海外でのITプロジェクト実践 (13) 「検収」
向後 忠明:4月号
イギリスのヒースロー空港に着きロンドン市内のホテルにチェックインし、その日は何もなく1日自由行動でした。ロンドンの街をぶらぶらし、町並み探索したり、喫茶店に入って窓の外を歩く人通りを眺めたりしていしました。
ロンドンの町並みはコンクリート作りで整然とし、歩く人達も多種多様であり、服装もファッショナブルでT国とは趣が全く異なり、久しぶりにほっとしたものを感じました。
夕方はロジカ社の招待でテームズ河に浮かぶ船のレストランで夕食をごちそうになりました。夕刻の日が沈む直前でしたがウエストミンター橋を見ながら、そしてビッグベンの鐘の音を聞きながら夕食をとりました。
これまでの仕事のストレスや悩みを忘れる1日でした。
翌日はロジカ社とのインターフェース問題の話し合いとなりました。話し合いは双方とも事前に十分な検討を行っていたので、これまでの作業結果の確認とそれに基づく決定事項への承認といった内容のものとなり、大きな問題はあまり出ませんでした。
ロジカ社もソフト会社としてはかなり優秀と言われたところであり、これまでの付き合いでも確かに技術的な議論を進める上でも頼りになりました。
そして2日ほどの滞在でしたが,我々はヒースロー空港を飛び立ち、一路T国にむかいました。
早速、この結果に基づきプログラムの改定を行い、T国駐在のロジカ社の技術者との確認作業も終えて、最終の総合システム結合試験を行いました。
担当者の全員が固唾を飲んで見守る中での最終テストであり、私も責任者として神に祈る思いでした。
中央銀行側の担当者が送ったメッセージが確認メッセージとして来てくれればシステムは繋がったことになります。
結果としては無事にこの作業を終えることができました。しかし、ほっとする間もなくさらに細かい残務事項の調整を行い、次の引渡し試験に間に合うように全員フル稼働でその作業に入りました。
ここまで来れば、よほどのことがない限りシステム引渡し試験も問題ないと感じていました。そして、スケジュール通りにシステムの最終引渡し試験も終了し本番商用稼働となりました。
その商用運転のスイッチを入れるのは中央銀行総裁であり、自らオンライン端末に座り全銀行へシステム開通の知らせる同報(一斉)メッセージを発信するということでした。
全国銀行協会幹部、中央銀行副総裁、関連部署の幹部、職員、そしてN社役員等々の見守る中でのスタートです。
前日までテストにテストを重ね、万全を期したつもりですが、居合わせたプロジェクトメンバ全員は緊張の極度であり、コンピュータセンターの真ん中にあるT国のお守りである青い眼玉に成功を祈るほかありませんでした。
総裁が簡単な周知文を端末にてタイプし、オペレーションルームの全員を見渡し「さあ、これから発信します」とみんなに声をかけました。
プロジェクト関係者の背筋に極度の緊張が伝わり、あるものは神に祈ったことと思います。
私も同様でした。
全員が固唾をのむ中、総裁が全員からキーボードが見えるように体を開き、ゆっくりEnterキーを押しました。・・・・・・・・・・・・
次の瞬間、全参加銀行のリレーコンピュータから受信確認メッセージが自動的に届き、同報メッセージがすべての参加銀行に受信されたことが確認できました。
総裁の傍らにいたオペレータが開通の確認を告げると、総裁は立ち上がり、
「これはT国銀行業界の歴史における飛躍的発展である!」
と最大級の賛辞を行い、関係者全員に握手を求められました。
この成功は瞬く間に各国の中央銀行に知れ渡ることになりました。
この喜びはプロジェクトメンバ全員の喜びであり、その喜びを携えて、2名のメインテナンス要員を残し、全員日本に帰ることができました。
プロジェクトマネジャとしての私も総裁からもN社会長、役員からも称賛され「穴があったら入りたい」気持ちでこのプロジェクトの成功をかみしめることができました。
このプロジェクトがきっかけで古巣のプラントエンジニアリング会社を辞めることになってしまいましたが、このプロジェクトの成功で「この転職も悪くなかったな!」との実感をこの時になって感じるようになっていました。そして、システム開発プロジェクトの面白さと重要さも知ることになりました。
最後に、私は現在ITとは異なる新技術に基づく開発型プロジェクトに取り組んでいます。また、来月は4月で新年度でもありこれを機会に今月にて「海外でのITプロジェクト実践」シリーズを完了したいと思っています。
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