P2M研究会
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P2M「洞察力モデルを活用した地域開発」研究

国谷 正:6月号

はじめまして。東京P2M研究会の国谷と申します。今回は、2007年度研究テーマである洞察力モデルの研究において、種々の問題に遭遇し、その中で学んだ問題点についてお話します。

P2Mは、大きく捕らえてプログラムマネジメントとプロジェクトマネジメントの2つで構成されており、PMBOKなどに見られる従来のプロジェクトマネジメントと比べて、経営レベルまでを網羅していることが高い特徴です。ここでプログラムマネジメントとは、企画者の想いを全体使命として具現化し、様々なプロジェクトの基幹となる戦略・戦術を構築し、各プロジェクトの構成形態までを構築していくものです。この中で想いを具体的な目標へと導く手法として、プロファイリングマネジメントというのがあります。
これは、「ありのままの姿」を解析し、そこから洞察力で「あるべき姿」を描くことで新しいプログラムやプロジェクトの構想計画を進める有力な手法です。
私はP2M研究会でこの洞察力をどのようにして導き出すかという研究を1年間行い、洞察力モデルとしてIOW-Kモデルを考案しました。これをPMシンポジウム2007で発表した後、このモデルを使って某市の商店街活性化プログラムの調査研究を行いました。

公共のサービスプロジェクトをまじまじと見るのは実は今回が初めてでしたが、その目的、方針、内容の多くがあいまいなままになっていることにあらためて気づかされました。プロジェクトに参画している人は皆、なんとかしなくては、と思っているのに、それがなかなかうまくいかない。その理由の1つがここにあると思いました。プロジェクトマネジメント的に言えば、目標を明確にしろ、となります。同じ公共プロジェクトでも建設プロジェクトは仕様が明確です。では、なぜサービスプロジェクトはあいまいな部分が多いのでしょうか。

その原因の1つとしては、恐らくステークホルダー、特に市民の要求事項が多岐にわたるからではないかと思います。「市民」とひとくくりにしても、それを詳細に見ていく(ブレークダウンする)と、商店保有者、商店運営者、近隣住民、商工会運営者、商店街通行者、商店街から離れたところに住む住民、など多岐に渡ります。これらの要求事項は様々であり、また商店保有者一つとっても、そこで利益を出すことを求める人、そこで生活することを求める人、そこで人とのふれあいを求める人、様々な想いが関わってきます。これらを全て「活性化プロジェクト」で満足度を達成させる事が可能でしょうか。成果基準・価値基準が共通化出来ない中で1つのプロジェクトでこれらの基準を満たすのは、非常に困難なことではないかと思います。

さらに、高いレベルでこれを考えようとしたときに、「なぜ市民の要求事項は一つにならないか」と考えていくと、実は市民の方々が自分のことだけを考えているからではないか、という気がしてきます。「お祭りをする」などといった場合には、互いの共通目標の設定は容易ですが、こと自分の生活に関わる部分になると、共通目標の設定は非常に困難なものとなってきます。なにしろ、何をどこまでやれば自分が幸せと感じるか、は人によって異なりますから。「不便、不幸せ」も同様にあいまいな基準です。そういった意味では、「困った事は全て行政」という考えを市民がお持ちの場合、行政が何をどこまでやればいいのか、という基準・目標の設定は非常に困難ではないかと思います。

行政・公共プロジェクトの成功率を挙げるには、市民それぞれが「全てを行政が行うのは無理」という前提に立って、市民共通の達成目標として必要なものは何をどこまで行うのか、という議論をした後に行政プログラムを検討していくことが大事ではないだろうか、というのが私の最近の想いです。行政プロジェクトの成功率を本当に高めるには、行政の仕事のやり方だけでなく、われわれ一般市民の行政に対する考え方も合わせて考えていかなくてはならないのではないかと思います。そういった観点から、多岐にわたる本プログラムの実施には高いレベルでのP2M技術が必要ではないかと思います。

今回の検討で、行政が施策として取り扱う「商店街活性化」というテーマは、複数のプロジェクトを含む、曖昧、多岐な典型的な「プログラム」であるということが分かりました。また、そのことを、行政当局、審議会、商工会等に実践で示し、P2Mの啓蒙をすることができたと思います。そして、公共のプログラムにこそP2Mが必要ではないかと感じました。今回はそういった面で従来の公共プログラムに一石を投じたのではないかと思っております。またP2Mでは、建設系・IT系・開発系、といった分類がなされていますが、公共系といった分類があってもいいのかもしれません。

このテーマは先日行われた国際P2M学会2008春季大会で発表し、好評を得ました。
しかし、私の研究はまだまだ発展途上であり、今後も引き続き研究を続けていこうと思っています。
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