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「グローバルPMへの窓」第5回
グローバルプロジェクトマネジャーのグローバル・ツール

GPMF会長  田中 弘:2月号

 2号続いてPM世界大会の実況中継的なエッセイをお届けした後の今月号では、グローバルPMのツールについてお話しする。
 最近は日本のプロジェクトマネジャーも、社業で、あるいは自己啓発のために海外のPM大会やセミナーに出かけるし、また家族旅行で海外に行ってもプロマネという仕事柄、会社の動きが気になってメールにアクセスしたくなることも度々あろう。
 このようなPM業務のグローバル化で、読者はコミュニケーションを中心としてどのようなツールを活用しているであろうか。PMAJでも情報交換をしたいと思っているが、まずは標準的なユーザーである筆者流儀を紹介したい。
 数年前まで、筆者は、PC活用のプロであるはずのIT業界のプロジェクトマネジャーが海外出張の際にPCを持参する例があまりないことをいたく不思議に思っていた。筆者が所属するエンジニアリング会社では90年代の中盤からほとんどの社員がPC持参で海外にでかける習慣があったのでそう思ったのであるが、ITのプロうんぬんではなく、海外売上比率が70%以上のエンジグ業界と国内業務が多いIT業界の業務環境の違いがあってのことであると分かった。筆者は、1967年に初月給でタイプライターを買い、78年にはプロポーザル業務の責任者として世界発のワープロ(英語)であるWANGを使い始めたくらいであり、一応この年のビジネス人としてはキーボードアレルギーがなかった。90年に、会社が使っていたDEC社のすぐれもの“オール・イン・ワン”というe-メールネットワーク機能を搭載した東芝のPCを持って海外出張にでかけ、行き先での報告書の作成や、ローミングにより会社のネットワークにアクセスできる快感がきっかけとなって出張には必ずPCを持参することにしている。
 さて、80年代に年間8回から10回あった海外出張も職位があがるにつれて回数が少なくなったが、ここ3年は社業ではなくPM協会の任務で海外にでかける回数が多くなり昨年は10回もでかけた。こうなると出かけた先でのプレゼンテーション、資料作成あるいはコミュニケーションの効率を上げるためにツールには極めて敏感にならざるを得ない。
 そこですこし長いが筆者流の対処法をご覧あれ。
グローバルPM海外7つ道具
 常に持参すべきものは、PC、マウス+パッド、電源アダプター(国・地域ごとに形状が異なる)、バックアップ用メモリー(USB型フラッシュメモリーが汎用的でお薦め)、ねじドライバー、イーサネットケーブル(LANケーブル)、無線LANカード(Centrino PCであればカード内臓であり不要)であろう。これで7つ道具となり、他にクレジットカードとエアラインのマイレージカードも必須である。
PC+PC周り
 PCはやはり重い。でもプロマネたるもの、出先での仕事も「日常の一コマ」と考えればPCは持参しよう。
 海外にでかける日本のプロジェクトマネジャーが好んで使っているPCでトップはIBM (Lenovo) ThinkPadであり、海外のプロジェクトマネジャーはThinkPad、東芝、NEC(後者2つは海外仕様)が多いように感じる。ThinkPadも日本IBM大和研究所の作であり、Personal Computer なる用語が日本から生まれたごとくPCは我々日本人が生み出した優れたビジネスツールである。とかいう筆者はThinkPadとHP (Compaq)を交互に使用しており、特にThinkPadのキータッチの深さと堅牢さを好んでいる。
 携帯用にはコンパクトなPCをという考えもあるが、出先での業務の効率を求め、また作業からの疲労を低減するのであれば、なんといっても画面がA4サイズ以上のものがお薦めである。出先で使用するプレゼンテーションファイルなど重要なファイルは必ずバックアップをUSBのフラッシュメモリーに入れて持参する必要がある。なお、USBメモリーの上級編の使い方がある。海外PM大会では最低3日程度、参加者が呉越同舟となる。ウェルカムレセプションでスピーカー達とネットワーキングを行い、その人のプレゼンテーシが印象的であれば、プレゼンにいたく感動した旨を伝え、USBスティックを差しだして、ファイルをこれにコピーして戴けないか、と切り出そう。ゴマのすり方が上手ければまず快諾してくれる。
インターネット・電子メール
 海外でのインターネットと電子メールの使用のためには、国内の(大手)プロバイダーが提供している海外ローミングサービスを使うということが知れ渡ってきたが、このローミングがなかなかの曲者で、米国やシンガポールなど以外では、指定のローカルアクセスポイント経由ではセキュリティー認証が厳しくて繋がらないということが頻発する。国際通話経由であるとほとんど繋がるが、ホテルから国際通話をすると電話料金が数日の滞在で数万円になる(筆者は97年にインドで、ホテルに4泊して15万円の電話料を泣く泣く払ったことがある)。従って筆者は現在ほぼ全面的にADSL (LAN) または無線LANを使用している。いずれも高速であり、料金もリーズナブルである。出張先の環境により、二つのどちらかが使えるかあるいは両方が使えるかは定かでないので、以下に両方の使い方を簡単に解説する。

  1. いずれの環境でも自分のPCに、自分のプロバイダー経由で、インターネット閲覧と電子メール環境の設定がしてあることが前提となる。
  2. 自分のPCに(イーサネット)LANポート(接続口)があることを確認する(電話ケーブルの接続口より大きいのがLANポートである)。イーサネットケーブルはパソコンショップで安価で買える。
  3. PCが無線LANカード内蔵で無い場合は、無線LANのカードを買い求めてマニュアルに従って設定する。無線LANは世界中同一規格であるので国内の移動用にも勿論使用できる。これも数千円程度の投資である。
  4. ADSL(LAN)は、中級以上のホテルの部屋や一部の空港で使用できる。ホテルでは無料か、一日10米ドル程度でインターネットとメールが使い放題となる。なお、ADSLは先進国ではほとんどPlug & PlayでPCと空港やホテルの部屋のLANポートをイーサネットケーブルで接続してPCを起動することで使用できるようになるが、インドなど一部の国では、ホテルのITスペシャリストによってIPアドレスを設定することが必要となる。この場合は遠慮なくフロントにアシストを頼むべきである。
  5. 無線LANは、すべての空港、4星以上のホテル内、都市の主要なビル・施設などで使用できる(その国のIT装備度が高いほど使用できるスポットが増える)。PCを起動することでPCが自動的に電波を検索してくれるので、空港や一部のホテル客室などでは無料の電波ステーションからの無線LANが利用可能であり、その際にはインターネットの閲覧を存分に行い、また有料のステーションの場合は、ホテルなどでログインのためのIDを書いたプリペイドカードを購入して、カードに書いてある手順でログインする。カードは使用した時間の累計ベースで使える上限時間が何種類か設定してあり、自分の滞在日程と使用頻度に応じて決められるようになっている。なお、日本でNTT DoCoMoやヤフーBBなどの無線LANプロバイダーと契約している人は海外で無線LAN のローミングがあるのであらかじめ調べておくとよい。

 とはいっても海外にまでPCを持参するのは嫌であるがメールは見たいという人には、大手のプロバイダーはWEBメールと称する、どのPCのインターネット画面上でも自分のメールを受発信できるサービスを提供していて、空港やホテルのビジネスセンターのPCから、事前に調べておいたWEBメール閲覧のためのインターネットアドレスを入力することで利用可能である。ただし、本人観光客が多い日系ホテルや一部の空港を除いては、画面で日本語表示はされても、メールの発信はローマ字でしかできない。
海外からの(固定)通話と海外携帯電話
 海外からの通話では、ホテルの部屋からの通話は、サーチャージが今でもきわめて高いので、緊急時以外は利用を止めて、公衆電話からのクレジットカード通話を利用するか、多くの先進国で一般的であるプリペイドのコーリング(通話)カードを利用する。海外でカードを買うのが億劫な場合は、成田空港などで、KDDIの国際コーリングカードを買っていくと多くの国で利用できる。一番割安のコーリングカード利用であると、ホテルの部屋からの半額から三分の一程度で通話できることも多い。
 最近は日本人も海外で海外用携帯電話を使用することが多くなった。ひとつには世界の治安情勢の悪化から、セキュリティー対策に海外携帯電話を持参することも増えていることによる。ほとんどの日本の携帯電話は海外でそのまま使用できないので、多くは、スポットで海外専用携帯をレンタルで賄うが、料金がかなり高い。筆者の場合はレンタルの場合は、料金がかなり安いG-Call を使用している(http://www.g-call.com/index.php)。
 最近は自分の国内携帯電話機と番号が海外でもそのまま使用できる機種が出てきた。ただし、この機種は国内で携帯電話を頻繁に使用する人には危険である。つまり、携帯電話には着信料がかかり、その人が海外に居ることを知らずに多くの着信があった場合は、多額の料金がかかることになるからである。
 筆者は国内で携帯電話は余り使用しないので、海外での用途も考えてNTTドコモの第3世代(3G)携帯電話でPDA機能を搭載したM1000を今年から使用している。これは、世界中どこでも同じ番号で通話ができるほか、インターネットとメール機能はパケット通信または無線LANを介して高速で利用でき、他にスジューラー、電話会議、カメラ、オーディオ、録音、となかなか飽きないツールである(機種の買値3万円強・月額使用料は国内ベースで8千円程度)。
エアラインマイレージ
 多くのビジネスパーソンはエアラインのマイレージカードを利用しているであろう。
 国内出張のみであるか海外出張は年1回以下の人であれば好みのエアライン1社の会員になりマイルを貯めこめばよいが、年間3回以上海外に、しかも様々の地域にでかける人は複数のマイレージ会員となり、ポートフォリオ的感覚でマイルを蓄え有効に活用するほうが得策であろう。つまり、行き先空港により就航エアラインの関係でせっかくの蓄えたマイルが使用できないことがあるからである。
 筆者の場合は89年にノースウェスト航空のマイレージ会員となり、その後アメリカン航空、全日空と追加していったら、現在では、スターアライアンス、ワン・ワールド、スカイチーム(ノースウェスト、KLM、エールフランス、デルタ)と使い分けられる。ちなみに行き先がアメリカ、ヨーロッパ、アジアの人はマイルの有効利用の観点からはノースウェスト航空のマイレージプログラムが他のマイレージ連盟より少ないマイレージで無料搭乗ができる。
 次号からはグローバル規模でのPMスタンダードと資格について解説する。◆◆