先号   次号

「有能の定義」−あなたの有能さはどのタイプですか−

オンライン編集長 渡辺 貢成:2月号

 人間は誰でも有能でありたいと願っています。そして常に有能であり続けたいと願っています。そこで常に学び、実践し、スキルを身に付けて行きます。

 最近講座の講師や、講演をすることが多くなりました。経験しないと分からないことがたくさんあります。自分が理解して話しをしているのですが、自分の話しが簡単に理解してもらえないことにぶつかります。アンケートの結果を見ると理解したという人が多数あると一応安心しますが、本当は違うのではないかと思うようになりました。

 私は本を読むのが好きなほうですから、面白いと感じた本は買ってぺらぺらと頁をめくって一通り目を通します。人にわかりやすく話すことが頭から離れませんから、これは使えそうだという文章が直感的に目に飛び込んできます。そこでその文章のエッセンスを紙に書き出し、じっと眺めて図にしていきます。図が出来たらパワーポイントに移し変えます。次回の講座でその図を使い説明します。受講者の理解度は確実に上がります。正直いいますと、自分の理解度が確実に上がっていることに気がつきます。正しい文章は自分の理解度が増すことによって、他人への説明も分かりやすくなり、結果として受講者の理解度が高まるということを理解しました。

 実はごく当たり前のことを言っているのですが、言うことと実感することは違うためにあえて書きました。別な表現をするならば人間は皆わかったつもりになって、自信を持って話しをしているが本当はさらに奥深いものがあるということを言いたかったのです。わかっている内容についても人によってレベルの違いがありますが、実は上級者はその違いはわかりますが、下級者からはその違いが見えないという問題が存在します。

 そこで本題に戻ります。人は自分が理解して仕事が出来れば有能として評価されます。当然のことながら人間はすべてを一人でできませんから、有能には範囲(領域)があります。言葉を換えると「有能とはあることに関して有能である」となります。しかし、この定義も少し違う気がします。有能といわれる人は何かに直面したとき、最初は戸惑ったとしても、自ら調べたり、他人の力を借りてでも問題を解決する能力のようなきがします。

 さて、今回は別の定義を考えてみました。有能とは「自分に対し有能」、「他人に対し有能」と分類することもできます。「自分に対し有能」とは自分が理解し、業務ができれば十分有能ということがいえます。「他人に対し有能」とは自分が理解したことを他人に理解させる能力を持っており、他人を有能にすることができる能力と定義することもできます。

 以前「勉強したバカ」と「勉強しない自信家」を書きました。これを加味すると有能を3分割できます。
有能分類レベル1:「知識を学びながら自分で使わず知っていることを主張する有能さ」
有能分類レベル2:「知識を学び実践できる有能さ」
有能分類レベル3:「知識を学び、実践し、人に教える活性化させる能力を持つ有能さ」

 レベル1.2.は皆さんよく知っていますが、レベル3について解説します。日本企業では仕事が来ると、部下に役割分担して丸投げすることが通常行われています。出来る人も、普通の人も同じように仕事を命じられています。しかし、人間には能力の差があります。従って業績に差が出るのは当たり前です。レベル3の人はどうするのでしょうか。ここには「20%-80%」の法則が役に立ちます。レベル3は上位20%に属する人間です。彼は仕事の仕組みをよく理解しており、この仕事の成功要因を認識(或いは考え出す能力)し、仕組みや成功要因を教えることのできる知恵者です。残りの80%の人間が彼の知恵を借りることで活性化し、彼と同等の仕事をこなすことができるようになります。この集団は一人のレベル3有能者が4人のレベル2の有能者に知恵を貸すことで、レベル2がレベル3の仕事をするようになり、全員が同じ仕事をするときに比べて2倍近い力を発揮します。レベル3の率いる集団は活性化された集団となります。

 IT専門家のプレゼンテーションを見て常に感じることがあります。パワーポイントを駆使して、自己の技術やツールをこれでもか、これでもかと見せつけます。「A社はすごいね」と感じますが、聞いている方は実力がないので、「すごいね」以上に理解できません。また、発表者は「デモンストレーション」が目的ですから、目的を達成したと考えています。「プレゼンテーション」は相手に理解させることが目的の一つですが、「デモンストレーション」はその必要がないのかもしれません。知らないほうが(弱者)が悪いのかもしれません。

 では、理解させないとどのような問題が起こるのか考えたことがおありでしょうか。IT業界では顧客が明確な要求仕様を出さない習慣があるようです。受注者が提案して(ソリューションという)業務をすすめるようです。最初理解が浅くとも、プロジェクトの進行とともに顧客の理解が進み、顧客自らが要求に気がつき始めます。プロジェクトの半ばで変更が多くなり、プロジェクトは大変混乱し苦労します。プロジェクトの当初に顧客の要求を双方で研究し、理解しあっていれば、これらの混乱を避けることができます。他人に対し有能であることはプロジェクトマネジャーの条件だと思います。

以上