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統合マネジメント談義(WBS その7)

城戸 俊二:1月号

 先号でマイホーム建設を例にして、二つのプロジェクトシナリオを考察した。どちらのシナリオもマイホームを持ちたいとの願いを実現することが目的で、一つは業務機能を縦割りにしたもの(経理:資金調査と確保、土木:宅地調査と確保、建築:家の設計と建設)それぞれに強い関心を示すケース)で、これら関心が強い切り口を第2階層目(より高いレベル)に持ってきている。他方は我が家確保のプログラム(調査、実行、運用のそれぞれの段階)を大局的に捉えることを優先したものである。常識的に考えてどちらの捉え方が多いか。二つ目の形態が一般的であろう。この“より常識的”な選択はWBSを設計する際の基本の一つである。一つ目のケースでは部署間のコミュニケーションが頻発して問題課題が増える可能性が高い。裏返せばここにリスクが潜む。

 さて、WBSの見方、作り方については一通り解説したと思うので、ここらでWBS解説の〆として、も一つの管理階層(注1)の作成事例を考察する。題材には、情報システム系の方なら殆どがご承知の、SLCP(System Lifecycle Process)に示される情報システム構築プロセス(以下SLCPと略記する)を採用する(注:正しくは共通フレーム98に示すプロセスを採用した。詳しくは本稿末尾の文献ご参照)。なお「百聞は一見の如し」の喩えを拝して先稿に続き本稿も挿絵で解説に替えていることをご容赦願う。ご質問は冒頭の筆者メールID宛お問い合わせください。

 【SLCPを基にした情報システム構築プロセスの管理階層】
まず図-1をご覧頂きたい。図-1はSLCPで規定する作業項目を単純にピラミット状にしたものである。なお図の太線枠はワークエレメント、細線枠はワークパッケージを意味する。なんとなくWBS的に見えるので、“これが情報システム構築のWBS(の例)”と考える人が居るかもしれない。しかしこの管理体系をプロジェクトコントロールに利用するには多々難点がある。図-1の構成で何処に問題があり、その理由は? 読者各位にはここで一端止まって考察していただきたい(本稿末尾の【図-1に潜むリスク項目】ご参考)。考察のヒントは本統合マネジメント談義の各所(特にWBSその2〜4辺り)にある。

図-1 SLCPに規定された作業項目の階層図

 【プロジェクトコントロール用として加工された管理階層】
 図-2〜4は模範解答とまでは行かないがより改善された管理体系である。紙面の都合もあるので図2〜4で配慮された点について幾つかを本稿末【管理階層設計での考慮点】に箇条書きする。細かくはこれらの図を見比べて各自検討していただきたい。図-2〜4にもまだ難点があるが、読者の自習課題とする。なお図-2〜4の点線枠の項をワークパッケージとするか、作業工程のアクティビティーとするかはプロジェクトの規模とプロジェクトマネジャーの判断による。

図-2 構想・企画段階のプロジェクト管理階層

図-3 システム構築段階のプロジェクト管理階層

図-4 システム運用・保守段階のプロジェクト管理階層

 【図-1に潜むリスク項目】

  1. 取得者、供給者などの各自がライフサイクルに亙って関わる業務を第一義的に捉えているが、この捉え方が最適か。“プロジェクトは段階を追って協働して進める“と言う視点が弱い。
  2. 取得、供給などと同格に企画、開発があるが管理する立場から見てこれが最適の括りか。
  3. 開発プロセスは14項目に分けて羅列されているが、これらを一塊で管理できるか。

 【管理階層設計での考慮点】

  1. ライフサイクル全体がプログラムレベルなので、これを構想・企画段階、構築段階、及び運用・保守段階の3つのプロジェクトとして捉えた。これにより各段階での契約スコープを容易に判断できる。
  2. 各段階での組織の責任分担を重視し、企画と構築段階では組織の切り口を上位に位置づけた。
  3. 開発プロセスは一般的に職種や作業段階に区分して管理されるので1階層追加した。
  4. 図-1では企画と構築の段階に跨った項目があるので、図-2と3ではそれぞれの段階毎に集約できるように分割表示した。
  • 注1:本談義WBSシリーズでは用語(「WBS」と「管理階層」)を使い分けている。「WBS」は本WBSシリーズ全体を通して解説しているWBS(その内容を定義されている)を意味する。「管理階層」は形はWBSの階層に似ているが、未だその内容は定義されていない状態のものを意味する。例えば本稿の図-1〜4は全て管理単位の階層構成を示しているだけなので管理階層と称した。
  • 注2:図-1は一つのシステムで一つのプログラムを開発するための作業項目を示している。実際のシステム構築では複数のシステムやプログラムを同時に開発するので、同じ作業が各所に繰り返し存在するが図-1は単純化したものである。

文献:
1.ISO/IEC12207 Information Technology-Software lifecycle Process。
2.共通フレーム98、SLCP-JCF98委員会編


城戸俊二(kido@dem.co.jp):PMリソースセンター部長、(有)デム研究所(http://www.dem.co.jp/)