PMプロの知恵コーナー
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ダブリンの風(56) 「サブリーダ」

高根 宏士:12月号

 プロジェクトにはプロジェクトリーダが必ずいます。というよりもプロジェクトにはこの役割の人間が必要不可欠です。必須ではないが、プロジェクトによってはサブリーダというポジションの人間がいることがあります。今回はサブリーダについて考えてみましょう。
 「サブ」という言葉は日本語で「副」と言い換えることができるでしょう。副社長から始まって、副事業部長、副部長、副課長などはそれぞれサブ(副)の立場です。「副」の立場は微妙です。それは肩書きだけはでは役割と責任がはっきりしないからです。社長、部長などはその職制での公式的責任者であり、それだけで役割と責任は想像できます。ところがプロジェクトのサブリーダも含め、「副」がついた途端、その肩書きだけでは役割が曖昧になります。「正」(プロジェクトの場合はリーダ)が「副」をどのように位置づけるかでいろいろな立場になってしまいます。
 「副」という肩書きからその立場を整理してみると、「正」の全面的信頼がある場合には正の立場よりも華やかに活躍できることがあります。もちろん本人の実力がそれに伴わなければ却って馬脚を現すことになりますが。全面的信頼には、「正」が「副」を自分よりもリーダにふさわしいと判断し、最後の責任を取ることだけを意識して、プロジェクトの推進を「副」に全面的に任せる場合と、「副」を将来のリーダとすべく育成を意図しながら大きく見守る場合があります。どちらにしても「副」としては至福の立場にいることになります。
 「正」から役割と責任をきちんと与えられている場合は単純です。役割ははっきりしていますから、部下としてその役割を果たすという普通の行動をすれば大過ありません。ただしこの場合「正」との役割が完全に分離され、独立的に運営されている場合は、要注意です。それでうまくいくならばプロジェクトを2つに割ったほうがよいでしょう。「正」と「副」の役割分担には「正」の見識が問われます。
 これまで述べた2つのケースでは「副」はそれなりに責任を自覚して頑張れる立場にあります。しかし通常のプロジェクトや組織では「副」は形だけで、役割や責任もはっきりせず、お飾りになっているか、担当者よりもレベルの低い雑用係になっている場合が少なくありません。
 「正」から役割や責任を与えられていない時は「副」は現実には動きにくいです。多くの場合このとき「正」はプロジェクト体制について、特に「副」について何も考えていません。その中には「本当に何も思っていないケース」と「ただ悩んでいるだけで、本当の意味で考えていないケース」があります。前者のケースは体制上の役割は単にステータスを表す肩書きに過ぎないと考えており、プロジェクトマネジメント等の考え方を知ろうともしていないようなことがあります。後者のケースは「副」を何とか処遇して、使いたいとは思っているが、どのように使ったら良いかわからない場合と「副」に引け目を感じて使えない場合とあります。
 いずれにしても役割や責任がはっきりしない場合は「正の性格」がキーになります。性格が悪い場合は必ず「副」に対して嫉妬心と自己保身の思いから対応してきます。したがって「副」は下手に動くと足を引っ張られることになります。極端になると「正」は「副」の排斥運動までやらかすことになります。しかしこのようなプロジェクトはうまく推進されていません。したがって「副」が「正」に気を使うあまり、何もしなければ結果は「正」と一緒に沈没することになります。
 「正」の性格が良い場合には、「正」を指導するか、「正」に代って「正」の仕事を代行し、正の実績を上げてやることが効果があります。ただし通常の場合「正」を指導することは難しい。「正」としてのプライドを外して謙虚に指導を受けるリーダならば、当初のケースのように、「副」を認めて「副」に全面的信頼を寄せてくるはずだからです。したがって「副」には「正」の仕事を代行しながら「正」に華を持たせるという大きな視点が必要でしょう。いずれにしても「副」の立場が難しいことに代りはないでしょう。
 それでは「正」として「副」の役割をどのように考えればよいでしょうか。まず「副」は基本的には必要ないものであり、「副」を設けるのは「正」がその役割をよりよく果たすためであるということを認識することが必要でしょう。そこで考えられることは「正の役割」の信頼性と負荷対策ではないでしょうか。信頼性とはリーダが不在とかであっても基本的にはリーダの考えを踏まえて、プロジェクトの通常処理やディシジョンを滞らせないようにすることです。江戸時代における江戸詰めになった殿様の留守を預かる国家老の役割です。
 プロジェクト(特に大規模な)リーダのやるべきことは多岐にわたりますし、個々のことを処理する能力は充分にあっても時間的には不可能に近い場合があります。負荷対策とは、この場合に全体としてのプライオリティ等を考慮してリーダの仕事を「副」に分散させることです。内閣における官房長官の立場がこれに近いでしょう。
 最後にプロジェクトにおいても、組織においても「副」は必須ではなく、「正」が自分の判断で設ける役割であり、「副」を活用できるかどうかは「正」の人間性と手腕にかかっていることを注意しておきたいと思います。
以上

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