PMプロの知恵コーナー
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プロジェクトマネジャーの知恵 (1)
「プロマネの知恵とは何か」−重要度No1.:トラブル処理の知恵−

渡辺 貢成:7月号

1. プロジェクト人生の起点
 PMAJの2009年度PMシンポジウムプログラム委員から2日目のセミナー講座の実施依頼をうけた。プロジェクトマネジャーは常に予期しない困難に遭遇する。不思議と何回も遭遇した。どうして私だけが、こんなに多くの困難に遭遇するか、今考えても不思議である。

 考えてみると、開発を含んだプロジェクトや、未経験分野のプロジェクトが多く、自慢できる話しではないが、数少ない成功事例に比して、数え切れない失敗を経験している。しかし不思議なことに、この失敗が致命傷となったことはなく、次の成功のためや、人間成長のための肥やしとなったことは事実である。

 私は、初めてのプロジェクトで大きな失敗をした。そのトラブル処理で、工事終了後、数ヶ月居残りして問題の解決に当たった。工事が終了し、顧客の課長にご挨拶をした時、当課長から頂いた言葉が、その後の私のプロジェクト人生の支えになったのかもしれない。

「渡辺さん、貴社のトラブルのお陰で、部長からさんざん文句を言われてきた。部長の言葉を伝えようとすると、渡辺さんは何時もニコニコして、何か用ですかと挨拶されるので、文句が言い出せなかった」。
「同じ時期に建設したB社のプラントはトラブルがなく、建設し、試運転し、検収されて、すぐ引き上げていった。これが正しい仕事の仕方ですよね」。
「しかし、B社の誰とも親しくなれなかった。渡辺さんはどんな問題にもひるまず、最後までやって問題を解決してくれた。おかしいかもしれないが、次の仕事は渡辺さんとやりたい」。

私は「プロジェクト人生最初の仕事」で得た教訓は大きかった。
「トラブル処理は信用獲得の最大のチャンスだ」というマイナスをプラスに変える発想である。その後の人生で、私はトラブル処理を買ってでも実行してきた。トラブル処理は種々の困難を含んでいる。しかし、普段は遭遇できない問題と対決し、考えに考えて問題を解くと、階段を上るがごとく力がついてくるから不思議である。

2. トラブル処理は複雑な問題処理となる(知恵の出しどころである)
 トラブル処理で困難なのはトラブルの本体より、人間関係が最も難しい。トラブルでもプロマネは常に堂々としていることである。トラブルで顧客にご迷惑かけているからといって、申し訳ないと心から思わないことである。人間は薄氷の上にいるときは、弱みを見せると負けである。解決案が見つからなくても堂々としていないと、顧客が心配し、上司が心配し、本来のトラブル処理の以上の仕事に忙殺される。

プロマネの知恵の第一号:
トラブルが起きたら、とるものもとりあえず顧客にはせ参じること。理由:烈火のごとく怒っている顧客から原因を追究されるが、取るものもとりあえずはせ参じたので、何が問題か、今はわかりませんと答えて、ひたすら謝り、決して言い訳を言わない。

朱書したとこるがプロマネの知恵である。
知恵の第一: 「とるものもとりあえずはせ参じる」が顧客に対する誠意であると共に、原因に関し、言い訳をしなくてすむ
知恵の第二: 「ひたすら謝り、言い訳を言わない」は、怒っている顧客は、理性を失っているから、下手な言い訳は火に油をそそぐことになる。怒りたいときには、怒らしてあげるのが顧客満足度を高める意味で重要である。
顧客は30分ぐらい怒り続けるが、怒りが収まると問題解決の重要性に気がつく。その時期まで待つ辛抱強さが、プロマネの知恵である。
怒りが収まると、堂々としたプロマネが頼もしく見え、顧客が味方になってくれる。(顧客社内では、この怒っている顧客が、顧客側の問題解決責任者である。プロマネは顧客にとって、常に頼もしい協力者の地位を確保しなければならない)
知恵の第三: 帰社し、上司に向かって顧客の怒りの大きさを伝え、社内体制について上司の協力を取り付ける。上司の協力が不十分な場合、プロマネは上司の部下ではなく、顧客の代理人として、上司を説得する。これが満たされないと上司自ら弁解に行くことになりますという脅しも有効である。
知恵の第四: プラント系では問題の要因探し、一発回答である。プロジェクトの関係者の誰かが、処理のしやすいところに原因があると発言すると、全員賛同するので、安易な発言を封じることが肝要である。すべてを検討し、魚の骨を書き上げ、1発回答が顧客との信頼性構築になる。
IT系では最低の要求(レベル1)でとりあえず、システムを稼動させるのがコツとトラブル処理のベテラン拜原先生の本に出ていた。
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