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PMコンピテンシーを開発する方法(SIG報告)

(有)プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人:3月号

  コンピテンシーSIGでは、3年間に渡り、PMコンピテンシーの強化方法について考えてきました。詳細は2006年1月27日の例会で発表しました。例会資料は、PMAJのサイトにアーカイブされていますので、ご覧下さい。ここでは、特にポイントになるところをかいつまんで、書いてみたいと思います。

◆PMコンピテンシーの概念
 まず、最初に議論したことは、PMコンピテンシーはプロジェクトマネジメントの方式に依存しているかどうかです。PMI方式、IPMA方式など、プロジェクトマネジメントの方式はいろいろ提案されていますが、これらの方式を操るPMのコンピテンシーは違うのか、同じなのかという問題です。さらには、P2Mのようなプログラムマネジャーとプロジェクトマネジャーのコンピテンシーは違うのかという問題です。

 この問題に対して、SIGの出した結論は、プログラムマネジメント、あるいはポートフォリオマネジメントとプロジェクトマネジメントに必要なコンピテンシーは異なる。しかし、同じプロジェクトマネジメントであれば、手法やツールに関係なく、本質的にはほぼ、同じマネジメント行動をしていることから、コンピテンシーのレベルでは変わらないだろうという結論になりました。

 同時に、もう一つ問題になったのは、コンピテンシーの概念をどのように捉えるかどうことでした。例えば、PMCDF(プロジェクトマネジャー・コンピテンシー開発体系)を例にとれば、知識、行動、人格を3つの柱にコンピテンシーモデルが考えられています。その上で、人格コンピテンスが、HRM(Human Resource Management)のコンピテンシーと同じものだとし、HRMの概念を拡張したものになっています。

 PMCDFはアセスメントのためのフレームワークであり、このように構成する理由は分かりましたが、では、コンピテンシーの開発を考えたときにどちらがよいかという議論をしました。そして、PMコンピテンシーとHRMのコンピテンシーを同じように位置づけ、プロジェクトマネジメントの行動特性だと位置づけました。その上で、これらを

・知識があり、説明できる
・できる
・うまくできる

 というコンピテンシーのレベルとして捉えることにしました。これにより、まずは知識を習得し説明できる、次にそれらに基づく行動をし、最終的にはうまく行うというように、コンピテンシーの開発段階を明確にできると考えたからです。

◆PMコンピテンシーの開発方法
 コンピテンシーをこのように捉えた上で、その開発方法として以下の3つを考えました。まず、知識がある、説明できるというのは研修を中心としてトレーニングで実現できると考えました。

 次に、行動できるというレベルですが、これは、研修では難しいと思われます。そこで、メンタリングに注目しました。実際には、知識があることと行動することのギャップというのは、行動できることとうまくできることのギャップよりはるかに大きいものがあります。また、現実の局面を考えても、失敗を許されないプロジェクトでとりあえずやらせてみるというのは難しいものがあります。ここでメンタリングを行うことによって、このレベルをクリアすることを考えます。そして、メンタリングを受けながら、手法やツールを徹底的に活用することにより、PMコンピテンシーが高まるという風に考えました。

 これに対して、一旦できるようになった人が、うまくできるようになることは連続性があり、継続的に改善していくべきものだと考えました。そこで、プロジェクトマネジメント行動、プロジェクトマネジメント思考の習慣化によるコンピテンシーの開発を考えました。これはプロジェクトマネジメントに必要なコンピテンシーに関係するいくつかの習慣を考え、その習慣を身につけていくという発想です。今回考えたものは、以下の7つです。

【PMコンピテンシー1】プロジェクトの目的を常に意識する
 プロジェクトの立ち上げ時にプロジェクトの目的を明確にすることはもちろん、計画策定、実行の中で問題点に行き当たった場合には、常に目的に照らし合わせてどのような行動をとるかを決定する。

【PMコンピテンシー2】主体的に行動する
 顧客から言われる前に提案する、上司から言われる前に報告する、問題に行き当たったときには解決策を持って報告するなど、常に自分がイニシャティブをとった行動をする。

【PMコンピテンシー3】ステークホルダとのWin-Winを考える
 主要なステークホルダをきちんと見極めると同時に、そのステークホルダとはプロジェクトの中でどのような困難があっても利害を共有できるように意思決定をし、行動する。

【PMコンピテンシー4】チームを成長させる
 初対面の人がプロジェクトの名のものとに集まった状態から、チームの向かうべき方向を明確にし、その方向にチームが向かうように動機付ける。そして、その方向に向かうために必要な個々人のスキルを開発していく。

【PMコンピテンシー5】リスクをコントロールする
 プロジェクトの初期のあいまいな状況の中で、リスクの存在を認識しつつも、プロジェクトのゴール(成果、納期、コスト)を最優先するためにプロジェクトを進めていく。そして、その中でリスクが現実に発生しないようにコントロールし、また、発生しそうな場合には問題が大きくなる前に対処する。

【PMコンピテンシー6】ステークホルダと共通認識を形成する
 コミュニケーションが相手との共通認識の形成であることをきちんと認識し、ステークホルダとのコミュニケーションにおいて共通認識ができたと確信できるまでは粘り強く、情報伝達や議論を繰り返す。

【PMコンピテンシー7】客観的に自分の行動を見る
 常に自分の行動を第三者的な視点で振り返り、問題点を発見し、自らが率先して問題点の再発防止につながっていく自己開発をしていく。

 そして、これらに対して、習慣化のツールを作りました。今後、準備が出来次第、ツールを配布するとともに、そのツールを使った習慣化 → PMコンピテンシー強化のセミナーを行う予定です。ご期待ください。