グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第34回)
経済変調とPMイニシアティブの関係

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :5月号

 約1年のブランクを経てこのコラムを再開します。1回休み、2回休みと続いて、とうとう1年数か月の休載となってしまった。普通であると、コラム執筆者失格であるが、このたび岩下編集長が就任され、ぜひ再開しては、との有難いお言葉をいただいた。
 再開1回目は、現下の経済変調がPM協会活動などPMイニシアティブに及ぼす影響に関して考えてみたい。休載の間に世界のPM界や我がPMAJを取り巻く環境は大きく変わった。
 グローバル化の渦中にある現在は、何事も「連鎖」を否応なく意識せざるを得ない時代である。環境連鎖、ポリティカル連鎖、経済連鎖、価値連鎖などなど。日本には昔から「風が吹けば桶屋が儲かる」という落語の定番があったり、ツボという東洋医学の概念が広く理解されるなど、複雑系・連鎖の存在を庶民ですら読み説いていた。その割にはP2Mが大変重視している「システムズアプローチ」や「システムズマネジメント」といったシステムセオリーがいまいち理解されないのはなぜか不思議である。
 連鎖と言えば、昨年9月に米国でリーマンブラザースの経営破綻が起こった時に、読者の方々は、先行きに関してどのように読まれたであろうか。
 リーマン事件からしばらくして、筆者は約1カ月の間に、シンガポール → デンバー → ローマ → 大阪と渡り歩いており、その間に各地の状況を観察しながら、この経済変調はPMAJの経営にどのような影響を及ぼすのであろうか、と度々自問自答していた。しかし、まあ何とかなるであろう、とも考えたのはポジティブに考えないと身体がいくつあっても足りないPM人種ならでは、か。
 約6千億円の売上の8割以上を海外から得ているエンジニアリング企業に勤務していた筆者は若干なりとも、何事にもグローバルな連鎖があることを身をもって経験していた。そこで考えたリーマンブラザースの破綻が及ぼす連鎖であるが、
前段の金融工学のオーバーシュート→サブプライムローン問題→リーマンブラザース経営破綻→金融界で連鎖し、グローバル金融メカニズムの混乱→米国から欧州そしてアジアの消費者市場の大幅縮減→製造産業の苦境→生産財産業(プラントも含め設備投資依存産業)の不況と、ここまでは読めた。しかし、次に、ITサービス産業にどのように影響があるのかは読み切れなかった。理由は、同産業が一種の囲い込み市場的な性格を有しており、グローバルリンケージが有るのか無いのか筆者自身よく分からないからであった。
 このことも踏まえて、この経済変調がPM協会とりわけPMAJにどのような影響を及ぼすのかについては3つのシナリオを想起した。
シナリオ1:
 やはり経済変調は日本のITサービス産業にも影響を及ぼし、PM協会の会員の協会事業への参加が減少し、また、日本では不況と共に各産業押し並べて企業は人材育成予算を含めて間接予算の一律削減に走るので、PM協会の人材育成事業の収入は数十%減る。
シナリオ2:
 世界的にプロジェクトマネジャー人材不足は顕在化しており、また能力向上のニーズは根強くあり、またP2Mには独特の市場があるので、経済変調はあまりPM協会の経営に影響を及ぼさない。
シナリオ3:
 この世界同時不況を機に、PMは「衣食足りて礼節」の礼節の部分あたるので、衣食が足りてない現下の情勢では、「PMの価値」の検証や「PM人材投資」の検証の議論が湧き起こり、答えを出せたPM協会のみが生き残れる。

 現在までのところ、グローバル経済変調はやはりITサービス産業にも波及し、シナリオ1の可能性が高まっているが、シナリオ2の目が無いわけではないし、また、世界には最も厳しいシナリオ3にすでに見舞われているPM協会もあるので、3のリスクが皆無でもない。
 掲題の立場の筆者からPM協会の代表としての筆者への問いかけは、「お前大丈夫か?」、「この難局を乗り越えて成長路線に乗せるツボはどこにあるか?」である。
氷山  ここは、システムダイナミックスの基本理論「氷山モデル」の登場を待つ。”事象(問題)は、”人間(ステークホルダー)の行動のパターン”が引き起こしており、パターンは”構造(系の連鎖)”が作っているので構造を変えなければ問題の解決にならない、そして構造を作るのは、”ステークホルダーの心理モデル(世界観、前提)”であるということに基づいて、問題解決の連鎖を読み解く必要がある。かなり複雑そうであるが、世界のPM界は、いずこも、いまいちど、PMのルー ツである、システムセオリーに立ち戻る必要に迫られているのではないであろうか。
 次回は、「PM魂再び」という題で、筆者の小センチメンタルジャーニーについて述べたい。♣

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