PMP試験部会
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PMBOK® ガイドの読み方(第14回)
〜 プロジェクト・マネジメントに対する気づき 〜

研修事業第2部会
株式会社 竹中工務店 ワークプレイスプロデュース本部 PM/CM担当
坂本 圭司 PMP:2月号

1. はじめに
 昨年4月、次世代オフィス等への対応力強化を図るために竹中工務店に、「ワークプレイスプロデュース本部」が新設されました。

 「ワークプレイス」という言葉は、働く場所のみを意味する「ワークスペース」や用途を示す「オフィス」に対して、「働くための空間や仕掛け・仕組みを総合して指す際に使う言葉」といったように、仕事をはじめとするさまざまな活動にかかわる有形無形の構成要素の全てを表すものです。
 近年、社会経済の急激な変化とあいまって企業の合併や統廃合が活発化しているように、絶えまない改革が求められてきています。管理優先の「ピラミッド型」から、よりフラットで迅速な情報共有を優先する「ネットワーク型」へと組織体制の考え方が多様化しているように、“働く/活動の場”の捉え方の意識も変化しています。経営や組織の運営を方向付けるものとして、「ワークプレイス」という捉え方が、企業の経営者などから注目されてきています。

 筆者は建築工事現場での施工管理を経て、この10年近くはPM/CMサービスに取り組んでおります。建築におけるPM/CMサービスは、米国で発展し定着した建設生産方式のひとつであるCM(コンストラクション・マネジメント)方式の実施を含め、お客様の建築プロジェクトを目標とする成果に導くために必要とされるマネジメント業務を提供するものです。ワークプレイスプロデュース本部では、「ワークプレイス」を構築するプロジェクトをマネジメントする機能を主に担当しています。

2. PMBOK® ガイドを基本として
 日本の建設会社の多くは、「品質」をひとつの経営理念としてTQM活動を推進し、TQMのコア・マネジメントシステムとした品質保証体系に基づく建設生産を実践し今日に至っています。ですから筆者はPM/CMサービスに取り組むまで、「プロジェクトとは?」や「PMとは?」ということには、実務でやっていることといった感覚以上の認識はありませんでした。PM/CMサービスにかかわって、はじめてPMをちゃんと理解しようと手にしたのが、「PMBOK® ガイド」でした。当時のものはPMBOK® ガイド1996年版の財団法人エンジニアリング振興協会による和訳版でしたが、「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために有機性の業務である。」というプロジェクトの定義など、はじめて意識する内容が多く含まれており、一様の理解に至るまで一年近くかかったように記憶しています。
 今では自然に頭の中にありますが、ステークホルダーやスコープなどの言葉は、PMBOK® ガイドではじめて知ったものです。プロジェクトを進めるにあたっては、お客様を含めてプロジェクトの環境をしっかりと理解する必要があります。そのためにまず、ステークホルダーをしっかりと把握することは、プロジェクトの情報伝達の内容と範囲や頻度を特定したり、プロジェクトの

PMBOK図2-5 ステークホルダーとプロジェクトの関係
PMBOK®図2-5  ステークホルダーとプロジェクトの関係

意思決定フローや役割分担を明確にするうえでも必要となってきます。ワークプレイスの構築のために、まず行われるお客様の課題や要件の整理を行う際にも、ステークホルダーとプロジェクトの関係をしっかり理解して進めないと、見落としてしまう問題や要求事項が生まれ、思わぬ局面に立たされることとなります。
 建設会社は、プロジェクトの最終成果物として、完成した建物を引き渡すことで対価を得ることを基本としてきました。PM/CMサービスは、お客様の建築プロジェクトを目標とする成果に導くために必要とされるマネジメント業務を提供することで対価を得るものです。あたりまえのことですが、提供する業務内容を提示できないとお客様に売ることはできません。完成した建物を引き渡すことで対価を得る場合には、プロダクト・スコープを明確にし詳細化することに重点がおかれます。業務を提供することで対価を得る場合には、プロジェクト・スコープを適切にマネジメントしていくことがより求められます。こうしたことは、PMBOK® ガイドを読みながら理解が深められたと思います。実際に、PM/CMサービスの業務体系を明確にし整備していく取り組みを、今日まで継続的に行っていますが、PMBOK® ガイドを基本のひとつと位置付けて行っています。

 3. PMBOK® ガイドからの気づき
 筆者は、PMとCMの区別もよくつかないままPM/CMサービスを担当するようになり、前項で示したことをはじめとして多くのことをPMBOK® ガイドをひとつの拠り所として、実務とプロジェクト・マネジメントの両方の理解を深めてきました。そうしたプロジェクト・マネジメントへの気づきのなかで、最も大きなものとかんじているのが、以下の事項です。
  • 学問・知識体系・管理技術としてのPMが存在する
  • 職能として、プロジェクト・マネージャーがPMを担っている
これはPMBOK® ガイドに示されているプロジェクトマネジメント・チームが必要とする専門領域の考え方から気づきにいたったものです。領域を示す○の大きさや重なり具合は別として、適用分野の知識・標準・規則を含め、プロジェクト・マネジメントを行ううえでは、さまざまな知識やスキルが必要とされることを明快に示しています。

PMBOK図1-2 プロジェクトマネジメント・チームが必要とする専門領域
PMBOK図1-2 プロジェクトマネジメント・チームが必要とする専門領域

通常、建築のプロジェクトでは、設計段階には設計業務をとりしきる設計者が、施工段階には工事をとりしきる作業所長が、お互いの専門領域への理解に基づいたリーダーシップを分かち合いながら進められています。近年、建築プロジェクトもそうですが、プロジェクトが高度化・複雑化し、より多くの専門領域がかかわるようになってきています。ワークプレイスの構築プロジェクトでも、お客様の働き方をさまざまな観点から理解したり、IT環境を考えることはほとんど欠かせない要素となっていたりと、建築の専門性だけでは成り立ちません。またお客様の性格も、さまざまなものとなってきています。単に業種などの違いに留まらず、お客様の事業の形態や背景にある環境が、多種多様なものとなってきています。PMの概念・知識体系を理解したプロジェクト・マネージャーの存在とプロジェクト・マネージャーという職能の重要性が、今後益々、増してくるものと確信をしております。
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