「国際宇宙ステーション余話」
長谷川 義幸:8月号
第 10 回
■日本のカメラがスペースシャトルと宇宙ステーションで活躍
星出宇宙飛行士が乗ったスペースシャトルと国際宇宙ステーションに搭載され、スペースシャトルから切り離された後の外部燃料タンクの撮影や国際宇宙ステーション内での活動記録などの撮影で活躍したカメラは日本製です。 デジタル一眼カメラで、潤滑材とファームウエアを変更したことを除くと、ほとんど市販の製品と同じです。 この会社はNASAとは長い付き合いです。
NASAは定評のあった日本の35mmフィルムカメラをアポロ15号の月着陸記録用として採用しました。1971年夏の打上げでしたが、これが日本の民生品で宇宙へいった最初のものとなりました。民生品を宇宙船で使用するには地上とは異なる特殊条件をクリアする必要があり、技術陣はNASAの要求になんとか対応しようと相当苦労してきました。当時は米ソだけが宇宙先進国で、どこまでやれば安全なのかを知っている日本の技術者はいない時代でした。技術陣は組織のトップの指示のもと、これをクリアしました。そして、それ以降同社のカメラが宇宙船に搭載されています。
次に日本製品で宇宙へいったのは、おそらくインクジェットカラープリンターでしょう。1999年のスペースシャトル打上げから採用されています。プリンターの機種選定は97年から始まり、多くのメーカー製品から絞り込まれ、打上げ時の激しい振動、無重量状態での印字の品質、発熱の有無等を検査し決定されたものです。市販の製品と異なるのは、外側を覆う樹脂が燃える材料なので難燃性のポリカーボネートに変更した点です。 現在では、スペースシャトルにも国際宇宙ステーションにも、市販品を改修して搭載しているものが増えました。液晶ディスプレーはほとんど日本製です。宇宙飛行士のリラックタイムで動画をみるDVDプレーヤーもポータブルハイビジョンカメラも日本製が搭載されています。
■宇宙搭載には特殊な条件がある
市販品を宇宙船で使用するには地上とは異なる特殊条件をクリアする必要があります。宇宙船は密閉空間の中なので毒ガス、火災等を起こさないこと、高い信頼性、放射線、無重力、真空等の特殊環境に対応できることが条件があり、そのまま使用するわけにはいきません。バッテリーは気圧の差で容器が破壊したり、液漏れして中の有毒な物質が出ないものにしたり、プリント基板に半田付けした市販の電子部品はガス発生や燃えるのを防ぐため基板をコーティングします。また、電磁環境基準は市販のレベルでは他の機器からの電波放射やケーブルを伝導してくる電波干渉により機器が誤動作する可能性があります。また、電源や通信の接続コネクターは、宇宙では振動があり、かつ無重量のため、ケーブルや機器が船内に浮くので、コネクターが外れやすくなります。このため、宇宙用コネクターに交換する装置を付加します。また、地上と異なり放射線によりCCDカメラや半導体部品が損傷をうけ画像の白傷やビット反転により画像の鮮明度への影響がでますので、地上で試験をして対策をとった上で打ち上げます。
■ハイビジョンも画像圧縮装置も日本の市販製品
最近では日本製のポータブルハイビジョンカメラを宇宙ステーションに搭載、非常に鮮明な地球や船内のクリアな動画を地上に伝送しています。この製品はNASAも日常的に使用しています。
日本の記録媒体付きハイビジョンカメラは、その画質の精細度はもとより、故障が少なく、小型軽量なのでハンディーに持ち運びができ、非常に便利だと宇宙飛行士の評判はよく、宇宙ステーションのあちこちで使用されています。市販品が最先端技術で、かつ日進月歩急速に進歩しています。自動車やパソコン・携帯電話等移動しながら使用する機器は、振動が過酷、電磁環境が悪い場所、高温や寒冷化の土地で使用するので、宇宙に類た厳しい環境に耐えられる部品や製品が販売されるようになっています。このため、最近では航空機、人工衛星にも有人宇宙船にも、防災の衛星技術へも使用されているのが現状です。パソコンに標準搭載されているMPEG−IIの画像圧縮チップ、フラッシュメモリーやDRAMは、宇宙用部品がないので、市販の部品を厳しい評価試験をして選別して宇宙用として使用しています。宇宙専用に開発するとコストが高くなり、開発期間もかかります。 市販の部品や製品をうまく活用して宇宙船に搭載する動きが世界の宇宙機関で行われています。 NASAをはじめ各国の宇宙開発機関では搭乗員への安全に支障のない箇所で使用をはじめています。
■市販品の有人宇宙船載には安全審査パスが条件
有人宇宙船に使用する部品や材料は、火災や有毒ガス発生の可能性があり、搭乗員の生命に危険性があるため、安全・信頼性保証要求のトッププライオリティーとして厳しく基準が設けれられ、技術仕様として規定遵守(コンプライアンス)が要求されています。安全審査はハザードレポートといわれる解析書を用い「ハザードを識別」、「識別されたハザード毎に制御方法と検証方法が設定」及び「検証が適切」を審査するもので、開発部門とは独立した部門が中心になって実施、安全を確認してゆきます。 設計部門が自己のシステムの完成度をチェックし、評価根拠と結果を審査員に提示します。審査員は、設計部門のチェック結果をレビューし、要求基準に対するコンプライアンス(要求遵守)に適合しているかを、その証拠(試験結果、解析結果、ハザード解析結果等)を基に突っ込んでゆきます。JAXAとNASAの審査を受け、パスすることが有人宇宙船への搭載の条件です。日本の市販品の材料、設計、製造、検査等の品質管理は定評があり、故障の少ない製品として定評があります。
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