PMプロの知恵コーナー
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「夢工学(63)」

川勝 良昭 [プロフィール] :2月号

悪夢工学

第11部 危機に直面した日本

4 従来の人事組織論

●暗黙の前提(Implicit Assumption)
 多くの学者、経営者、コンサルタント、コーチャー、メンターなどが説く「人事論」や「組織論」など人に関する理論や技術論は、「善意、善徳、善行」の人物を対象者とすることを暗黙の前提(Implicit Assumption)として構築され、説かれている。

 しかしそれらの理論や技術論は、「悪意、悪徳、悪行」の夢破壊者に対して有効性がどうか、はなはだ疑問である。にもかかわらず夢破壊者を対象とした人事論や組織論は、筆者の知る限り聞いたことがない。よくよく考えると極めた不思議なことである。何故なのだろうか。

 そんな理論や技術論は、無駄だ、不合理だ、不道徳だ、不倫理だと思われているのだろうか。またはそんな理論や技術論は、学問的に評価されないからだろうか。はたまた地球上の64億の人間は、生来「善意、善徳、善行」の人物と考えているからだろうか。

●明確な前提(Explicit Assumption)
 世の中に存在する人事論や組織論を「善良、善徳、善行」の人物を対象とする「表」の人事論や組織論と言える。しかし「表」だけで悪夢苦悩者を救えない。そして真に優れた人格者の人財の発掘と養成を難しくする。

 悪夢工学は、「悪意、悪徳、悪行」の人物である夢破壊者の存在を明確な前提(Explicit Assumption) として、当該破壊者を如何に見付け、如何に対処するかを説く。従って悪夢工学の考え方と方法論に基いた所謂「裏」の人事論や組織論も必要であろう。このことは、人事論や組織論だけでなく、経営論にも言えることである。

●従来の人事論と組織論
 企業の人事論や組織論は、実に様々な観点から多くの専門家によって議論され、その結果に基き、実践されている。その議論の概要を列挙すれば以下の通りである。

 先ず「人事論」に関しては、人間論、リーダーシップ論、フォローシップ論、人事制度論(採用、人事考課、昇進・昇格、配置、異動、勤務条件=賃金、労働時間、福利厚生、教育・訓練)、終身雇用論、年功序列論、キャリア開発論、人材育成論、能力主義論、成果主義論などがある。

 次に「組織論」は、組織文化論、戦略的組織論、事業運営組織論、組織構造論、ライン・スタッフ論、組織階層論、組織構成要素論、組織ネットワーク論、機能別組織論、マトリックス組織論、事業部制組織論、安定環境対応組織論、不安定環境対応組織論、バーチャル組織論、行動科学的組織論などがある。

●B1に有利な従来の人事論や組織論
 従来の多くの人事論や組織論は、上記の通り、「善意、善徳、善行」の人物を対象とすることを暗黙の前提として構築されている。そのためこの前提に該当しない「悪意、悪徳、悪行」の人物に従来の人事論や組織論を当てはめると却って大きい問題を発生させる。

 このことに多くの経営者や人事担当者は気付いていない。或いは気付いていても従来の人事組織論に疑問を呈したり、現行の人事制度や組織制度を見直すまでに至っていない。まことに不思議なことである。悪夢工学の観点から見ると、その様な疑問提示や制度見直しは、ひょっとするとある人物やあるグループにとって不都合なので封じ込まれているのではないかとさえ疑いたくなるほどである。

 筆者は、声を大にしてあることを主張したい。それは、従来の人事論や組織論による人事制度や組織制度は、Bタイプの人物にとって極めて好都合な結果を生んでいるということである。この様な状況が存続する限り、B1で代表される人物が優遇され、A1で代表される人物は冷遇される。そして様々な問題が起こり続けることである。企業不祥事は、それらの問題のほんの一部に過ぎない。

 大きい問題を引き起こす人物の中で最も強力な元凶の人物は、勿論、B1の人物である。B1は、既に述べた通り、従来の人事制度や組織制度の下では誰より最も早く認識され、誰よりも最も高く評価され、誰よりも最も早く昇進する。この様な人物が中間管理者を経て、取締役や社長になるのである。そして遅かれ早かれ、社内的、社外的に取り返しがつかない深刻な問題を引き起こすのである。

第12部 新しい人事・組織論の提言

1 Aタイプの人物を支えるべし

●新しい人事・組織制度を求めて
 人のため、世のため「汗と涙と血」を流すことが出来るAタイプの様な人物を、誰よりも早く認識し、誰よりも高く評価し、誰よりも早く昇進させる様な人事・組織制度が数多く世の中に広まって欲しい。そしてその様な普及を促す人事論や組織論が数多く世の中で構築されて欲しい。

 筆者は、従来の人事制度や組織制度を改革するための「新しい人事・組織論」を提言している。それは、「夢工学的人事・組織論」と「悪夢工学的人事組織論」である。

●夢工学的 & 悪夢工学的人事組織論
 夢工学的人事・組織論は、「夢」を起爆剤とし、「善意、善徳,善行」な人物を暗黙の前提として構築された「夢工学」に基く人事・組織論である。

 悪夢工学的人事・組織論は、「悪意、悪徳、悪行」の人物を明確な前提として構築された「悪夢工学」に基づく人事・組織論である。残念なことに筆者の知る限り、この様な人事・組織論を聞いたことがない。

 夢工学的人事組織論と悪夢工学的人事組織論の提言を参考として、新しい人事論や組織論が世の中で数多く構築され、新しい人事制度と組織制度が採用されることを希求する。

 この様な人事・組織制度が普及すれば、国、企業、大学などあらゆる分野に於ける人々にとって夢の実現と成功が促進されるだろう。また悪夢に遭遇し、自殺や殺人などの究極的悲劇を回避することも可能となろう。

2 夢工学的人事組織論
●夢工学的人事・組織論の本質
 これは、一語で言えば「夢がすべて」とする人事・組織論である。「汗と涙と血」を流すことを厭わず、人のため、世のため夢を実現することに挑戦するAタイプの様な人物を最も早く発見し、最も高く評価し、最も早く昇進させる人事・組織論である。そしてこの人事・組織論を適時、適切に運営できる舞台と基盤(Platform)を構築(建設)し、日々円滑に運営することである。

 社長、取締役などのトップ層、部長、課長などのミドル層、係長や担当者などのボトム層のいずれもが共有した「夢」を実現させる挑戦をした時、その組織は、恐るべき力を発揮する。NHK放送番組「プロジェクトX」を見れば、共有した夢実現に挑戦する人々が信じられない力を発揮したことを容易に理解できるだろう。

 社長や部長などの上司は、「今年度の経営課題を具体的解決する方法を示せ」、「この問題を半年以内に解決せよ」などさまざまな目的達成や問題解決を命令する。部下はその様な命令を当然のごとく受け入れ、日々目的達成や問題解決に努力している。

夢工学的人事組織論の開発、構築、運営
    VPM
Vision &
Planning
Management
  PM
Project
Management
  OM
Operation
Management
夢工学的
人事論

「夢がすべて」
とする人事論
新人事ビジョン &
計画の開発
新人事の舞台
& 機構の構築
(Platform)
新人事の運営
夢工学的
組織論

「夢がすべて」
とする組織論
新組織ビジョン &
計画の開発
新組織の舞台
& 機構の構築
新組織の運営

 課題や問題が解決し、目的が達成されたら何が生まれるのか。目的というが、その目的達成の暁に「夢」が達成されるのか。「夢」達成に至る何かが達成されるのか。実はここに問題の本質が横たわる。

 筆者はその共通目的、共通課題、共通問題が組織メンバーの夢と何らかの形で合致していると予め認識されていることが重要であると考えている。この夢とは人から、上司から、社長から与えられたことではない。自分が持っている夢が直接的または間接的に達成できる組織に自分が帰属していると認識できることが最も重要なことである。

 この場合の「夢」は、目的、課題、問題という表現で表されたコトガラではない。「実現したい目的や課題」「大好きな問題解決テーマ」などの表現が可能なコトガラであるかどうかである。意欲や情熱など感性に訴えるコトガラを持った人物を組織化し、組織運営することが夢工学的組織論の本質である。

 夢工学的人事論の本質は、以上の通りである。しからばその内容やその内容に基く新しい人事・組織制度の構築方法などについては、紙面の関係から別途の機会に述べることとしたい。
つづく
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