「プロジェクトX」の研究を通じて日本人のすばらしさに気づく
松下電器産業株式会社 人材開発カンパニー 小藪 康:8月号
昨年度、一年間にわたり、PMAJ関西の事例研究会の一分科会の中で、NHKの人気番組であった「プロジェクトX」に登場するプロジェクトを研究する活動を、「プロジェクトXに学ぶ-実践事例から見たリーダ像の探求 -」というテーマをつけて取り組んできました。
研究成果に関しては、結果報告やKOBEフォーラムでも発表をいたしましたので、すでにご存じの方もいらっしゃると思います。
そこで、ここでは、その研究の課程において、私が個人的に感じた部分について記載させていただきたいと思います。
なお、私の主観が多々入っておりますので、分科会の他のメンバーを代表する意見では無いことを、ご了承ください。
今回の研究をおこなうにあたり、プロジェクトXのストーリーの内、興味のあるものを10数話読みました。
もちろん、研究会の内容に直接に、反映していないものも、あるのですが、どのストーリーも、何度読み返しても胸にグッと迫るものがあり、中には思わず涙を誘い、通勤電車の中では読むことができなくなってしまうものもあります。
しかし、冷静に振り返って見ますと、家族や個人的な生活のかなりの部分に関して、何らかの犠牲を強いた上で成り立っている成功の物語が多く、しかも成功した結果として、企業内での地位が高くなり高給を受け取るようになったわけでも、苦労して作り上げた製品や技術をもって、大きな財をなしえたわけでもないと言うのが、大半のストーリーです。
ちょっと、表現は悪いですが、昨今のドライな風潮が強まっているビジネス環境の中では、「おとぎ話」に近いもしくは「昔の偉人伝」に近いものであり、そのようなものに、「大の大人」が涙を誘われるほど感動する(私も十分にその一人ですが)というのも、少々滑稽な感じはします。
ただ、私はこの感覚のなかにこそ、日本人のすばらしさが潜んでいるし、日本の本当の強さが隠れているのではないかと思います。
というのは、「プロジェクトX」のストーリーの中のプロジェクトのマネジャーやリーダが追い求めていたのは、名声や富ではなく(少々デフォルメされた部分は割り引いたとしても)、「自己実現」にあると考えるからです。
「自己実現」は、個人の欲求のもっとも高いレベルに位置づけられるものであり、「自己実現」が個人の行動の動機の主要な要因になるというのは、社会やその人物が所属している組織がそのレベルまで成熟している証拠となり、ひいては日本の社会の成熟度の高さを示していると思われます。
また、各個人が「自己実現」を求めている社会では、人間は能動的に動き、もっとも高い創造性や生産性を発揮すると期待されます。このような社会の姿に、感動し、共感できるということは、日本人が社会の成熟した姿に対して、明確なイメージをもち、また、そのイメージを国民全体で共感できるレベルにあるということであり、ここに国際的にも通用する日本人の本当の姿があるのではないかと思います。
昨今は、若い世代を中心として、なかなか「プロジェクトX」で語られるようなストーリーに共感を得にくい空気もあるようには感じます、ただ、一方では、物質的には十分恵まれた中で育ってきている世代には、「自己実現」や自己を表現することが、以前よりもっと強く求められているような部分もあるでしょう。
そう考えると、国際的に弱さばかりが語られることの多い日本に対して、もっと希望持った見方ができるのではないかとも思えます。
今年度の事例研究会でも「プロジェクトXに学ぶ」の分科会は、継続テーマとして取り組むことになりました。
昨年度は、プロジェクトマネジャーのコンピテンシーについてスポットを当ててきましたが、今年度は、それをさらにチームという単位に捕らえていきたいと考えています。
リーダの示すビジョンに共感し行動する個人と、その個人の総合力によって大きな力を発揮するチームのなかには、日本人のすばらしさをまた、発見できるのではないかと、非常に楽しみにしております。
以上
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