「大きなマネジメントと小さなマネジメントは何が違う(1)」
オンライン編集長 渡辺 貢成:4月号
新年度がはじまりました。新しい気持ちで今年度も出発しましょう。今年度は実践的なP2M研究会を発足させました。これはPMAJにとって大きなプログラムです。なぜプログラムかというと関連性のある複数のプロジェクトで構成されるからです。このエッセイでは特にプログラム、プロジェクトを使い分けする必要のない場合、面倒ですからプログラム、プロジェクトを総称してプロジェクトという言葉を使います。
さて、このプロジェクトは「はじめがあり、終わりがあります」。はじめがもっとも肝心です。はじめに最も大切なことをします。最も大切なこととは「大きなマネジメント」をすることです。PMはありがたいことに標準化された手法があります。PPPといわれるProject
Phased Planning です。プロジェクトで「大きなマネジメント」といえばPPPの始まりの構想計画とそれに続く契約です。「大きなマネジメント」とはそれが実施されないと正しくは何も始まらない大局観のあるマネジメントを意味します。
1. 読者の皆さんへの質問1
図は情報業界における失敗要因を数多く集めた結果をデフォルメした図です。顧客要因の最も多くは要求仕様がでない、契約の概念がない、無理な納期、契約金が大きな原因となっています。2番目はベンダー社内体制の成熟度の低さにあります。3番目が要員の質と量です。読者の皆さんはどこから手をつけますか。
大きなマネジメントを心がける人は顧客要因の解消から手をつけます。この問題が解決しないと仕事が先に進まないからです。
私が質問した多くの方は「そんな大きな問題に取り組んでもすぐに解決しないから、できることからやります」です。これが平均的日本人の回答です。そして第一の問題に取り組む人間をあたかもドンキホーテのように見下します。しかし、この発想は成田空港で搭乗予定の航空機が遅れたといって、目的地に少しでも近づこうと歩き始めるのと同じです。
大局観のあるプロジェクトマネジャーはあらゆる手を使ってでも、大きなマネジメントを完成します。それは顧客と一緒になって構想計画を固めることです。これが最も無駄がなく、短期間に、確実に品質のよい成果物をつくりだす道だからです。
2. 質問2
IT業界は契約に関心が薄いようです。それは自分の要求仕様を書けない顧客が契約を強く望んでいないからだと思います。また顧客に逆らわないのが日本人の伝統と考えているようです。顧客に逆らわないことが顧客満足度になるとは限りませんよね。
ITの方々は勉強に熱心です。PMAJの例会でリスクマネジメント、EVM等を取り扱うと大勢集まります。ここで第二の質問です。
「質問の2は契約書がなくて、リスクマネジメント、やEVMが実施できると思いますか」。
図はリスクマネジメントの概要図です。契約以前のプロジェクトはすべて不確実性の塊です。そこで発注者と受注者間で取り決めをするのが契約書です。図でわかるように契約で不確実性の80%が解消し、安心して仕事ができる状況をつくり出すことができます。契約書は受・発注者の責任分担、リスク分担を定めるものです。プロジェクトは両者がその責任を果たすことによって成立します。
リスクマネジメントは契約書で規定されなかったリスクについて特定し、その対策を予め行うものです。契約書こそがリスクマネジメントに対する大きなマネジメントとなります。この理屈を理解できないと詳細なリスクマネジメント(小さなリスクマネジメント)の精度を上げても意味のないものとなります。
以上
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