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「TPSに学ぶプロジェトマネジメントWG」
〜ITベンチマーキンクSIG〜

株式会社インテック 宮崎 友之:10月号

 1.はじめに
 TPSとはトヨタ生産方式(Toyota Production System)を指します。WGへの参加のきっかけは昨年1月にリーダの(株)FFC小原からのお誘いメールを頂き、真っ先に参加の意思表明をいたしました。それは、私自身、トヨタ自動車の基幹系システムの開発で要件定義から本番まで3年間以上マネジメントに携わり、その経験から得たもの、さらには自身でトヨタ自動車に関する書籍を読んだ結果、TPSの考え方やツールは、同じものづくりであるITの現場と共通点があり、必ず生かせると思っていたからです。また、TPSそのものは自動車工場の生産現場から生まれたものですが、トヨタ自動車にも情報システム部門があり、そこには少なからずTPSの精神が生かされており、まさに我々が見習うべきものがあると確認していたからです。
 WGは、20代のプロジェクト・メンバーの方からTPS研究家のベテランまで30歳以上の年齢差がある方々が集まり、「ITプロジェクト現場を元気する」も目標に毎回議論し、活動しています。

2.今までの活動経過と成果
1年6カ月のWGの活動内容と成果について簡潔に述べる。
(1) メンバー間の知識共有フェーズ
 まず、WGはTPSに関する書籍、大野耐一著「トヨタ生産方式」やジェフリー・K・ライカー氏の著書「ザ・トヨタウェイ」等や論文をもとに勉強し、さらにトヨタでのシステム開発経験者が議論し、メンバー全員でのTPSに関する知識や経緯を研究した。この期間で得たものは、書籍などでは得られないもが沢山あり、私自身大変勉強になりました。

(2) IT現場の分析フェーズ
 次に自分達のIT現場を観察し、成功事例や失敗事例を数多く分析しました。その中でWGメンバーが実践しプロジェクトが成功しているケースでは、まず、毎日行う朝会の行動をタスク分割、作業割り当て、問題認識などに分析しました。ITプロジェクトの行動は、TPSにおける標準作業、チームワーク、なぜなぜ5回などと共通点があることがわかりました。
 次に、TPSを身につけた人たちとITプロジェクトを経験した人からヒアリングし、「基本に忠実。当たり前のことと当たり前のようにやることができる。」ことが最大の相違点とわかりました。

(3) IT現場とTPSを比較する。
 IT現場の成功例とTPSの具体的な相違点を議論しました。
まず、問題を発見した場合の行動が挙がりました。ITプロジェクトでは問題をエスカレーションしても問題が発見した人へ戻ってしまい、解決者になるケースが多くあります。エスカレーションしても変化がないので、IT現場では序々に問題を挙げなくなっていくことがあります。TPSではライン作業者が異常を発見してラインを停止できるアンドンなどの仕組みがあります。問題をエスカレーショ ンするため、「アンドン」をITプロジェクトにうまく取り入れられないだろうかに論点が挙がりました。
 次に、問題をエスカレーションするための組織環境を議論し、「風通し」が良い組織にするためには、問題が発生する現場にスポットライトを当てる必要があることを再確認しました。これには、TPSの「現地現物」が適用できのではないと考えております。
 最終的に、IT現場での成功例をまずPMBOKと関係付けし、次にTPSとの比較し関係付けしたものが、次の図1の一覧表である。
図1.IT現場での成功例(PMBOK)とTPSの対応表(2007/8/30 PMシンポジウムで発表)
成功例(朝会)   TPSツール
PMBOK
新規要件受入 新規の要件(スコープ、プロジェクト)を受け入れる。 プロジェクト憲章作成 かんばん
(引取)
後工程がかんばんで引き取りにきた部品[新規要件]を補充するため、製造する。
タスク
ばらし
経験により、実務レベルの作業(タスク)に分割し、コスト・期間を見積もる。 WBS作成
アクティビティ定義
標準作業
かんばん
(生産指示)
標準作業に従い、製造に必要なサブ部品[作業]のかんばんを発行する。
カレンダー
更新
担当者が分割した作業を引き取り、自分のスケジュールを個別に更新する。 アクティビティ所要期間・資源見積り 平準化
かんばん
(生産指示)
部品の流れに従い、各工程がサブ部品のかんばんを引き取る。
問題
共有
スケジュールや実行に関する問題を共有し、合意するまで議論する。 リスク識別
チーム育成
アンドン
チーム
ワーク
異常が発生した場合、アンドンによりリーダを呼び、チームワークで対応する。
実施
宣言
更新した全員のスケジュールを全員で議論し、各自が実施を宣言する。 スケジュール作成
チーム育成
平準化
多能工
売れるように、かつ、難度と量を平準化し製造するため、順序を決定する。付加を一定にするため多能工を活用する。
タスク
追加
問題解決に必要なタスクを追加し、担当を合意する。 リスク対応計画 なぜなぜ
5回
問題を2度と発生させない対策を導く真因をなぜなぜ5回で求める。
エスカレーション チーム内で問題解決できない場合、チームの結論を上司へ相談する。 ステークホルダーマネジメント 現地・現物
アンドン
管理者は現地・現物で問題を解決する。(机に座っていては、問題は解決できない。)
アンドンで問題発生を共有する。
チーム
変更
チームの負荷状況とメンバーのスキル育成を考慮し、チームを変更する。 プロジェクト・チームのマネジメント 省人化
星取表
現在の仕事から自分1人がいなくても良い省人化をし、星取表で不足する新たなスキルを得られる場を与える。

3.おわりに
 トヨタ自動車は日本一から世界一に成長しようとする今年は、まさにベンチマークするにふさわしいエクセレントカンパニーだと思います。また、最近のFAのロボットでもTPSの「アンドン」の考え方が使われているケースもあるようであ ります。
 当WGは、8月30日のPMシンポジウム2007での発表を一区切りとして、今後の活動は、TPSをサービス産業へ適用する場合について、議論・検討を続けていきます。
 下記が今後の活動予定です。
1)サービス業でのお客様への価値の流れを明確にして「あるべき姿を共有」する。
2)企業の組織価値とプロジェクト価値の2つのアプローチで「あるべき姿を共有」を研究していく。
   ・プロジェクト価値共有アプローチ (プロジェクト憲章・プロジェクトプロファイル活用)
   ・組織価値共有アプローチ(風土醸成=クレド)
 WGでは色々な立場や経験の方が議論するので、書籍では得られない気づきや日常のビジネスとは違う人脈を得ることができます。TPSは、大野耐一氏自身が「TPSは未完成」とおっしゃるくらいなので、活動は続けていきます。
 皆様のご参加をお待ちしています。

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