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統合マネジメント談義(10)(WBSとスケジュール その2)

PMリソースセンター長
(有)デム研究所(http://www.dem.co.jp) 城戸 俊二:4月号

【スケジュールの展開レベル】
 スケジュールにも階層があることは各位ご承知のことで、一般的にはマスターレベル、プロジェクトコントロールレベル及び資源計画(或は実行計画)レベルの3段階である。その内容は下記の通り。
  • マスターレベル:プロジェクト全体を俯瞰するためのもの。特にプロジェクトの成果を左右する重要なエポックが盛り込まれる。
  • プロジェクトコントロールレベル:字の通りプロジェクトの進捗管理の便を考えて構成する。マスターレベルの情報に加えて、作業量の多い部分や、作業手順が多部門に亙る、作業手順が複雑、作業の実施時期が限られる、時間的に難が予想される部分など、プロジェクトの進捗を時間的に管理する上で無視できない要件は欠かさず盛り込まれる。
  • 資源計画(或は実行計画)レベル:“この条件が整えば時間的に実行可能”であることを立証する条件の全てを盛り込んで構成する。プロジェクトが予定通り進むか否かの最大要因は遂行資源が計画通りに調達できるか否かに懸っているので“資源計画”の名が付いたのであろう。
 上記は多分に筆者の独断ではあるが、この説明で見る限り3つのスケジュールに示されるアクティビティーには、用途の違いを示すだけで量的な差異は感じられない。しかしプロジェクト実行計画を作成するに当って、イザWBSを作ろうとしたとき、WBSの上位階層のWE(注1)とサマリースケジュールのアクティビティーとの違いが判らずに戸惑う方が多い。
注1:本稿で述べるWE(Work Element)、WP(Work Package)の解説は本談義(WBSその5:H17年9月号)を参照。

【サマリースケジュールのアクティビティーとWBSのWEやWPは似て非なるもの】
 これら3つのスケジュールに示されるアクティビティーと、WBSの上位WE、或は中位/下位のWEやWPとは似て非なるものである。これらのスケジュールに示されているものは期日特定のマイルストンを除けば、全てのアクティビティーが“この作業はこの辺りの時期に始めてこの頃に終了する”と言う情報を提供するだけである。これに対しWBSのWEやWPはその内容が明確に規定される(詳しくは本シリーズのWBS編、特に「WBSその3稿」をご参照)。とは言え読者各位の業務現場ではWBSなどなくても仕事の管理が出来ているのが現実である。それは工程管理の目安となるスケジュールとPMの優れた暗黙知が相俟ってなせる技である。その技とは「特定の目的のために作られたスケジュールに記載されているアクティビティー名と横棒の位置及び長さを見れば、それが何のために在り、その作業量、難易度、あてがうべき資源など、大凡のイメージを瞬時に掴める」と言う能力である。技に優れず質の悪い暗黙知しか持たないエセPMが、自作の工程表を基にプロジェクトを進めて死ぬ思いをしているのもまた現実である。

【プロはWBSとスケジュールをコンカレントに作る】
 筆者はPPMP(Project Performance Management Process)(注2)と称して、プロジェクトコントロールベースラインの構築と運用の手順を日頃整理し、機会ある毎に更新・公開している。これはプロジェクトマネジメントの要素技術のうち、パフォーマンスマネジメントに関わるコア要素を捉えて、それらの相互のバランスを取りながら構築し運用する手順を示したものである。その中からWBSとスケジュールについて下表に抜粋した。内容の詳細は機会があれば後日解説するとして、本稿では表の構成と読み方を述べる。
注2:PPMPの最新版(第2版)は本稿冒頭のURLをご参照ください。

 プロジェクトコントロールベースライン構築のステップは大きく分けて下表縦軸の段階を踏む。
  1. プロジェクトの目的を認識し、与えられた環境条件を勘案してプロジェクトコントロールの基本プランを構想する段階(要件定義フェーズ)。
  2. 前項の構想に加え、プロジェクトの内情(難易度、作業量、処理能力など)を踏まえて管理システムを詳細展開する段階(定量化フェーズ)。
  3. 管理要素それぞれの仕様の整合を図り、統合マネジメントのための情報システムとして確定 する段階(目標設定フェーズ)。
  4. プロジェクトの実行とコントロール(運用フェーズ)
プロジェクトコントロールベースライン構築のステップ
 表のWBS列とスケジュール列にはそれぞれの要素管理システムを構築し運用するステップを示す。
双方の字句を読み比べて頂くと、各処でWBSとスケジュールに係わり合いがあることに頷けるであろう。特に定量化と目標設定の段階が連携(統合)の密度が濃い。勿論これ以外の段階でも全てが直接・間接的に影響し有っていると言っても過言ではない。管理計画段階で双方の整合を綿密に図ることが効果的な統合マネジメントに必須である。

 WBSは“プロジェクト管理計画の最初に作るもの”と理解されている方も多いと思うが、この捉え方は的を得ていない。正しくは“最初にWBS(のこと)を考える”或は“初期段階で仮のWBSを作り、ベースラインを固めていく過程で他の要素技術を含めて正規化を進める”である(筆者の論)。
特にWBSの下位階層はプロジェクトの実行計画が可也固まらないとWPを確定することが出来ない。(この辺りの解説は本シリーズ WBSその2をご参照)。以上の論でWBSとスケジュールはコンカレントに作らねばならないことをご理解頂けただろうか。

【ベテランの脳裏にはマネジメント要素の書棚がある】
 手馴れたPMやコントロールエンジニアはコントロールベースラインの構築に着手した時点で、マネジメント要素の書棚を脳裏に準備する。構成はプロジェクトWBS、プロジェクトスケジュール、プロジェクト実行組織、実行予算などパフォーマンス管理システムの骨格を構成する要素の棚である。
次いで情報収集、分析などの段階でインプットされる情報を該当する書棚に整理し、他の要素技術との整合を図りながら管理システムの形に纏めていく。この要領で彼らの脳裏に大まかなベースライン構想が形作られていく。この辺りの要領は別の機会に述べる。