PMプロの知恵コーナー
先号

「PMのリース業への挑戦 (14)」
−金融業でのPM−

向後 忠明:3月号

 「PMのリース業への挑戦」も今月号で最後になります。
 これまでリース業を例にPMの視点から金融業の案件について論じてきました。
 一般的にPMはエンジニアリング、建設、ITそして最近は製造業にも波及してきましたが、金融業の案件ではあまり多く語られていません。
 これまで、このエッセーの「1〜13号」までPMの経験者としての視点から金融事業のあり方を論じてきました。
 エッセーを書いているうちに分かったことですが、金融業にこそP2Mに示されるプログラムマネジメントを行なうことのできる人材が必要であると実感しました。
 すなわち、P2Mに示されるプログラムの上流側での活動です。金融業は“金貸し”を行い“貸先”の企業や事業が成功したら、そこから金利や投資利益を得ることを目的とした業種です。
 一方、事業を行なう側はその事業を行なうための資金調達が重要となります。
 このような時の金融業に携わる人の動きは何か?というと、担当者は資金を必要とする人の話を聞くだけで、実際は銀行やリース会社の審査部がその事業に資金を出すかどうかを判断します。それ故、必然的に、与信や企業体力のある大企業中心の資金供与となります。審査部は融資担当からあげられた書類の審査を行い融資判断をするだけです。しかし、対象事業や企業の詳細な実態は担当者ほどには分かっていないことが多いようです。
 このような事実が与信力のない中小企業には融資がされない原因となっています。
 そこでもし、金融業の中にP2Mで書かれているプログラムマネジメントのできる人がいて、その人に資金供与の審査権を与えたら、どうなるかと言う事で会社の中に「新ビジネス開発PT」を立ち上げた次第です。
 資金供与するのは金融業側ですが、それを受けるのは企業側です。しかし、中小企業の人には資金調達するための仕組み作りができません。そのため、良い研究成果や技術があってもそれを事業や商品化にするが出来ない事実を多く見てきました。
 金融業はお金を出すからにはその計画されている事業がどれほどの価値創造を行い、貸したお金に利息を載せて返してもらえるのか、または投資であればどのくらいの投資利益が得られるのかを当然考えます。
 そのためには自ら、投資対象事業に対しての、社会や市場環境分析そして技術の独創性・差別性など考慮に入れた価値判断を行なうための仕組み作りや事業家妥当性などの検討ができなければなりません。
 その結果、資金供与の妥当性の確認ができるわけですが、このような作業は一般的には大企業の資金調達を必要とする担当部門が行い、金融担当はその後追いをするだけです。その後のフォローはどこかのコンサルタントにお願いし、自らはそれに追随し、コンサルタントのレポートをみるだけの仕事になっています。
 このように、金融に携る人達には事業の背景や仕組む作りと言ったことはコンサルタントや資金調達側がやるものと思っています。
 しかし、これからは金融業も海外との競争や中小企業への融資などを考えると今までのようなことではやり方では全く競争力のない単なる図体の大きな“金貸し業”になるだけです。
 このような危機感を持っての小さな一歩と言うことで私が所属していた会社の中に先ほども言いました「新ビジネス開発PT」を立ち上げた次第です。
 その活動状況や内容についてはすでに本「PMのリース業への挑戦:1〜13号」にてお話したのでここではその内容は割愛します。

 ここまで述べてくるとPMに従事している読者諸氏も分かっていただけたと思いますが、P2Mのプログラムマネジメントは事業を計画する側は当然のことですが金融業に携る人にも必須のマネジメントツールであると考えます。

 私も、エンジニアリング、情報処理産業そして金融業等々で実業をベースにこの世界でPMをコアーアンカーとしてやってきました。しかし、何も違和感というものもなく入り込むことができました。現在では病院やリゾートそしてホテルと言った複合施設の企画や建設に関わる仕事、そして新しい技術を利用したビジネスの仕組み作りとその具体化のため中小企業を中心としたプロジェクト遂行の仕組み作りをやっています。

 PMを志向する読者諸氏もPMを自分のコアーアンカーとし、恐れず、挑戦の気持ちを持ち、実践で自分を鍛えて真のPMプロフェッショナルになってください。その結果には明るい将来が待っています。
 PMには業界別と言った区別はないと考えています。あらゆる分野で通用します。
 最近、ITの世界でPMは苦労ばかりが多くまた面白くないと言ってPMのなり手がいないと聞きます。  この原因にはいろいろありますが、一番問題は会社経営陣のPMに対する理解がまだ脆弱であり、その価値を認めてないことにあります。
 今後、PMAJももっとこの辺の活動を強化し、PMの価値向上の支援をしていく必要があると思います。

 最後に、これまでエッセーに手取り上げた案件例での「新ビジネス開発PT」での活動結果が具体化され、今年になって実行に移されたことを報告しておきます。
 一つは外国のエンタメ系の企業との契約成立と受け入れ側起業の設立
 もう一つは本エッセーの最後で説明した発行ダイオード(LED)に関する会社の発足です。この事を報告し、本「PMのリース業への挑戦」は終了とします。

 次回からは表題を変えて新たに「海外でのITプロジェクト」と題して、海外の顧客(中央銀行)での金融システム構築の実際についてお話したいと思います。
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