PMP試験部会
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「プロジェクト遅れについて」
〜遅れ事象の分類とスケジュール解析手法〜

PMP部会 芥川 光三:PMP:11月号

1. はじめに
 PMP受験を目的にPMBOKの読込みを行ったとき、業務を通して習得した知識・体験が知識体系として再構築され、実務を行う上でプロジェクトメンバーと業務を整理したで進める事が出来るように感じた。同様な感じを持たれた読者も少なくないと思われる。

 今回のテーマは、プロジェクト遅れが賠償金に絡むような場面に遭遇し、プロジェクト遅れについて整理を行った。PMBOKの中で記述される「プロジェクト・タイムマネジメント」の知識を少し進めて、実務の中でプロジェクト遅れについて一般的な考え方・捉え方を紹介したいと思います。
 Project遂行において常に計画スケジュールからの 乖離(先行/遅れ)が起こる。 特に「遅れ」が発生した場合が問題となり、これは人類が生産的活動を初めて以来、古今東西多くの先達・専門家が議論・研究してきた課題であり、国際的に共通な考え方・捉え方となっていることがある。 また、客先、協力業者(設計業者、工事業者)等と「遅れ」に関して補償含めた論争となる事もあり、「プロジェクト遅れ」の一般的な考え方・考え方を知っておく事は発注者、受注者のどちらの立場においても大切と考えられる。尚、Construction Delays(Theodore J. Trauner, Jr.,著者)を参考としております。

2.遅れ事象の分類
 私達は、当初計画されたプロジェクト完工期日より遅れが発生した場合、その遅れ事由により補償が発生したり、しなかったりケースがあることを経験しています。一口に「遅れた。」と云ってもシリアスの度合いに違いがあります。
   遅れはその内容により1)許される遅れかどうか(EXCUSABLE AND NON-EXCUSABLE DELAYS)、許される遅れは、2)補償される遅れかどうか(COMPENSABLE AND NON-CONPENSABLE DELAYS)、と分けることができます。また、許される遅れかどうかは3)その遅れ発生状況(CONCURRENT AND NON-CONCURRENT DELAYS)に分類でき、以下の様に示すことが出来る。

遅れ事象の分類

 一般に、プロジェクト実施中に発生する事象は下記の表「遅れ事象の分類(例)」にまとめられるが、実際のプロジェクトでプロジェクト遅れクレームを行う際は、契約書の規定、受注者がコントロール範囲か、予測可能な範囲か等、プロジェクト固有の条件を精査・検証することが必要です。

遅れ事象の分類 (例)
  許される遅れ 許されない
遅れ
補償されない 補償される
ストライキ    
洪水    
火災    
地震    
発注者の変更    
サイト条件の違い    
第3者(部外者)の干渉    
官庁許認可の遅れ    
下請け工事業者の遅れ    
発注機器の納期遅れ    


3.スケジュール解析手法
 前項でプロジェクト遅れが発生した場合、その原因により補償が発生するかどうかを示しましたが、ここではスケジュール遅れの原因を特定する解析手法を紹介したいと思います。
 一般に、解析に使用するスケジュールはNetwork ScheduleでCritical Pathをもつ適切なスケジュールが準備されていることが前提となりますが、解析手法として主に次の3つ
        −As-Planned Impacted手法
        −As-Built Collapsed手法
        −Window Analysis手法
        に分けることができます。

1)As-Planned Impacted手法
 As-Planned Impacted手法は計画時点のスケジュールを利用し、遅れの原因を計画スケジュールに反映してプロジェクト完工期日に与える影響(遅れ)を評価する手法でwhat-if手法とも呼ばれます。
 議論となる遅れの因果関係をシンプルに表示し分かりやすいことがメリットですが、計画通りに進むことを前提条件とするため、プロジェクト遂行中に発生する変化、プロジェクトのダイナミズムが反映されません。

2)As-Built Collapsed手法
 As-Built Collapsed手法は実績を基にスケジュールを作成し、遅れの原因を実績スケジュールに反映してプロジェクト完工期日に与える影響(遅れ)を評価する手法で、But-for手法とも呼ばれます。
 As-Planned Impacted手法と同様、議論となる遅れの因果関係をシンプルに表示でき分かりやすいことがメリットですが、実績スケジュールはプロジェクト遂行中に発生した複数の遅れ原因がある場合、例えば発注者の建設現場の引渡し遅れと受注者の建設現場引渡し後に必要となる施工図書の遅れが発生した場合、それぞれの原因がプロジェクト完工期日に与える影響(遅れ)の変遷を示すことができません。

3)Window Analysis手法
 Window Analysis手法はプロジェクト遂行中のある時期にスケジュール更新を行い、その時点で発生した遅れ原因がプロジェクト完工期日に与える影響(遅れ)を評価することを繰返す手法で、Time-slice手法とも呼ばれます。
 As-Planned Impacted手法、As-Built Collapsed手法が計画あるいは実績スケジュールという固定されたアクティビティ−依存関係をベースにプロジェクト完工期日に与える影響を評価するのに対し、Window Analysis手法は定期的にスケジュールを更新することにより遅れ原因がプロジェクト完工期日に与える影響を変遷として示すことができる。特に新たな遅れ原因が発生した場合はそれぞれの遅れ原因がプロジェクト完工期日与える影響度合いが評価することができ、異なる遅れ原因を比較評価できる。
  
 スケジュール・コントロールとしてスケジュール更新を行うことがPMBOKに記述されているが、単にスケジュールを更新することだけではなくインプットの実績情報等を記録として残すことが解析時の遅れ原因を記録することにもなり、基本通り実施することがとても大切なことと認識させられる。
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