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統合マネジメント談義(WBSとスケジュール その1)

城戸 俊二:2月号

 WBSを云々するのは既に食傷気味なのでそろそろ話題を変えよう。さりとて今までの談義でWBSを論じ尽くした訳ではない。過去7回に亙ってWBSについて語ったが、その視点はWBS側から捉えた他のマネジメント要素との統合についてである。WBSは各位ご承知の通り他の管理要素と相俟ってその効果を発揮するので、話題の視点を他の管理要素にシフトすることで本談義の幅も広めよう。

 本談義シリーズの現在の到達点はWBSの基本部分については自分なりに語り尽くしたかな?と言うところである。読者各位にはWBS側から見た統合マネジメントのための入れ物(姿かたち)とそこに入れるべき内容物については大凡ご理解頂けたと思う。そこで今回からはその中身の詰め込みに掛かろう。併行して詰め込み方が拙い/内容物の質が悪い/量が足りないなど、はたまた入れ物の形(Work Packageの設定)が悪い、他の入れ物とのバランスが悪いなど、先々プロジェクトマネジメントベースラインとして仕上げる際の、総合品質から判断しての調整ポイントについても紐解く。

【統合マネジメントとPM機能担当者の視点】
 極小規模のプロジェクトは例外として、プロジェクトマネジメント(以下本稿ではPMと記す)組織はプロジェクトマネジャー、スケジュールコントローラなどの、それぞれマネジメント機能を担ったメンバーで構成する。一方“統合マネジメント”はプロジェクトの総合成果を良くするたことを狙って行う活動であるため、これの紐解きはどうしてもマネジメント機能を横断した大局的な捉え方になる。PMのベテランならばそれで充分であろうが、PM初心者には理解できないところもあろう。
 そこで本稿からはPMのそれぞれの機能から見た統合マネジメントについて解説する。これをプロジェクトの組織役割に例えて見ると、WBS側からの視点はプロジェクトマネジャーの知識と判断、スケジュール側からの視点はスケジュールコントローラの知識と判断である。

【統合マネジメントに於けるWBSとスケジュールの役割】
 統合マネジメントを云々するときWBSと並んで出てくるのは何と言ってもスケジュールである。ここでWBSとスケジュールが持つ情報(役割?)の違いを考えてみよう。 “統合マネージ”と言う面から見て両者の特徴的な相違を列記する。

  • WBS図は立体的構図。スケジュールは平面的で横に展開したネットワーク。
  • WBS図は時間軸イメージが無い。スケジュール図はカレンダー軸上の展開が大前提。
  • WBS図は原則として全契約スコープをWE(Work Element)やWP(Work Package)で表示。スケジュール図はプロジェクトの時間管理に有用な情報のみを表示。
  • WBSの最上位は全契約スコープを包含。スケジュールのマスターバーはプロジェクトの期間のみを表示。

 人それぞれの見方考え方で両者の違いは上記の他にもいろいろあろうが、詳しい解説はは処々のテキストや文献、書物に譲るとして、少々砕けた、感覚的な捉え方をしてみよう。

【プロジェクトの状態を感覚で読む】

  • 状態はイメージで捉える
    上記ではWBSとスケジュールをそれぞれxx図と称している。内容や状態を掴むのは文字より絵 の方が直感的に理解しやすい。プロジェクトマネジメントでは判断のタイミングが大切で、それも即 断即決を迫られることがしばしばである。このようなとき、図のイメージで記憶して置くと思索が早 い。即ちスケジュールは“必要項目の横棒と所々にマイルストン”、WBSは“全体を頂点にして内 容を必要な細かさまで分割”という具合に捉えておくと便利である。
  • スケジュール図には必要最小限の情報を載せる
    スケジュールは見やすいことが重要である。しかし時間管理の面からの重要度は低いので、最初か ら無視して掛かってって良いかと言うとそうではない。時間管理をするのに重要でない項目はスケジ ュール図に記載せずに、チェックリストなどの付属資料で細部を網羅して置く必要がある。これらは 激しい変化や他への影響を起こさないので、日頃は流れるままに任せている。しかし忘却の彼方 に・・・というわけには行かない。ここが初心マネジャーの落とし穴でもある。 これに対しWBSは“包含”のイメージなのでスコープの全てをWBS図に網羅することが原則で ある。具体的にはWEやWPの定義票でスコープの全てをカバーする。
  • WBSは三角山(錐)、スケジュールは平野を流れる幾筋もの道筋
    WBSには時間情報はあるが描き方に時間軸はない。仕事の塊を積み重ねた三角錐である。スケジ ュールも一般的にマスターレベル、コントロールレベル、資源計画レベルと、階段状に詳細化するが、 基本的にはそれぞれが平野(二次元面)を流れる川筋や道筋(作業のフロー)に似ている。 私はWBS,スケジュール、組織などを主題にしたPM講座を行っているが、そのコースで“WBS描画には時間軸がある”と思い込み、最後までその呪縛から抜け出すことができない人も偶に居る。 講師の至らなさのためか・・・・・

 目標を正確に示すには数値化が必要であるが、“大体こんなもの”を認識するのには上記のようなイメージを持つのが有効である。今回はWBSとスケジュールの役割を対比して述べたが、次回は談義のテーマに戻ってスケジュールと他の要素との絡み合いを解説する。


城戸俊二(kido@dem.co.jp):PMリソースセンター部長、(有)デム研究所(http://www.dem.co.jp/)