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「KKDとP2M」
“KKDの無い人がPMを出来るのか?”

株式会社エクセルソフト 酒井 清則:6月号

1. はじめに
 先般大阪にてP2M事例研究会が行われ、その席上で“KKD”について是非論がありました。PMの世界ではとかく悪者になりがちなKKDですが、私も以前からひっかかるところがあり、自分の仕事に置き換えて少し掘り下げて考えてみました。

2. 会社での自分の役割り
 私は16年前に松下電器の社内ベンチャー(ソフトウェア開発)を立ち上げました。当時はMS-DOSの全盛期で、“IT”や“インターネット”の言葉すら聞いたことがありませんでした。その後急激にカルチャーが変化し、ダウンサイジング、Windows、インターネットと目まぐるしく発展し、おかげで我が社も比較的順調に成長してきました。
 成績を総括して赤字か黒字かで言うと15勝1敗(初年度のみ赤字)で、大相撲では優勝圏内だと思います。最初2名で始めた会社が今では50名を超え、売上げ・利益も10倍ほどになり、これまでは一応の成功プロジェクト(プログラム)だと思っています。

 さて私の役割りですが、大きくは以下の4点です。
  1. まず会社の経営理念・ビジョンを内外に明示し・浸透させ・社員の共感を得る事。
  2. 2番目は人材育成です。我が社の資産は、ビルでも機械でも土地でも無く、“人”(社員)です。 社員一人一人の人間力やITスキルが会社の生命線です。
  3. 次に新規事業の創出と新規市場の開拓です。このために始めたような会社です。
  4. 最後は成果を出す事です。赤字では社員の給料は出せませんし税金も払えません。
 3年前にP2Mを知り部分的にはその考えを取り入れましたが、この16年間のほとんどを“KKD”に頼って実践してきたように思います。

3. 私のKKD
 私の場合、新規事業への参入を決断したり、既存事業の撤退を決めるときは、ほとんどKKDで決めることが多いと思います。実行する前から皮算用ばかりしていると、タイミングを外してしまうことが多いからです。“詳細な部分は走りながら決める”方式で、やるのか止めるのかの意思表示をタイムリーに返すことで、新規事業創出や市場開拓に効果を出してきたように思います。受注してから真剣に取り組めば、事業は成功するように出来ているという、ちょっと強引な信念でやっています。もちろん必要最低限の計算はやりますし、リスクヘッジも考えます。

4. KKDとP2M
@ KKDの無い人にPMが出来るのか?
いきなり結論ですが、これはかなり難しいと思います。刻々と変わる現場の状況にタイムリーな判断を下したり、十人十色のメンバーを掌握し、ベクトルを統一したり、顧客部門のTOPと交渉をしたり、PMに要求される役割りはゼネラリスト&スペシャルスペシャリストです。KKDで培った信頼感のようなものが必要だと思います。
A PM知識だけではここが危ない
PMテクニックやツールにはまり、プロジェクトの本質から外れることがある。プロジェクトは人間系(お客様・従業員・パートナー)への配慮が最も難しく、最も大切であると思います。
B KKDだけではここが危ない
頭の中で考える事が多く記録が残らないため、ノウハウの蓄積・共有化・再利用が難しい。また複数プロジェクトが同時に進行している場合、全体最適が見えにくい。
A KKD + P2M = 成功プロジェクト
研ぎ澄まされたKKDにPM知識体系が加わり、プロジェクトの状況に合わせて 両者の使い分けが出来れば、まさに鬼に金棒状態のPMになれると思います。 またPM本人の人間的魅力や強いリーダーシップも欠かせない要素だと思います。 個別マネジメントの中にKKDマネジメントがあったら良いと思う位です。
B これからのPM人材の育成
困難で複雑なプロジェクトを数多く経験し、“KKD”を蓄えながらP2Mをツールとして使いこなすことが必要です。特にIT業界のPMは歴史も浅く案件ごと のバラツキが大きいことから、体系化・標準化が遅れているようです。ゆえに若 いうちからKKDとP2Mの両方をバランスよく習得し、合わせて人間力・リー ダーシップを養うことが大切です。今後はこのような人材育成が私の課題だと考 えています。
5. 結論
 私の結論は“KKDもすごく大事!”です。