PMP試験部会
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今までのPMO、これからのPMO

イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭:10月号

 システム開発業界ではこの4、5年プロジェクト・マネジメントにおいて指導的な立場にある人々は近代的プロジェクト・マネジメントの必要性、プロジェクト・マネジャーの質の向上、またPMOの必要性を力説してきた。米国でもPMBOK第3版出版前後の7、8年前にPMOの必要性が力説され、多くの企業、組織において様々なPMOが設立された。その後米国では種々レベルのPMOが設立されたことにより評判の悪いPMOも出現した。5、6年前PMIの年次グローバルコングレスの講演には、その効果に疑問が持たれた講演もあり、PMOの効果に疑問のある時期もあった。しかし米国では成功するPMOはプロジェクトの成功に責任を持つものが多く、単なる管理(アドミニ)の補助を行うのではなく、またプロジェクト・マネジャーを叱責だけを行うもの、取り締まりを行う警察的なようなPMOは成功しないという、多くの事例発表、企業・組織により自社、自組織のPMOの評価をし直すことにより、多くのPMOはその必要性を認められるようになった。PMIのグローバルコングレスで、米国でのPMOの効果を分析した講演があり、PMOの設立の必要のある企業・組織では、設立の比率は80%以上、その中で成功を収めたPMOの比率は60%を超えるという内容であった。2007年のPMIグローバルシンポジウムでは成功パターンの発表が多く、PMOの必要性を説く講演への参加者は5、6年前と比べると減っていて、米国ではPMOの必要性の議論は終わっていたような印象を受けた。

今までのPMO
 本年のPMAJのシンポジウムでPMOに関する講演を行う機会を得、数多くの方に参加いただきました。参加された方に自己の所属する企業・組織のPMOにあまり良い印象を持っていない方に挙手をお願いしたところ、かなりの方が挙手をされ、「PMOの存在自体が進捗の阻害要因」という話をしたところ、かなりの数の方が苦笑されていたのは、3、4年前の米国のPMIグローバルコングレスの講座の雰囲気と似た印象を受けました。又筆者はこの4年間PMO設立・運営の支援を行っており、うまく行っていないPMOと数多く接することが多いこともありますが、プロジェクト・マネジメントの指導、教育を行っている多くの方の印象を総合しても、どうも成功率は高いとは思えないような印象を持っています。PMO設立が必要な企業・組織での設立の比率は60〜70%か、成功率になるとせいぜいその中の20〜30%前後のような個人的な印象を受けています。日本ではPMOの成功率に関する調査を行った文献を見たことはないので、個人的印象の域はでませんが、プロジェクト・マネジメントに関して指導的の人々と話しをしても大体同じような印象を持っている方が多いようです。日本のシステム開発関係の業界ではまだまだ、PMOの必要性の啓蒙がまだまだ必要であり、現在あるPMOについても厳しく評価し直す必要のある企業は多いような状態と思われます。ある程度PMOが成功している企業では次の段階としてPMPの取得者を増やす段階から、よりプロジェクト・マネジャーのコンピテンシーの向上を目指すべくコーチングを導入するなどという施策を実施している企業が多いようです。米国でプロジェクト・マネジメントに関して発生したことは、2、3年遅れて日本でも発生する傾向が高いこと考えると、日本ではこれからPMOの再評価が行われ、より効果のあるPMOが増えるのはこの2、3年ではないでしょうか。ただ気になるのは日本人の熱しやすく冷めやすい体質がプロジェクト・マネジメントに関しても発生しないこと願って止まない状態ですが、プロジェクト・マネジメントもグローバル化の波から逃れることは出来ず、一時の熱にうなされた状態ではないと思われます。PMAJのPMP試験対策講座の受講者数も今年後半から増え始め、プロジェクト・マネジメント、PMOの必要性の認識が今後下がることはないと思われます。

今までのPMOの弱点
 システム開発業界の今までのPMOはトラブルの発生を防ぐことに主眼が置かれ、リスク管理が必要であり、とくに脅威に対する対応が重要であり、PMOの指導・支援して来た筆者も特にPMOではリスク管理を具体的に行うことを主眼にしてきました。ただリスク管理をPMOとして行った当初から気になり、新たなリスクの高いシステム開発案件を受託出来るようにすること、システム・エンジニアリングを高度化し、社員のモチベーションを上げ、前向きな気持ちを社員に植え付けるのはリスク管理を中心にしたPMOの役目ではなく、企業自体の戦略であること会社経営層には何度も警告してきました。しかしPMOの行うことばかりに気を取られ、トラブルの発生が少なくなった経営状態が良くなったように見えた企業でも、いつのまにか受託案件の規模が小さく、リスクの少ない案件ばかりとなり、会社の活気が乏しくなった例があります。昨年からの景気の悪化の影響もありシステム開発の案件自体も減っていることもあり、自社が景気の影響で大型案件を受託出来ないのか、リスク管理の徹底で萎縮してしまっているのかはそれぞれの企業で相当深い分析が行われる必要があると思われます。

これからのPMO
 ある程度成功したPMOの方何人かから、最近同じことを聞かれたのですが、昨今の景気の悪さはいずれの企業も同じで、経営層からプロジェクトのことならPMOが良く分かっているのだから企業を発展させるべくその方法を考えるようにと言われたということ聞いた。
今までのPMOではSWOT分析を行い、弱点をカバーするためにリスク管理を行ってきたPMOは少なくないと思われますが、強みをより生かすようにという視点を持ったPMOは少ないと思われます。筆者も弱点、トラブルをどのように克服するかということに関しては経験もありPMOにあっても効果を発揮することは出来ましたが、その逆の視点でと言われると経験上あまりありませんでした。しかし4年前30年以上勤めた企業を退職し他の企業のプロジェクト・マネジメント支援・指導を行って初めて分かったことは、退職した企業ではWBSの作り方、スケジュール表の作成の仕方、詳細設計以降の安定的開発力が弱点であったことはなかったのですが、WBSの作成、スケジュール表の作成、詳細設計以降のマネジメントに不安のある企業・組織が多く存在することでした。また業務知識・コンピュータ技術に関しても同様のことが言えます。長年勤務したからといって自己の企業・組織の強みを認識している企業は意外と少ないような気がします。強みを生かすPMOが今後のPMO、筆者は第二世代のPMOと呼んでいますが、「言うは易く行いがたし」とは正にこのことを指すのではないでしょうか。特に強みを発揮するようにPMOだけにのぞむのは間違いと思われます、企業戦略を考える部署があれば、その部署があたるべきで、PMOはその部署に弱み、強みを教える立場であって、どのように強みを生かし戦略、戦術を練るかは、経営戦略を考える部署、経営層の問題と筆者は考えています。なんでもかんでもPMOに投げるということが発生しがちですが、そのような姿勢ではPMOの成功はおぼつかないと思われます。現時点で成功していないPMOは、経営層から何とかしろとただ問題を投げつけるような企業で、PMOが成功する条件に無理解な経営層を持つような企業・組織が多いと思われます。そのような組織・企業のPMOは経営層への報告が主となり、プロジェクトへの貢献度が少なく、PMOは評判の悪いものとなってしまいます。

PMOに対する危険思想
PMOが一見成功したように見える企業でも、なんでもかんでもPMOというのは、会社経営にとって極めて危険な思想と言わざるを得ません。
以上
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