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P2Mと社内プロセス改革

川口 莊太郎:1月号

1. はじめに
 私は 05年 11月に PMRの第 1次試験を、05年 12月〜06年 2月に第 2次試験を受験した。PMR試験のベースとなる P2Mは、私自身のスキル向上に大いに役立ったと感じている。これは P2Mが従来からの PMの知識体系とは異なり、企業の経営戦略も意識しながら超上流工程から納品後のサービスまでをマネジメントの対象としていることが大きいと考えている。
 私は PMR資格を取得後、数ヶ月間、トラブルプロジェクトの対応に従事した後、今回報告する社内プロセスの改革に取り組むこととなった。

2. プロジェクトマネジメント上の課題
 当社が受託するビジネス規模や業種の拡大に伴い、プライムとしてプロジェクトライフサイクルを通じて担当するケースが増え、プロジェクトマネジメント上のリスクが高くなってきた。その背景に、プロジェクトを実行していく上で、『プロジェクトの捉え方の課題』、『プレ・プロジェクトでのリスクヘッジの課題』、『プロジェクト計画策定の課題』、『プロジェクトマネジメントプロセスの課題』、『プロジェクトの視点でのモニタリングの課題』、『リリース後の運用・保守サポートの課題』などが存在していた。

3. 社内プロセス改革への取り組み
 上記のプロジェクトマネジメント上の課題を解決するため、今回図1に示すようなプロセス改革に着目した。個々のプロセス改革の具体的な概要を以下に示す。
図1.社内プロセス改革の概要

(1)プロジェクトの捉え方とマネジメント対象 時期の改善
 従来より当社では、作番という単位で作業のマネジメントを行っていた。作番とは、本来、製造業などでサブ工程単位あるいは業務機能単位に図面(設計書)に基づき作業指示を明確にしコントロールするものである。システム開発プロジェクトでも単一機能のプログラム開発には有効であったが、複雑な機能を持つシステムや複数部署との連携作業をコントロールするには不向きな点も多かった。今回の社内プロセス改革では、プロジェクトとしてのパフォーマンスを的確に捉え、プロジェクトライフサイクルを通じて PDCAサイクルを効果的に実行していくため、対象を作番ではなく、プロジェクトとしてマネジメントできるよう、改善を図った(図2参照)。
図2.プロジェクトの捉え方

 具体的には、お客様の視点で捉えることができ、最終的にお客様に提供する商品やサービスを創造する業務をプロジェクトとして定義した。これにコードを付与してマネジメントを行う。このとき、受託が決定した時点ではなく、それよりも以前の引合い・見積の時点からコードを付与する。これは、P2Mでモデル化している『スキーム』/『システム』/『サービス』の中で、『スキーム』のタイミングからプロジェクトを立上げマネジメントして行く考え方そのものとなっている(図3参照)。
図3.プロジェクトモデルの対象範囲

(2)プレ・プロジェクトでのリスク極小化
 プレ・プロジェクトでのリスクを極小化するため、次の2点について改善を行った。
@見積時のリスク評価(チェックリスト使用に よるリスクの評価)と標準WBS適用の義務付け
A見積時からプロジェクトのライフサイクルを通じたPMOによる第三者チェック
(3)プロジェクト計画のシステム化とプロジェ クト計画の策定強化
 今回、プロジェクトの計画書作成をシステム化し、ライン側の負担軽減とプロジェクト計画情報の蓄積・活用による計画策定の強化(質の向上)を図った。このシステムでは、PMBOKに準拠した計画書策定テンプレートを用意し、統合マネジメントを除く8つの知識エリアに関する計画策定と、セキュリティ情報管理、計画書の改訂管理の機能を独自にサポートした。
(4)プロジェクトマネジメントプロセスの整備
 具体的なプロジェクトの遂行プロセスでは、自社にてプロジェクトの見える化ツールを開発し、プロジェクトのパフォーマンスデータの蓄積と可視化ができる仕組みを構築した。また、同時にステークホルダー間の情報共有化と、成果物と連携した進捗管理を行えるようにした(図4参照)。
図4.当社が開発したプロジェクト見える化ツール

(5)重点監視プロジェクトに対するPMOによるモニタリング実施
 今回のプロセス改革の結果、各部門のPMOはプロジェクト単位でモニタリングを行うことができるようになり、重点監視プロジェクトに対するモニタリング強化の基盤が確立できた。また、プロジェクト単位のモニタリング情報を定期的に経営層にエスカレーションし、さらに各マネジメント間 で情報共有できるように改善した(プロジェクト状況が一目でわかる『プロジェクト天気図』等。図5参照)。
図5.プロジェクト天気図

(6)保守・サポートプロセスの改善
 今回、お客様のシステムに関する情報を共有化できる顧客サポートシステムを新規に開発した。これにより、予防保守を含め、障害発生時等への迅速な対応が可能となり、お客様に安心・快適にご使用いただくための仕組みが構築できた。

4. プロセス改善後の効果
 当社では今回のプロセス改革を第1フェーズと位置付け、基本的な改革を07年3月末までに完了した。07年4月からは、新たな社内プロセス及びシステムによってビジネスを展開している。現在までの効果について、以下の通り報告する。
(1)定性的効果
@プロジェクトのリスク識別及び目標・ゴールの明確化のための基盤確立
 従来の作番管理からプロジェクト管理への転換が実現でき、プロジェクトベースの引合い・見積段階でのリスクの識別とゴール・目標の明確化が図れるようになった。
A情報共有化のための基盤の確立
 引合い・見積から保守・運用まで一連のプロジェクトライフサイクルを通じて、情報の共有化が図れるプロセスとシステムの基盤が確立できた。これにより進捗報告等のプロジェクト会議のあり方も改善することができた。
(ペーパーレス化、分散拠点でのTV会議運営等)
Bプロジェクトの実績情報蓄積とナレッジ活用のための基盤の確立
 従来では蓄積が一部に限られていた、あるいは全く存在しなかったプロジェクトの実績情報が定常的に蓄積できるようになった。この蓄積された情報やデータを基に、見積りやEPM(Empirical Project Monitor)等へのフィードバックあるいは活用を図る計画である。
(2)定量的効果
 定量的な効果としては、現在までの実績ではあるが、黒字プロジェクトの絶対額がアップし、売上高に対する赤字プロジェクトの割合が減少している結果が得られている。

5. 今後の取り組み
 今回の社内プロセスの改革を通じて、引合い・見積から運用・保守までの一連のプロジェクトライフサイクルプロセスの改善が実現できた。しかし、今後のビジネス環境の変化やグローバル化の加速化等により、さらに経営効率性や業務最適化に向けて継続的に改善を図っていくことが重要と考えている。今後、次の課題に取り組んでいく。
(1)経営指標(KPI)の明確化と経営コックピット 機能のサポート
(2)プロジェクトマネジメント力の継続的強化
(3)定期的な効果の検証と継続的な改善

6. おわりに
 本論文では、作番という従来の管理手法からプロジェクト管理への改革とプロジェクト見える化ツールの適用を中心に、具体的なプロセス改革の取り組み概要について述べた。現在までの効果を見る限り、期待できる見通しを持っている。今後は、KPIを整備し経営戦略と効率的に連携したビジネスプロセスの確立と、それに基づく継続的なプロセス改善を図っていく所存である。
 世の中が目まぐるしく変化しグローバル化がますます進展していく中、継続的なプロセス改革は企業の存続にとって不可欠と考えている。さらに、IT業界のプロセス改革では、変化に対応し得るフレキシブルな仕組みの構築と、情報共有化とセキ ュリティ確保のバランス、プロジェクトマネジメ ントとソフトウェアエンジニアリングの融合等が今後重要な鍵と考えている。
 新年を迎え、新たなるプロセス改革へのチャレンジを試みていく所存である。

<参考文献>
[1]P2M プロジェクト & プログラムマネジメント標準ガイドブック,資格認定センター
[2]PMI,プロジェクトマネジメント知識体系 ガイド第3版(PMBOKガイド),PMI,2004
[3]“PMOによるパフォーマンス向上のための 第三者チェックの強化”,引地輝弘他,プロジェクトマネジメント学会 2007秋季研究発表大会予稿集,2007
川口莊太郎 1985年日立東北ソフトウェア(株)[現在の(株)日立東日本ソリューションズ]に入社。スーパーコンピュータ向けの大規模開発プロジェクト、公共・金融・産業系のシステム構築プロジェクトに従事、社内 PMOとして、特に問題プロジェクト対応に当たる。
現在はプロジェクトマネジメント統括本部生産技術部にて全社の生産性向上施策の立案・ 展開活動を推進中。
PMAJ認定PMR、米国 PMI認定PMP、経営品質 協議会セルフアセッサー、ISO9001内部監査員

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