PMP試験部会
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プロジェクトマネジメントと五感

イデオ・アクト株式会社 代表取締役 葉山 博昭、PMP:8月号

 よくPMPに合格したのだが実際のプロジェクトで役に立たないという、一方PMBOKなど読んだことはないがプロジェクトを成功させることが出来るという、またプロジェクトマネジャーとして成功した経験があるがPMBOKを読んで、いままで自分が行って来たことがより整理されとても良いものだという、読んだか読まないかは分からないがPMBOKなど何の役にも立たないという、様々な評判がPMBOK、PMPに関してある、その原因で思いついたことを今回書いてみた。
 もともとPMBOKが無い時代からプロジェクトは存在し、プロジェクトを成功させることが出来たリーダーが存在していたし、今でもPMBOKを読まなくてもプロジェクトを成功させることが出来るリーダーも多い。またPMPの資格を取っても相変わらずプロジェクトを失敗させてしまうリーダーもいる。なぜこのようなことが起こるのか、個人的意見だがPMBOKを読まなくても成功体験のあるプロジェクトマネジャーはPMBOKにある知識エリアに関する知識を元々持っていたか、自分の経験を整理しプロジェクト運営方法を確立出来た人間がいる、そのような人は生まれついてのプロジェクトマネジャーと呼んでいいかもしれない。PMBOKの内容はだれか一人の思想、知見が書かれているものではなく、数多くのプロジェクトマネジメント経験者の経験に裏打ちされ作成されているので、成功体験の多いプロジェクトマネジメント経験者にはそれほど違和感なく受け入れられている。その一方ではPMPの試験に合格してもどう生かしていいのか分からないという人もいる。その違いはなんだろうか、例えば行っているプロジェクトのコストと利益が直感的に分かる人がいる一方で、EVMという知識を持っていても、原価の収集方法、進捗の状況、先行きの見通しを全く分からない人にはPMBOKを読んでもなんの役にも立たないだろう、特に原価の把握方法は企業、組織により全く異なり、自分の属す企業組織での原価の把握方法の経理的側面を理解できなければ、アクチャルなコスト、先行きのコストを把握出来ない、結構プロジェクトの経済的側面に疎いIT系のエンジニアは多い。
 スケジュール表をM/Sプロジェクトを使用して精緻に報告している例は多いが、その表から問題点を発見し対処しているかというと、そうでもない例は多い。例えば、報告時点のタスクの遅れの平均が1.5日で全体に対する影響は殆ど無いという報告している例に出会ったことがあるが、最も重要なタスクが2週間も遅れてしまい大きな問題があるのに、全タスを単純に平均した結果、問題が隠れてしまった。スケジュールというものがどういうものか五感で理解していない人間がプロジェクトマネジメントの重要な立場にていると大変困ったことになる。この例の場合、実際に遅れを単純に平均してはいけないと説得するのに非常に時間を要してしまい、顧客へ単純平均しないものを報告した時点では遅れが取り戻せず大きな問題となった体験がある。コストを見ても予定人員が集まっているから大丈夫などと単純に言ってしまう人もいるが、SEとプログラマを合わせての予定人員であるにも関わらずSEだけで予定人員に達していて、先行き必要とされる人員は予定より多くなることは明白なのに、それに気がつかないリーダーもいる。いくら精緻に表現出来るツール、知識を持っていても、その中身が読めないことにはプロジェクトマネジメントは出来ない。開発ツールの導入が一週間遅れているなら、そのツールが何をするもので、どれだけの人員に影響するのか、納期に間に合うのか、ITの開発ではタスク、例えばXプログラムのコーディング未着手とはどういうインパクトがあるのか、遅れたタスクが他のタスクに影響するのかしないのか、未着手の原因は何か、タスクの内容が何かピンと理解できないと大きなトラブルの予兆を拾うことは出来ない。精緻なツールを用いても、先行タスクが何かはエンジニアリングの問題であって、エンジニアリングの知識の無い人がそもそもタスクの順序関係を作成することは無理な場合が多い。
 IT系のプロジェクトマネジャーは、開発言語、DB、開発ツール、プロジェクトマネジメント知識が必要だが、発生した現象を人間の五感を働かせて、プロジェクトチームの人員の顔姿を見る、プロジェクトチームの人たちの話を聞くとはなく聞く、分からないことは話をする、機器、空調の臭いを気にする、さすが味を見るということはIT業界ではないが、先行するタスクの成果を画面の操作を通して見る、動作が重くないか、操作性が悪くないか、職場の雰囲気は悪くないか、モチベーションが高いか低いかなどその職場の雰囲気で分かる、このように人間の五感をフルに働かせず、ただPMBOKの知識だけを持っていても、十分な五感を生かしたコミュニケーションをとらないとプロジェクト運営は出来ない。PMBOKの知識がなくともいつも成功するプロジェクトマンジャーはこの五感が圧倒的に優れているからではないだろうか。人によってはプロジェクト運営のセンスがある人という場合もある。
 決して経験・感・度胸の世界に戻れといっているのではなく、最新の開発ツール、機器、プロジェクトマネマネジメント知識を得ても人間の持つ五感を捨てて良いということではない。最近のように隣に座っている人間に帰りの挨拶をメールで行っているのを見ると、人間としての五感を生かして良好なコミュニケーションを行ってプロジェクト運営を行っているようにはどうしても見えない。顔色、臭いを注意していれば、何日も自宅に帰っていないのではないか、妻子はいるのか、子供は男親と遊びたがっている年ではないのか?など思いはせながら、人員を増強するなり、土日は休ませるなど重要なマネジメントを忘れていると、PMPに合格したけどプロジェクトはうまく行かないなどいうはめになってしまうのではないだろうか?
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