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「WBSアラカルト」

株式会社 ピーエム・アラインメント 佐藤 義男:3月号

 プロジェクトは、計画された成果物と作業をプロジェクトとして創出することで成功裏に終了する。この作業を設定するに、WBS手法を使います。
 WBS作成の目的は、プロジェクトの必要作業の把握と定義、組織との対応による責任と権限の明確化、そしてプロジェクト計画のためのフレームワークの設定です。WBSはスコープ定義(開発範囲)し、進捗時はプロジェクト検証のベースとなるため、WBSが明確でないとプロジェクトはよじれます。
 今回、これまでプロジェクト・マネジメントに携わった際に苦労した、様々なWBS構築の体験を紹介します。

1. SIプロジェクト
 1990年、外資系コンピュータ会社にてSI(システム・インテグレーション)プロジェクトのプロジェクト・マネジャーを担当しました。代表的なSIプロジェクトは、基本部分であるアプリケーション開発(自社ソフト開発部門、協力会社)以外にハードウエア開発(自社、他社製品)、サービス関連(ネットワーク構築、システム運用、PC統合など)、教育開発(顧客教育)から構成されています。当時、この広い活動をとらえて「プログラム」とも呼んでいました。
この会社では、システム構築手法に基づき、ライフサイクルと成果物が定義されていました。具体的には構築フェーズを「定義」、「機能設計」、「システム設計」、「開発」、「導入」、「運用」の6つに分け、それぞれに「主要タスク」、「主要成果物」、「顧客の役割」を定めました。システム構築プロセスを標準化しているため、実際に構築する規模にかかわらず、多くのシステム構築プロジェクトに適用できるWBSが構築できました。

2. ERP導入プロジェクト
 2000年に支援したERP導入プロジェクトの特徴は以下のとおりです。
 (1)上流工程に重きが置かれており、業務分析の能力が問われる
 (2)ERPパッケージが複雑で、導入の作業量や費用予測が容易でない
 (3)複数の構成・関係メンバによる推進体制、かつ顧客との連携・信頼関係に依存
 (4)従来型システムとは設計思想が逆転

  特に(4)は、ソフトを開発せずパッケージに合わせことを意味しています。つまり従来型システムは「機能」という視点で構築します。ERPパッケージは、「オブジェクト」デザインを行い、そのオブジェクトを使用する「プロセス」に 「機能」を関連付けています。
  そこで、ERP導入プロセスと成果物の定義(ノンカスタマイズとカスタマイズの2分類)を行い、標準WBSテンプレートを策定しました。しかし、製造業向けの導入では画面、帳票、物流との連携に必ずカスタマイズと追加開発が要求されるため、プロジェクトは困難を極めました。

3. 新製品開発プロジェクト
  2008年11月より3か月間、製造業にて「擦り合わせ型製品開発プロジェクト」の標準WBS構築(工程展開)支援を行いました。自動車、小型家電、複合機の製品に代表される擦り合わせ型製品開発においては、要素技術と新製品開発のベクトル一致を担う先行技術開発プロジェクト推進が欠かせません。
  しかし、この分野では標準WBSはなかなか存在しないのです。理由は、PMBOK(プロ ジェクトマネジメント知識体系ガイド)が推奨する「プロジェクト・チームが行う作業を、要素成果物を主体に階層的に要素分解したもの」という考え方と異なるからです。つまり、商品企画で開発方針が決まると、業務プロセス(開発計画、要素開発、機能試作、試作)をベースに「ファンクショナルWBS」が形成され、また開発する製品構成をベースに「プロダクトWBS」が形成されます。ここで、「プロダクトWBS」は開発プロジェクト担当が見たい切り口であり、「ファンクショナルWBS」は進捗管理などプロジェクト・マネジャーが見たい切り口と言えます。
 今回は要素開発の一つのユニット(モジュラー部品)に焦点を当て、標準WBSとマスタスケジュール(中日程)を策定するコンサルティングを行いました。このユニット開発では、メカ、プロセス、エレキ、ファームという要素間で頻繁な擦り合わせが行われます。そこで、現場の各要素リーダーが参加したワーキング・グループにて、以下手順でWBS構築を進めました。
(1) 関連ユニット、共通要素と影響要因の洗い出し
(2) 対象ユニットの開発フロー(要素認定、機能試作認定まで)作成
(3) 対象ユニットのアウトプット定義(設計基準書、ゴール設定など)
(4) 対象ユニットのタスク洗い出し
(5) 各要素のタスク修正
(6) 担当者アサイン及び期間見積
(7) 作業の順序設定、中日程作成(MS-Project)

  特に、複数の要素に関係する共通タスク(協議・決定するタスク)の定義、微妙な相互調整を繰り返すタスクの定義(図面出図と機能試作機組立、ROMリリースなど)に苦労しました。また、タスク洗い出しではドキュメント化していない要素担当者がおり(人にノウハウ蓄積している)、時間を要しました。
  しかし結果として、9レベルに分解した標準WBSが出来ました。またタイムスケールを旬とした中日程が完成しました。
  今回のWBS構築に参加した設計現場リーダーの皆さんは、「良いものを作る情熱」を持ち、絶妙なチームワークを発揮しました。「擦り合わせ型製品開発」は日本が得意である、ことを垣間見ました。さらに、「ものづくりは人づくり」であることも実感しました。

図1 擦り合わせ型製品開発プロジェクト標準WBS(例)


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