PMP試験部会
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「PMBOKの読み方」

井場 隆史:3月号

◆「組織のプロセス資産」は26個所のプロセスでインプットとして明示されている。
 これはPMBOK第3版のインプット・アウトプット・技法の用語として最多頻度である。
 次に多い「要求済み変更」は実に23個所のプロセスでアウトプットとして定義され、唯一、 「統合変更管理」のインプットにつながる。
◆各知識エリアのプロセスフロー図を見ると「プロジェクトマネジメント計画書(更新版)」と 「要求済み変更」は必ずセットのアウトプットに見えるが、例外が3つある。
「品質計画」「ステークホルダーマネジメント」「リスク対応計画」である。
・・・このような「PMBOKの読み方」はある意味、邪道かもしれません。少なくとも、プロジェクトを成功に導くための実践知識習得、といったものとは程遠い読み方であることは間違いないでしょう・・・
◆各プロセスに頻出する「専門家の判断」。数えてみると、14のプロセスで技法とされている が、第2版ではたった6つのプロセスの技法に過ぎなかった。そればかりか、「アクティビティ定義」と「定量的リスク分析」では、なんとインプットでもあった。
◆このように技法であり、かつインプットもしくはアウトプットであるような用語は第3版から は消滅した。(唯一「予測」が該当するかに見えるが、「コストコントロール」の技法は 「Forecasting」、「プロジェクト作業の監視コントロール」「実績報告」のアウトプットは「Forecast」である)
・・・私がPMBOKを開くのは、必要に駆られて(しかもたいていは考えに行き詰って)いるときが多く、まさに今も、社内システムの新規構築プロジェクトマネージャーとして「PM計画書」を作成すべく、PMBOKにあたっているところです。が、いざ読み始めると、いつのまにかこのような「PMBOKの旅」が始まってしまうことがしばしばです。
こんな風に、一見なんの足しにもならないようなことを探すのも、日常の激務から逃れたい、という思いからなのでしょうか。「なるほど・・・」などとひとり納得して、ささやかな達成感を味わうのも私の「PMBOKの読み方」のひとつなのです・・・
◆「前提条件」「制約条件」はインプット・アウトプットの独立した用語として第3版から姿を消し、「プロジェクト憲章」内の記述に代表されるように、各種インプット・アウトプットのいち要素にその影を残すのみ。
◆「欠陥修正」「是正措置」「予防措置」にはそろって「提案済み」「承認済み」「実施済み」がある。このうち「欠陥修正」のみ、さらに「確認済み」がある。
◆「変更要求」には「提案済み」がなく、「承認済み」「実施済み」はある。
 「提案済み変更要求」がないかわりに「要求済み変更」がある。「要求済み」を枕詞にしているのは唯一「変更」のみである。
・・・ここまでくると、もう受験対策のための単語暗記術です。
事実、私が担当するPMP試験対策講座の合間にこうした話をすると、すかさず受講生がメモをとり始めます。はじめてPMBOKを見たときの私がそうであったように、受講生も受験対策として、何かとっかかりが欲しいのではないか、と感じます。
一方で私自身としては、こうした小手先の話ではなく、プロジェクトマネジメントの本質の理解を背景とした講義で受講生を惹きつけるべく精進せねば、と痛感する次第・・・
さてさて、夢中になってPMBOKのあちこちを読み返してきましたが、そろそろ本来の仕事、「PM計画書作成」の仕事に戻らなければなりません・・・
◆「プロジェクトマネジメント計画書」の補助資料として例示されている15の文書のうち、3つは、どのプロセスにおいてもアウトプットとして明示されていない。そんなぁ、、、
◆「プロジェクトマネジメント計画書」をインプットと定義しているプロセスは21にものぼる。
 うち10箇所については「計画書」のうち利用すべき補助資料が明示されている。
・・・私が「PM計画書」を作成する際、PMBOKに例示されている項目を目次にすると、えてして行き詰ります。逆に自分の自由に計画書を作成したあとに、PMBOKで必要な事項に漏れ抜けがないかチェックするほうが性に合っているようです。ちなみに、ステークホルダーのコミュニケーションニーズの明記をいつも忘れがちです。
さて、チェックを始めます・・・
◆どのプロセスのアウトプットにも明示されていないのに、「コストの予算化」プロセスのインプットに忽然と現れる「コストマネジメント計画書」。一体どこからもたらされるのだろうか?
◆第3版から突如登場し、これほどまでに頻出する「要求済み変更」や「組織のプロセス資産」について、その背景にあるものはなんだろう?
・・・またまた始まってしまいました、PMBOKの旅。本日の本来業務は終了にします・・・

PMBOKのインプット、アウトプットは必ずしも各プロセス間で整然と結合していないことは厳然たる事実なのですが(PMBOKでも随所に断り書きをいれていますし)、ではこうした「結合の穴」はなぜあるのだろう、どこかに裏ルートがあるのではないか、PMBOKがある意味整然としていない点はどうしてだろう、と、またまた深読みが始まってしまうのです。
しかしながら、ただ単にインプット・アウトプットのつながりを求めるにとどまらず、「なぜ」 「どうして」そうなっているのかまでを深く探求していくことは非常に有意義です。
◆「WBS」を入出力として明示しているプロセスは意外に少なく、1プロセスのアウトプット (もちろん「WBS作成」)と、5つのプロセスのインプットである。第2版は7プロセスのインプットであったから、表面上はむしろ減少している。WBSはPMBOKの屋台骨のはずなのに、何があったのか。
◆少なくとも品質、人的資源、コミュニケーション、リスクで「WBS」も「WBS辞書」も明示的に登場しないのはなぜだろう・・・
◆「WBS」と「WBS辞書」は必ずペアで入出力になるのであろうか?例外は・・・あり。
 「スコープ検証」の「WBS辞書」のみ唯一単独で用いられている。なぜか。
◆「コストベースライン(更新版)」はコスト・コントロールのアウトプットであり、しかその更新には厳密な制約がある。では、「スケジュールベースライン(更新版)」との相違点、類似点は何か。
・・・思いがけずPMBOKの意図するもの理解につながることもあり、こうした読み方はフレームワークとしてのPMBOK理解のひとつの手法であることは間違いありません。

しかしながら、プロセス間のインプット、アウトプットの結合が一部に完全でない点にフラストレーションを感じる。それゆえPMBOKはまだ科学的ではない。という声をしばしば耳にすることがあります。確かにそれは事実ですので、同感します。が、第2版からの改定でも相当の部分で整理が進んでいるところを見ると、3年後、5年後、いや10年後でしょうか・・・PMBOKはこれからも版を重ねるごとに、用語の定義やプロセス間の結合がますます整理され、ある意味で完全な姿に近づいていくでしょう。そして、プロジェクトマネジメントフレームワークとしてさらに洗練されたものになっていくでしょう。
その一方で、少しくらいは「穴」を残して、仕事の合間に深読みできる部分をとっておくのも悪くないのではないか、と思いながら、私は引き続きカルトな旅を続けるのでした。
以上
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