PMP試験部会
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プロジェクト・マネジメントと失敗学

研修第2部会 荒木 英夫 PMP:2月号

【はじめに】
 3年前まで研修第2部会で「PMP試験対応講座」の講師を3年半ほど行っていましたが、勤務地の変更で、PMAJのプロジェクト・マネジメント教育活動は暫くご無沙汰している現状です。
 現在、ある国家プロジェクトに携わっており、正に日々プロジェクトの実践の毎日です。そのプロジェクトの業務の一つである「工事施工に関する安全管理」に関する活動を通じて、最近、失敗学(畑村先生の提唱された学問)に興味を持ち、そこから多くの学ぶ機会があり、失敗学の側面から「プロジェクト・マネジメント」をもう一度再考している状況です。「工事安全管理」と「プロジェクト・マネジメント」が、「失敗」というキーワードで繋がっていることを実感しています。

【失敗学】
 先ず、失敗学について紹介することにします。畑村先生の失敗学の著書の中で「失敗学」が生まれたきっかけについて記述されている部分があります。きっかけは、大学での教育体験にあったそうで、機械設計を学生に教える際に、最初は、いくら一生懸命講義をしても、授業をサボる者もおれば、寝ている者もいたり、聞いていたとしてもろくに覚えていない者が多く、どうも学生にきちんと講義内容が伝わっていないと当時感じていたそうです。ところが、ある時、先生自身が犯した失敗を話したところ、学生たちが急に面白そうな顔になり、寝ていたはずの学生までもが聞きだした。その時、はたと気付いたのだそうです。教育とは教える側の都合で無理やり教えるものでなく、本当に学生がほしいと思っているものを与えることでないかと。だとすれば、失敗を入り口に教えるべきであろうと。その中で「ここにはこんな危険がある」ということを知らせ、どうすればその危険を防げるかについては、各自に考えさせるようになさったそうです。
 また、畑村先生は「真の科学的理解は、失敗を通じてしか得ることができない」とも述べられています。人間は、失敗した時「もう同じ失敗はしたくない」と思い、そして、「どうして失敗したか」、「失敗しないためにどうすればいいのか」を自然と考え始める。結論は簡単には出ません。答えを導くために様々なことを体験し、時にはさらに失敗を重ねていく場合もありますが、その過程で一つずつ新しい知識を得て、いつしか失敗しないやり方を見つける。このとき、頭の中にはやり方だけでなく、「どうしてそのやり方だと失敗しないか」という因果関係がしっかり組み込まれているはずだと。だから、もしも予期せぬことが起きたとしても、「どうしてこんなことが起きたのか」を冷静に考え、対処することができる。昨今の日本人ノーベル受賞者の世界的な発見や研究成果達成のエピソードと照らし合わせてみてもなるほどと納得させられてしまいます。(白川英機博士の通電性プラスチックの発見、田中耕一さんの試験試薬の間違いなどのエピソード)

【プロジェクト・マネジメント】
 次にプロジェクトについて述べます。プロジェクトは、「PMBOK」では次のように定義している。
 「プロジェクトとは、独自の製品やサービスを創造するために実施される有期的な業務である」、「有期的とは、どのプロジェクトにも明確な始まりと明確な終わりがあること、独自とは、なんらかの識別できる点でその製品やサービスは、その他すべての製品やサービスと異なっていること」
 私自身の経験も踏まえ、プロジェクトは類似しているところはあるが、必ず独自の部分が存在し、自分が今まで経験していないような事態に遭遇し、非常に難しい環境下で迅速でかつ適切な判断を求められる場合があります。しかし、その判断は必ずしも成功ばかりではなく、結果からすれば失敗を往々にして犯してしまっていることがあります。その意味でプロジェクトは成功を見通すことが難しく、非常にリスキー(Risky)のものであり、正に「失敗」を起こしてしまいがちなものであると言えます。最近、プロジェクトの失敗や成功する方策などを題材にされた多く図書が出版されていることもそれを如実に示す事実として解釈できます。

【安全管理と失敗】
 「工事安全管理」での失敗は、「事故」という形で顕在化しますが、人身事故になれば、取り返しがつかない事態の場合もあります。「プロジェクト・マネジメント」では、「リスクマネジメント」という形で、ある程度、失敗を回避するためのマネジメントの方策を示唆していますが、失敗の原因は、「プロジェクト・マネジメント」の「リスクマネジメント」で全て対処できるものではなく、個々のプロジェクト構成員の心理面、メンバー間の意思疎通(コミュニケーション)の状況など、人が介在することで複雑化し、単純に失敗を回避できるものでないことは皆さんも実感されていると思います。

 失敗学では、「人間は、必ず失敗する動物である」、しかも「同じような失敗を繰り返す」、「繰り返すのは、同じような失敗であり、全く同じ失敗でない」とう前提及び分析から、「前者の轍を踏まないようにプランを練る、ミスしやすい箇所を上手にクリアして質の高い仕事を行い成功に導くことができるように」というコンセプトで、失敗データの収集、整理、共通点の抽出、大会での活動報告、研修会などが行われています。

【PMBOKの活用】
 PMBOKは、基本的には4年毎に改定されます。改定の作業には、PMIの職員を始め、プロジェクトに日々携わっている世界中の人々の英知が結集され、行われていると聞いています。その際には、正に失敗の教訓から得られたものも当然含まれ、それらが最新のもととして反映されていると思われます。上記の失敗学の活動状況から得られた教訓からもPMBOKを「プロジェクトを成功するためガイドブック」とだけ捉えるのではなく、私見ですが、「プロジェクトを失敗させないため、何に留意するか」という観点で読み込むこともPMBOKの試験対策、活用にとって意味ある方法ではないかと思います。
以 上
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