PMP試験部会
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PMBOK®ガイドの読み方(第10回)
― コミュニケーションマネジメントについて ―

研修事業第2部会 秋山 孝之:8月号

1. はじめに
 皆さんは過去、自分がプロジェクトマネージャとして関わったプロジェクトが失敗に終わった経験はありますか?失敗の定義は人それぞれ違うと思いますが、誰しも一度は「失敗経験はあるよ」と答えるのではないかと思います。では、その失敗した原因は?と問うと、
  • プロジェクトメンバーに専門家がいなかった
  • 顧客がプロジェクト終盤に無理な仕様変更をしてきた
  • 営業が無理な金額で受注してきてしまい、十分なリソースをプロジェクトへ投入できなかった
 等々が考えられると思います。ここで私は、プロジェクトマネージャのコミュニケーションスキルが非常に高いレベルであったならば、失敗を回避させることが十分可能であると考えています。少なくとも失敗確率は下げられると思っています。以前、次のような話がありました。

 私の元同僚であるA氏が、某大手企業の流通系基幹システム大規模プロジェクトのプロジェクトマネージャとしてアサインされました。A氏がアサインされた理由は、過去に流通系分野の仕事に長年携わった経験があったからです。しかし、プロジェクトマネージャ経験はおろか、リーダー経験もありませんでした。そこでA氏は有効なプロジェクトマネジメントや、有能なリーダーになるための関連書籍を読み漁り、理論武装をしっかりしていました。ここまではよく聞く話ですが、結果から言うとそのプロジェクトは大失敗(大赤字)になってしまったのです。これは、プロジェクトマネジメント経験やリーダー経験がないからではなく、単純にコミュニケーション能力の不足に起因していました。以下に例を挙げると、
  • 顧客進捗会議を自己都合により欠席することが多々あった
  • 毎日定時で帰ってしまう(メンバーは徹夜か最終電車)
  • メンバーに対して威圧的な態度を取る(俺は帰るけど、徹夜してでもやっておけ!等)
  • 進捗管理が杜撰
  • 休日出勤は皆無(メンバーは休日無し)
 等々がありました。これは極端な例であり、A氏の人間性も問題ですが、各ステークホルダーとのコミュニケーションを軽視したことが原因ともいえます。もちろんPMBOK®でもコミュニケーションマネジメントを重視しています。プロジェクトの規模にもよりますが、プロジェクトの成功はいかに多くのステークホルダーと円滑にコミュニケーションが取れるかに懸かっていると考えられます。
 本号では、以降、コミュニケーションマネジメントの重要性、特にコミュニケーション技術に焦点をあてて述べたいと思います。

2. PMBOK®におけるコミュニケーションマネジメントの定義
 まず、「コミュニケーション」の定義を辞書で調べたのが以下です。一般の認識では、以下のように定義されているコミュニケーションを管理することがコミュニケーションマネジメントだと考えられます。
社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる。「―をもつ」「―の欠如」
出展:[ 大辞泉 提供:JapanKnowledge ]

  一方、PMBOK®の第10章にあるコミュニケーションマネジメント知識エリアでは以下のように定義されています。

コミュニケーションマネジメントは、プロジェクトの情報の生成、収集、配布、保管、検索、廃棄といった一連のプロセスをタイムリー、適切、かつ確実に行うための知識エリアである。


すなわちPMBOK®では、人と人との対話のみならず、意思を伝達する手段や情報格納まで広範囲に渡って記述されています。しかし、原点に戻れば人と人との面と向かったコミュニケーションがメール等よりも情報が正確に伝わるし、意思疎通が図りやすいと考えられます。

3.   ロジカルシンキングの薦め
 コミュニケーションスキルアップの技法の一つとして、ロジカルシンキングというものがあります。簡単に言うと、論理思考と、思考の効率を上げるための方法論(テクニックやフレームワーク)、そして正しく思考するための姿勢(心構え)を組み合わせることにより、「物事を正しい方法で正しいレベルまで考える」ことを実現する、というのがロジカルシンキングです。近くの書店に行けば膨大な関連書籍が山積みになっています。実は私も某MBAビジネススクールでロジカルシンキングの講座を受講しました。なぜ、MBAにこのようなカリキュラムがあるかというと、マーケティングやアカウンティング等を学ぶ前提条件として、頭を鍛えることに焦点をあてている為だと考えられます。この講座から得られたスキルとしては、
  • 物事をロジカルに考えられるようになった
  • 問題の分析をロジカルシンキングのツール(ロジックツリー)を使うことで整理し、解決することができるようになった
  • 顧客や上司にロジカルな説明をするためのツール(ピラミッドストラクチャー)を使うことで、説得力のある説明ができるようになった
等々がありました。このようなビジネススクールで学ぶ利点としては、ケーススタディーを通して、本では学べない実践形式の演習を行い、実際に書く・考える・発表する・コミュニケーションするといったスキルアップの向上が挙げられます。本を読んで得られる知識との違いが大きな差となって、今では私の大きな財産の一つとなっています。

4.    まとめ
 プロジェクトの成功に、前記3項のようなロジカルにコミュニケーションする能力が必須とは言いません。あくまでもコミュニケーション能力アップの為の一つの要素にすぎません。
 コミュニケーションの基本は、傾聴の姿勢が一番大事だと考えられます。メンバーとコミュニケーションを取る際に、メンバーが何か問題点をプロジェクトマネージャである自分に必死で伝えようとしているところを、
「いや、そうじゃなくて...」
「君の言っていることは、的を射ていない」
「だから、何が言いたいのだ?」
 等々、こういうことを言っているなと思いあたる方はいらっしゃいませんか?このような人が会議やミーティングの場に一人でもいると、会議のそもそもの開催趣旨とかけ離れていく可能性も高くなります。このような人をコミュニケーションブロッカーと言うそうですが、それはプロジェクトマネージャにも当てはまります。前記1項のA氏がいい例です。
 コミュニケーションとは、まず相手が話す。相手が話終わったのを見計らって、自分の意見を言う。そして、再度また相手が話すというようなサイクルを通ります。このようなサイクルを通ることで、初めてメンバーと円滑にコミュニケーションが出来たと言えるでしょう。また、円滑にコミュニケーションが取れると、プロジェクトに何か問題があった場合の早期発見にも繋がります。(これとは反対に威圧的なプロジェクトマネージャだったとしたら、メンバーは失敗を自分からは絶対に言わない)
 このようなコミュニケーションを出来るだけ多くのステークホルダーと取るように心がけてはいかがでしょうか?私もコミュニケーション関連の書籍は何冊も読みましたが、やはり 傾聴の姿勢 が一番大事だと考えています。私は人の話を聞く時は、自分が話す内容の3倍以上聞く姿勢でコミュニケーションに望んでいます。日頃から気を付けたいところですね。
 皆さんはコミュニケーションについて、日頃からどのようなことをお考えでしょうか?自分が常に気を付けなければならないことは何か?常にそれを留意しておきたいですね。
以上