PMP試験部会
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PMBOK®ガイドの読み方(第16回)
―「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル」という本―

研修第2部会 加藤 亨,PMP,PMS:5月号

1. はじめに
 今回、「PMBOK®ガイドの読み方」というテーマに対して、PMI®のプロジェクトマネジメントに対する思想を理解した上で、PMBOK®ガイドを読むことの重要性を紹介しようと考えていたが、最近読んだある本が、私の考えていたことを見事に言いあらわしていたので、今回は、この本の紹介を通して、私の考える「PMBOK®ガイドの読み方」を展開して行くことにする。

2.プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル
 まずその本の紹介をしておこう。タイトルは「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル」、著者は、峯本展夫氏。研修第2部会のメンバーでもある。
 この本は、第一部をプロフェッショナルの責任から説きおこしている。ドラッカー氏の言葉を引用して、人間には、「個」としての人間と、「社会的存在」としての人間の2つの側面があることからスタートしてPMI®がPMP®に課したプロフェッショナルの責任の5つの課題(最近では4つになっているが)の意味するところを明快に説明している。日本では「健全性」と訳されている最初の課題の「インテグリティ」については、個の責任と社会的な責任を一致すること、すなわち、陽明学の「知行一致(知行合一)」に近い考えだと説明している。要は、「知っていることは、行動に現しなさい」ということ。そういわれてみると、確かに「インテグリティ」という言葉も素直に受け入れられる。ここを納得してしまえば、他の課題も、「わかったことを知識ベースに登録することに貢献しなさい。」「他のステークホルダーにも広めなさい。」などと、すんなりと理解できる。このコンテキストを広げれば、PMBOK®ガイドを読む上で理解すべきといわれているPMI®イズムについても、「WBSは良いとわかっているのだから、実際に使いなさい。」、「PMは社会的責任と個人の責任を一致させて行動しなさい(だから強い権限が与えられる。)」というということになるのだろう。この本を読んでみると、PMP®試験のオマケのように思われているプロフェッショナルの責任が、PMBOK®ガイドを理解するうえで、非常に重要であることに改めて気が付く。PMP®試験を受ける、受けないにかかわらず、PMBOK®ガイドを読むのであれば、プロフェッショナルの責任を理解しておくことも重要であろう。

3.PMBOK®ガイドとPM道の極意
 私は、PMBOK®ガイドは体系として素晴らしいと思っているが、その反面、先達の教えである格言などもまた尊重すべきだと思っている。ともするとKKD(勘、経験、度胸)と蔑視されるが、元をただせばPMBOK®ガイドも実務慣行や体験を体系化した結果なのだから。ただ、その表現が、欧米はできる限りコンテンツとして詳細に書き出そうとするのに対して、東洋では格言の中にコンテキストを埋め込んで伝承する傾向がある。この違いが、片やPMBOK®ガイドとして体系化されるのと、(日本発のP2Mがあるのを理解したうえで、あえて言わせていただくと)格言や極意というKKDに集約されるのとの違いとなっているのではないかと思う。そこで、個々に存在する格言や伝承を、たとえば宮本武蔵の5輪書のように、極意としてまとめれば、PM道の極意書ができるのではと思ったりもしていた。
 さて、峯本氏の本である。この本では、第2部で、この極意の体系化を見事に実現している。宮本武蔵の「近くのものを遠くから見る」という境地を敷衍し、PM道の極意として、「全体をとらえる」「変化をとらえる」「待つ」「見えないものに挑む」「前提を疑う」の五つの極意を展開している。また、極意の説明だけでなく、免許皆伝にいたるトレーニング方法を「論理」と「知覚」の両面から幅広く紹介している。
 この部分には、峯本氏の実践のノウハウが多く語られていて、非常に参考になる。著作権の問題もあるので、あまり詳細に引用はできないが、たとえば段階的詳細化というPMBOK®ガイドが言うプロジェクトの特性を、八甲田山遭難事件の例を引いて、拙速性という視点から解説されてみると、「なるほどそうすれば良いのか」と、具体的な実践方法がイメージされたりする。この部分だけでも、PM実践者のリファレンスマニュアルとして活用できると思う。第3部は、PMBOK超解説となっているが、PM道の極意からみたPMBOK®の解説であり、5つの極意の有効性を検証している。
 話はちょっと飛ぶが、「アーンド・バリューによるプロジェクトマネジメント」という本がある。この中に、アーンド・バリューを使ってプロジェクトマネジメントすることを「高度5万フィートの監視台」を提供するようなもの、という表現がある。私の好きな言葉である。まさに、「近くのものと遠くから見る」、「全体を見ながら変化をとらえる」、プロジェクトマネジメント手法の本質を示す表現であり、峯本氏の展開する極意に通じるものがあるのではないだろうか。
 さて話を戻して、おそらく峯本氏が強調したかったのは、極意が正しいかどうかということよりも、トレーニングを通して、プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルとしての行動方式、思考方式を身に着けることの重要性ではないだろうか。PMBOK®ガイドの知識を覚えるだけではなく、それを日々の活動の中で実践すること、これが、プロフェッショナルになるための必要条件だと言う事ではないだろうか。なぜなら、プロフェッショナルとは、「知行一致」の人であり、知識は実践してこそはじめて価値を持つものだから。PMBOK®ガイドを理解するうえでも、この本で紹介されているトレーニング、たとえば「物語で考える」などを実践していくことは、まさに、全体をとらえ変化に対応する視点を持つ意味でも、有効な方法だと思う。

4.まとめ
 今回、私が伝えたかったことは、「PMBOK®ガイドの背後にあるPMI®の思想を理解した上で、個々の内容を理解しよう。」ということである。たまたま、「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナルという目指すべき姿を見据えて、そこからPM道の極意を描き出し、PMBOK®の個々の規定を理解してゆく」という峯本氏の著書の展開が、私の言いたかったことを端的に著していたので、ここで紹介させていただいた。峯本氏の著書の解説を目的としたのではないので、その内容を正確に伝えていない部分も多いと思う。同書の評価については、是非、直接本に触れた上で判断していただくようにお願いしたい。
 最後に、書評的に紹介させていただくと、この本を読んで印象的だったのは、峯本氏のプロジェクトマネジメントに対する熱い想いである。おそらく、渾身の作品なんだと思う。それとともに、よくまあ、これだけの知識量を、一冊の本に、しかも体系的にまとめられたものだと感心する。マネジメント理論に興味を持つ人にとっては、レファレンスマニュアルとしての価値も十分にあるのではないだろうか。ぜひ、一読をお勧めする。
以上
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