「国際宇宙ステーション余話」
長谷川 義幸:7月号
第 9 回
■日本初の有人宇宙施設取り付け成功
日本初の有人宇宙施設「きぼう」の中核施設が、本年3月と6月にスペースシャトルで打上げられ国際宇宙ステーションに取り付けられました。スペースシャトル打上げ能力の制約で、船内実験室に装置を全部組み込んで打上げられなかったので、一部のバス機器と実験装置は3月に土井宇宙飛行士が船内保管室を先に運び、6月に星出宇宙飛行士が船内実験室を運んで宇宙ステーション本体に取り付け、その後、装置を運びこんで配線と配管を接続し起動しました。動作確認の結果はすべて正常でした。宇宙で組立てをする初めての経験でしたが、宇宙飛行士、NASA管制チーム、筑波の管制チームの連携プレーにより、非常にスムーズに問題なく、すべての作業をやり終えミッションは大成功でした。
■有人宇宙施設の装置は取り外しができる
人工衛星では、すべての機器を組み込んでいろいろな試験を地上で実施して宇宙に打上げています。 あらゆる注意をして打ち上げても宇宙で不具合が起きます。「きぼう」は、一部の機器を別便で打上げ、宇宙で運びこんでセットアップし、起動するという今まで経験のない作業でした。
船内実験室に搭載する機器は、打上げ前までに筑波とNASAケネディー宇宙センターで試験を行っています。 試験後、船内保管室で運ぶものは、船内実験室から取り外して移動させました。配線も配管も、操作機器もはずして打上げ衝撃に耐えられるようにクッション材で蓋い所定の場所に取り付けました。 想定できる試験は、可能な範囲で実施したのですが、無重力で真空の宇宙環境は、すべてを地上で模擬できるわけではありません。 一抹の不安はありましたが、宇宙で運びこんだ予備系のバス機器も、ロボットアームの展開も地上での動作通り正常に動きました。すべての機器が動作したときは、非常にうれしかったです。 今まで国際宇宙ステーションに打上げたNASA,ESA(欧州宇宙機関)、カナダ宇宙機関の施設はミッション中、何かしら不具合があり、スペースシャトルの組立て期間にはすべてが完了していないことが常でした。 土井宇宙飛行士の組立てフライトは、船内保管室とカナダの精密ロボットアームの組立てでしたが、カナダのロボットアームには最後にいくつかの不具合があり、全部を完了していませんでした。ESAのコロンバスもいくつか不具合があり、シャトルが帰還後に修復処置を行っていました。その経験があったので、「きぼう」の2つのミッションがこのようにスムーズにうまくゆくとは想像していませんでした。
■冷却水系統に気泡が混入
初期設定に伴う不具合がありました。 船内実験室の機器は電気が入ると熱を沢山出します。この熱を取るのに水を使っています。熱がでる機器には各々内部にフィンを有する薄板状の吸熱器をつけて熱制御装置に集め、隣のノード2という接続施設に送ります。そこで、アンモニアと熱交換して外の大型ラジエーターで排熱する方式をとっています。水を循環させるのでポンプが必要です。このポンプは流体軸受けという水により動圧を得て回転するものなので、気泡の塊が軸受けに流入するとポンプが停止する可能性があります。今回、宇宙飛行士がこの接続施設と船内実験室を特殊なホースで接続しようとしたとき、ホース内に水が満タンに充填されていないことが判明、冷却系を起動させたときに、ホース内の気泡が、冷却水ポンプを壊さないかどうかという懸念がでました。JAXAの技術チームが地上試験のデータと比較してすばやく対応策を編み出しました。 その方法は、冷却系の急速を早くして気泡の塊を分散させること、及び気泡除去装置を装備しているのでそれを十分活用することでした。 NASAの技術チームと協議の上、対応を実施。結果、想定通りの状態の推移で、機能はすべて正常に動作。 地上での様々な試験を経験し、そのデータを蓄積していることから、それらに基づく技術判断が迅速に実施できました。 NASAからもこの技術判断の迅速さと対応に賛辞がよせられました。
■「きぼう」は静か、窓から宇宙が見える
船内実験室は、1気圧で満たされています。宇宙ステーションの中は、都会の雑踏のようにうるさい音があちこちありますが、「きぼう」の中は、ホテルのロビーなみの静かさですし、窓が2つあり地球や宇宙を眺められるので、星出さんの宇宙飛行士仲間はプライベートな時間に窓から外をながめていたそうです。 地球の青さに白い雲がまだらにかかり、漆黒の宇宙との間に、日の出のオレンジ色が横に細くひかり、ロボットアームの断熱材の白さがみえます。さらに、太陽電池パネルの黄色や橙、黒の色がうまく色彩のバランスをとって、きれいないい写真になっていました。 聞くところによると、このスチール写真はプロが使うニコンのカメラだそうで、何台ももっていって記録写真をとっているとのこと。
■「きぼう」運用開始
1985年、レーガン大統領が提唱した国際宇宙ステーション計画に日本が参加を表明して四半世紀経った今、ようやく日本初の有人宇宙施設「きぼう」が宇宙に上がりました。開発したものがちゃんと機能したので、いよいよ運用と利用を開始します。「きぼう」を活用して世界の先端技術である有人宇宙技術の修得を十分行っていきたいとおもいます。技術立国日本を継続させるためにも、世界一流の技術力の維持・発展させ、人材の育成、利用を促進していきたいと思います。
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