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「計画は後ろからせよ」

高根 宏士:2月号

 宮里藍が女子ゴルフの国・地域別対抗戦第2回ワールドカップ(W杯)で苦戦を強いられた。前回は優勝だったが、今年は最下位近くを低迷している。最後は12位であった。南アまで長距離の旅、時差ぼけもあったかもしれない。一つ考えられるのは前回優勝したところで、環境もあまり変わらないから、大丈夫と言う多少安易な考えも働いていたかもしれない。ラウンドの2日前に南アに到着したというのも甘く見ていたためかもしれない。準備不足といえるだろう。ちょっとした違いでスコアは15以上の差が出てしまう。やはりゴルフは難しい。
 ゴルフはホールごとに何打でホールに入れられるかを競うゲームである。途中でどんなことがあっても打数に関係しなければ問題ない。反対に些細な事でも打数にカウントされたらスコアは悪くなる。アマチュアはスコアが勝負と頭ではわかっていても、現実には個々のショットの出来映えに気を取られ、スコアを忘れてしまう。そして90はおろか、100をオーバーする事もざらにある。
 スコアをメークする一つの手段に、グリーンのホールに入れるところから逆にさかのぼり、テイーショットまで考えるという方法がある。例えば380ヤードのミドルホールで自分のドライバーの飛距離が220ヤードだったとする。自分の実力ではボギーで廻ればOKだとする。この場合先ずは1パット圏内ということで5打目は1m以内から打てるような距離が望ましい。そのためには4打目はできれば5m以内、悪くても10m以内のところからパットをする。そのためには3打目のアプローチが30ヤード以内、悪くても50ヤード以内のところにする。すると2打目の飛距離が150ヤードとしても、200ヤード残っても大丈夫ということになる。一方ドライバーが予定通り飛べば残り160ヤードである。ということはドライバーが多少ミスって180ヤードしか飛ばなくてもスコアには影響しない。220ヤード飛ばせる人が180ヤード飛べばよいと思えば気が楽になり、ナイスショットの確率は高まる。万一180ヤードしか飛ばなくても、ショックはない。
 ところがティーショットから考えると、220ヤード飛ばなけばミスショットと思ってしまう。そして挽回を図るために、あまり得意でないクラブを使い、もっと大きなミスをする。このとき2オンの力がないのに気持だけが2オンを狙っている。結果はボギーどころかダボやトリプルになる。そして次のホールに失敗の意識が残り、益々無理をするようになり、結果はまた100をオーバーすることになる。
 我々にとってゴルフは遊びか趣味の世界である。従って100をオーバーしようが、70台で廻ろうがそれほど問題はない。しかしシステム開発のプロジェクトでこのようなことをしていると取り返しがつかなくなる。例えば間に合いそうもない納期をそのままにして、焦って闇雲に取り掛かる事がないであろうか。それは470ヤードを2オンさせろといわれ、できもしないのにティーショットで250飛ばそうとし、チョロッたり、OBにしたりして3オンどころか5オンになってしまう事になることと同じである。
 プロジェクトで最終日の具体的イメージを念頭に浮かべ、そこまでの道程を映画を見るように思い浮かべること、すなわちフィルムを逆回転させて計画を立てる。プロジェクト計画をプロジェクト最終日の想定イメージから始めることである。
 例えばシステム開発のプロジェクトならば、最終日にシステムはどのようになっていれば良いか、それを動かす体制、それまでに準備しておくべき環境等はどうなっていなければならないか。
 そのためにはシステムテストはどのような状態で終了すべきか、そのための具体的なテスト計画が作れるか。開発予定のシステムがテストできるような作りになっているか。テストできるためにはシステムのアーキテクチャはどうなっていなければならないか。これらを現実の納期までの時間と比較して実現可能な範囲で構築できるかどうかという形でフィルムを逆回転させるようにプロジェクトを後ろから見ていくことである。このとき重要なことは最初のテーショットを自分の飛距離の80〜90%でOKになるように計画することである。システム開発で飛距離に相当するものは開発すべき要件のセット(スコープ/要求範囲当)である。当初想定した要件セットが「これならば大丈夫」と自信を持てる大きさでなければ失敗する確率が非常に高くなる。大丈夫と確信のもてる要件セットを実現するために周到なプロジェクト計画を立て、冷静に責任と情熱を持って推進して、初めてプロジェクトは成功する。
 届きもしない250ヤードを飛ばそうと力むよりも、90%以上の確率で可能性のある180ヤードを飛ばせばよいと認識した上で、飛ばす方向にきちんとアドレスし、グリップを点検し、トップスイングのイメージを浮かべて、冷静にスイングすることが予定のスコアでラウンドできる基本である。