PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (3)
〜経験のノウハウ〜

芝 安曇:6月号

PMの世界では「経験」という言葉が二通りに取られている。善意の例は「PMでは経験がものをいう」である。悪意の例は「KKDのPM」という発言である。経験と勘と度胸のPMとは古臭い昔流のやり方という意味である。
前者は日本人的感覚の人々の発言で、経験を尊重する立場である。後者はコンサルタントITプロジェクトやPMBOK派の人々の発言である。私はさしずめ前者の代表に見られていた。

10年も前の話である。JPMF設立以前である。「プロジェクトマネジャー自在氏の経験則」をエンジニアリング業界の業界紙に連載していた。JPMFの前身時代の例会に参加し他時のことである。
「芝さんのPMはアートですね。我々PMBOK派はサイエンスです」と言われた。これはほめられたのか、その逆か当時は理解できなかったが、別の機会で「PMBOK 紹介」の講演があり、PMBOKはサイエンスで、それ以前のPMはKKDだと紹介された。
確かにPMBOK以前はPM体系として書類書化されていなかったから、サイエンスになっていなかったともいえるが、組織内では知識・経験保持者が大勢いたために差ほど不自由をせずに整然と仕事をしていた。

ここで芝 安曇流に経験則を披露すると、
PMBOKの第一法則: PMBOKはサイエンスであるが、多くのPMBOK支持者はPMBOKを使うことができていない。何故なら彼らは経験者でないからである。
解説するとPMBOKは未経験者を短期間で経験者にしようと言う意図を持っていた。サイエンスだから未経験者も経験者になれるという米国流の主張である。それでPMBOK派はサイエンスという言葉を使いたがる。PMBOKはPMを体系的かかれている。経験者から見て素晴らしいと思う。しかし、未経験者は読んでも正しく理解できことがわかった。ものごととはそういうものである。
今のIT業界は95%PMBOK支持者である。然るにWBSを書くことができない。WBSを書けなければすべてのコントロールができない。何故WBSがかけないかというと構想計画をつくって仕事をしないからである。しかし、WBSが書けない道理すら知らない人が多い。業界で戦略から始まり構想計画をつくると言う発想がないからではなかろうか。

本当は経験者をKKDとステレオ的にののしるのではなく、正しい経験の仕方を学ぶことが大切で、その手法はサイエンス的であり、かつアート(芸術的)であるといえる。

1.正しく経験するノウハウ
1) 新しいことに挑戦することである。
新しいことに挑戦すると、次のプロセスが行われる。@企画する、A計画する、B実行する、C順調に仕事が運ぶとは限らない。D問題は何かと自問する、E問題点を発見し、対応を考える、F解決策を考え、アクションプランをつくる、G実行し、問題解決する。この8つのステップを抜きに経験をつむことはできない。
繰り返し行っている業務を10年間続けても10年のキャリアとはいえない。1つの職場に3年にいたら、学ぶことがなくなってしまう。まして管理職になるとこのステップを踏むことができないため、地位は上がるが、職場を離れたらただの人で他の場所で活躍することはできない。
2) 経験のサブシステムの蓄積
経験者と言われるためには1)のステップを実行することで、経験のサブシステムが脳内に蓄積する。このサブシステムをたくさん持つと、トラブルや問題に遭遇しても、この問題はサブシステム1で解決できる。1+2+3で解決できると頭が回転する。これを我々経験者は勘と呼んでいる。勘の働かない鈍感な人間はプロマネをやらないほうがよい。

勘の育成

2.人の経験を盗み取るノウハウ
 社内の多くの先輩は知っているが自分にとって初めての仕事がある。これらは一般書を読んでも役に立たない。しかし日本の企業はマニュアルやスタンダード、プラクティスが完備されていないから何から手をつけてよいか良くわからない。そこで自在氏の取った裏業を伝授する。
1) 親切で面倒見のいい経験者A氏を紹介して貰い、「XXをお聞きしたいのですが、全てわからないので質問の仕方もわかりません。この問題の概要を教えてください」と頼み、メモを取っていく。
2) そこで別の経験者B氏を紹介してもらう。ここでは概要がわかったため、何を質問していいか理解している。質問書をつくり、シナリオに従って質疑しメモをつくる
3) 同様な作業を繰り返し、最低3人、最高5人から話しを聞く
4) A氏からE氏までのメモを整理し、このメモをコピーし、A氏からE氏を再度訪問し、メモの結果を説明し、私はCさんの発言が最も正しいと思うがどうだろうかと相談する。
整理する:人の経験を聞き、仕事に使うには、メモをまとめて自分なりの結論を出すことで、他人の経験を正しく、早く掴むことができる。これが裏業である。
表業は何か。まとめて整理し、これを質問者と討議することで暗黙知が形式知に転換できる。同時にあなたは社内で多くの好意を持ってくれる人脈を掘り当てることができる。自在氏の経験則によれば、「人は教えてくれる人より、教えを乞う人間に好意を持つ」からである。
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