PMプロの知恵コーナー
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PMBOK第8版時代のPMマインドセットを育てるジャーナリング

竹腰 重徳 [プロフィール] :9月号

 プロジェクトの失敗は、技術不足や計画不足だけで起きるわけではありません。むしろPM自身の思考の偏りや感情的な反応が判断を誤らせることがあります。AI時代のいま、PMには知識や手法だけでなく、自らの思考を整えるマインドセットが求められています。マインドセットとは、私たちが物事をどう捉え、どう反応するかを決定づける「心のあり方」のことです。マインドセットは、過去の経験や教育、周囲の影響などを通じて形成され、私たちの日常の判断や行動に大きな影響を与えます。将来の予測が難しいVUCAの時代におけるビジネス環境では、変化に迅速に適応し、複雑な課題に対処するために、スキルや知識だけでなく、物事に対する「考え方」や「心の持ち方」が成功を左右する重要な要素となっています。この「考え方」や「心の持ち方」は、私たちの日々の行動や決断、さらにはキャリアの成長に大きな影響を与えるのです。ビジネスにおいては、マインドセットが個人や組織のパフォーマンスに直接的な影響を及ぼすため、重要な要素として注目されています。

 なぜ今、PMにマインドセットの育成が必要なのでしょうか。従来のプロジェクトマネジメントは、品質、コスト、スケジュールをいかに制御するかに主眼が置かれていました。しかし、激変するビジネス環境において、予測型の管理手法だけでプロジェクトを成功に導くことは不可能です。PMは常に、ステークホルダーからの相反する要求、技術的な不確実性、そしてチームのモチベーション低下といった正解のない最前線に立たされています。ここでPMのマインドセットが揺らぐと、微細なエラーが判断ミスを呼び、最終的にプロジェクト全体の崩壊を招きます。PMに必要なのは表面的なタスク管理スキルではなく、カオスの中でも冷静さを保ち、状況に適応し、人間関係を円滑にするマインドセットなのです。この考え方は、PMBOK第8版とも深く関係しています。第8版では、知識や手法だけでなく、価値創出に向けて主体的に行動するマインドセットの重要性が強調されています。その例として、先見性(Proactive)、当事者意識(Ownership)、価値駆動(Value-driven)などが挙げられています。PMはこれらのマインドセットを基盤として、冷静に状況を観察し、柔軟に適応することが必要であると述べています。

 PMのマインドセットを育てるには、日常的な「感情の言語化」や「客観的な振り返り」を可能にするジャーナリングが極めて有効です。複雑な意思決定や多様な関係者との調整を乗り越えるため、内省を通じてレジリエンス(回復力)と目的志向を鍛えることができます。ジャーナリングとは、頭に浮かんだ思考や感情をありのままに書き出す行為であり、「書く瞑想」とも呼ばれています。ジャーナリングの効果は、脳科学的にストレスの軽減や認知機能の改善などが実証されています。世界的企業でも注目されています。Googleで生まれたSIY(Search Inside Yourself)は、マインドフルネスとEQ(感情知性)をベースにした人材育成プログラムですが、その中でも「自己認識」が重視されています。自分の感情や思考パターンを理解しなければ、冷静な判断はできません。そのため、「書いて振り返る」習慣が推奨されています。書くことで、自分自身の考えや感情を客観視できるようになります。これはPMにとって非常に重要です。PMは技術だけでなく、人間関係や感情のマネジメントも求められるからです。AI時代になるほど、「人の感情を理解する力」「冷静に対話する力」は、むしろ重要性を増していきます。AIは、多くの答えを提示してくれます。しかし、「本当に何が重要か」を決めるのは人間です。AIは分析や情報整理を支援できますが、どの価値を優先するか、利害関係者との関係をどう築くか、最終的な意思決定をどう行うかはPMの責任です。だからこそPMには、
* 本質を見抜く力
* 問いを立てる力
* 自分で考える力
* 人間関係を調整する力
が必要になります。

 ジャーナリングは、これらの力を鍛える土台となる習慣です。難しい方法は必要ありません。一回に長く書く必要はありません。1日3分でも5分でも自分に問いかけて書く出すことで、思考や感情は確実に整理されます。
* 今日の判断でよかったこと
* 気になっていること
* 明日に試したいこと
などの問いに対して心にあることを書いてみるだけでも効果があります。重要なのは、「うまく書くこと」ではなく、「自分の思考や感情をありのままに書くこと」です。AI時代だからこそ、情報に流されず、本質を考え続けるマインドセットのしっかりしたPMが求められています。PMBOK第8版が求めるのは、手法をこなすPMではなく、状況に応じて学習し続けるPMです。ジャーナリングは、その学習と成長を支える最も効果的な習慣の一つです。AI時代だからこそ、1日5分、自分と向き合う時間を持ってみてはいかがでしょうか。

参考文献
1. キャロル・ドゥエック、マインドセット、今西康子訳、草思社、2018
2. Pennebaker, J. W., & Chung, C. K. 、 Expressive Writing: Connections to Physical and Mental Health 2011
3. チャディー・メン・タン、SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)、英治出版、2016
4. PMI、PMBOK-V8、PMI、2025

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