度より15%程度減少して85名程度であった。内訳は教職者:35名 - 英国(約10名)、米国、フランス、オーストリア、オーストラリア、ドイツ、スウェーデン、イスラエル、中国、日本と 学生:40名 - フランス、アメリカ、ドイツ、米国、英国、インド、オーストラリア、ウクライナ、スウェーデン、デンマーク、スイス、クロアチア、カナダ、トーゴ、オーストリア、フィンランド、日本 並びに実務家:10名であった。
 本年のセミナーテーマの切り口は、2005年に Dr. Rodney Turner, Dr. Lynn Crawford, 並びにDr. Brian Hobbsが実施したProject Categorizationのリサーチの14のプロジェクト類型から5つを抽出した下記の構成となった。
プロジェクト類型 基調講演 学術総括
Application - Application Area (Technology, Industry), Lifecycle @ Pr. Graham Winch,
Univ. of Manchester (UK)
Pr. Ralf Müller
Umeå Univ. (SW)
Context - Stand-alone or Grouped (Mega Projects, Programs, Portfolios, Project Based Organizations, Project Oriented Organizations), Strategic Drivers, Strategic Importance, Owner and Finance @ Dr. Hiroshi Tanaka PMAJ/ESC Lille (JP)
A Pr. Aaron Shenhar*
Rutgers Business School (USA)
*イスラエル出身
B Dr. Edwin Anderews PMI (USA)
Pr. Hans-Georg Gemünden, Technical Univ. of Berlin (GER)
Commercial - Contracts, Customer and Supplier Relations, Owner and Finance @ Dr. David Lowe, Univ. of Manchester (UK)
A Eddy Westerveld, NETLIPSE (ND)
Pr. Rodney Turner
ESC Lille (UK)
Difficulty - Complexity, Ambiguity, Risk @ Pr. Ed Hoffman & 
Tony Maturo, NASA (USA)
Pr. Lynn Crawford
Bond Univ./ESC Lille (Australia)
Coverage - Scope, Timescale, Geography @ Pr. Liz Lee-Kelly*, Cranfield Univ. (UK)
A Dr. Erwin Weitlaner   SIEMENS (GER)
Pr. Martina Huemann,
Wien Economic Univ. (Austria)

 筆者は、本年は、Christophe Bredille 副学長とコーディネーターであるRodney Turner教授の要請により、第2日目のトップスピーカーという絶好の位置で、”Programs and Portfolios in Practice - The Project Based Organizations”の演題で基調講義を行った(60分)。内容は、@ P&PMのコンテキストを見直す時期の到来、A ポートフォリオマネジメントとプログラムマネジメント実践の背景、B ポートフォリオマネジメントの類型とフレームワーク(ENAAでのMPMリサーチがベース)、C プログラムマネジメントのフレームワーク(P2M)、D プログラムマネジメントの実践例、とした。
 今年の講義も好評であり、2日目モダレーターのベルリン工科大学PMセンター長 Hans-Georg Gemünden教授から、
  • ポートフォリオマネジメントとプログラムマネジメントの両方のビック・ピクチャーが描かれており、全体整理に貴重である、
  • プログラムマネジメントの事例が多くの産業分野にわたっており、またポイントも整理されており、大変分かりやすかった、そして、
  • 示された多くのモデルは学生に有用である、
との講評をうけた。参加者からも、ほぼ似たようなフィードバックがあり、7名の学生から、事後の研究におけるスポットアドバイザーを依頼された。

 本セミナーで特に印象に残った講義と学生の論文発表は次のとおりであった。
講義:
@ 米国Rutgers Business Schoolの Aaron Shenhar教授(イスラエル出身)の基調講演 “The Operational Myths and The Strategic Realities of Project Management - Reflections from Research and Practice“が素晴らしかった。教授は2001年の第1回PMIリサーチ大賞受賞者で、イノベーション要素の高い単独プロジェクトの戦略的なPM論を完璧に描いており、その中心セオリー Diamond ModelとともにP2Mにも大変参考になる。
A 英国マンチェスター大学のDavid Lowe 教授の”Commercial Management of Projects” はプロジェクトの統合商務マネジメント論でありコントラクターに大変役に立つ。
B 英国Demonfort 大学ビジネススクールのElaine Harris教授の”Project Risk Appraisal and Management”は、新製品開発プロジェクトのリスク評価とマネジメントについて現場実証結果をまとめたものであり、製造業のPMに大変役に立ちそうである。
C 英国の名門Cranfield Universityの新任プロジェクトマネジメント学科長、Liz Lee-Kelly(シンガポール出身)の ”Virtual Projects” は、実践的なアカデミックリサーチの中間報告であり、今後が楽しみである。

博士課程学生の論文中間発表
@ John A. Eweje (ESC Lille)
“Investigating Factors that Affect Decision Making on Oil & Gas Major Projects, and How These Impact the Realisation of Strategic Value”. シェルのプロジェクトグループ社員であり、Oil & Gas 開発プロジェクトにおける意思決定論。エネルギーセクターの役に立つ。
A Ruslan Laroshenco (Kiev National Univ. of Construction & Architecture)
“The Models of Class «Driving Force and Resistance» in Project Finance and Implementation Management”。PMの本格的学術リサーチが進んでいるウクラ イナならではの、各種開発モデルを使用しウクライナの主要プロジェクトを検証しながらのファイナンス論であり、秀逸。Ruslan君のお父さんはウクライナの財務大臣。
B 佐藤知一(東大)日揮エネルギープロジェクト本部PM技術部担当部長
“Risk-based Project Value Analysis: on rework, cost overrun and disengagement decisions。昨年発表の理論の更新版であり、開発プロジェクト投資のリスク理論の最適適用によるプロジェクト投資機会の最大化に関して。実務 経験からの洞察力とリスク理論の関連付けが素晴らしく本年も大好評。
C Sean Reid (University of Fribourg)
“Project Management - Successful Projects Generate Value Beyond The Triple Constraints” Erickson の社員。QCDに加えてValueの追求が重要と説く成熟度 の高い発表。EriscsonのPM体系には、PMBOKの8領域に加えて、Value Management とFinance Management が入っている。

 例年のように、本年もセミナー期間中にESC Lille博士課程生のPhD認定最終審査が毎日夕方行われ、筆者も審査ボードメンバーとしてすべての審査を担当した。その結果5名の博士課程生がPhD in Strategy, Program and Project Managementに認定された。その1名が中国PM協会の国際交流担当副会長で、筆者と1997年来の親交があり、日本での国際大会でも貢献してくれたProfessor Xue Yanであり、彼女は中国人初のPM学博士となった。

 セミナー最終日前夜の木曜日は恒例のGlobal Singing Contestをこれまた恒例のフランダースの給料地帯にあるレストランを借り切って行う。ここで、食えや・飲めや・歌えやのどんちゃん騒ぎ。畑の真ん中にある一軒家であるがここであれば近所迷惑は無し。今年はアメリカが優勝となったが、審査委員長は昨年のPMAJ国際大会で基調講演をやっていただいたNASAのEd Hoffman本部長で、MCが同じくNASAのTony Maturo氏(イタリア系で一晩中しゃべっていられる)で、皆からしばしブーイング。
そして来年の再会を誓って参加者は世界各地に帰って行った。♥♥♥♥♥

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