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「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その14)
~ 英・仏・独・スペインの宇宙ベンチャー ~

長谷川 義幸 [プロフィール] :9月号

 今回は、日本のマスコミに出てこない欧州主要国の宇宙ベンチャーの状況を紹介します。

(1)英国の宇宙開発の歴史 (*1) (*2)
 英国は、第二次大戦後に英国に捕虜として来たドイツ人の科学者を説得し、ロケット工学に関する多くの知識と技術を獲得した。そして初期的な実験として小型空対地ミサイルの実験や核ミサイルの開発が1950年代前半から始まった。
 発射実験は、当時英国自治領であったオーストラリアのウーメラ試験場「はやぶさ2」カプセルの地球帰還の場所として日本でも知られている。)から行われた。さらに極超音速ロケットも1969年~1979年にかけ、ここから打上げられテストされている。そして、英国独自で衛星を打ち上げることに成功し、世界で6番目の衛星打ち上げ国となった。
 1950年代初頭には液体水素エンジンの開発に着手、実用化の一歩手前まで進んでいたが、科学者の米国への流出、植民地の喪失で資金減少、などから英国独自開発の道は諦め、アメリカ、ロシア、欧州宇宙機関などとの協力によって宇宙開発を行うようになった。
 しかし、英国は最近独自の開発を指向するようになり、科学技術分野の発展に対する政策を強化している。
 2023年には科学・イノベーション・技術省を新設、200億ユーロ(約3兆7千億円)の研究開発資金を提供している。
 英国宇宙庁では、2023年に宇宙クラスター基盤基金を発表、宇宙開発に関連する先進的な製品やアプリケーション開発を加速させるために5千万ユーロ(約93億円)の資金提供を行った。これには、衛星の打ち上げ、衛星対応ブロードバンド、衛星軌道上のサービス、衛星製造などへの投資が含まれている。また、国内にロケット打ち上げ用に3つの主要な射場を持っている。
  ・サザーランド(垂直型) ・サクサヴォード(垂直型) ・コーンウォール(水平型)

(2)英Skyrora(スカイローラ) (*3)
 2017年英国エディンバラで創業、小型衛星向け3段式ロケット「Skyrora XL」とサブオービタル機などを開発する新興企業で英国北部サクサヴォード宇宙港(英シェトランド諸島のアンスト島)を主な発射拠点にしている。
 Skyrora XLは全長約23mの3段式ロケットで、315kgの荷物を太陽同期軌道に投入能力を持ち、順調に進めば、2026年10~12月にも打上られる可能性がある。
 一段目に9基のエンジンを搭載、常温保管可能な廃プラスチックを資源化した燃料を試験導入し、大型部品を発射場近接工場で3Dプリンタでの製造をする方式を採用している。
 2021年には欧州宇宙機関から助成金を獲得し、エンジン開発を加速させている。2025年、ウクライナ出身投資家がこの会社の約90%の株式を取得し長期資金を確保した。
 打ち上げ射場の混雑と規制対応が続いているので、スケジュールリスクは残るが「廃プラスチックを資源化した燃料」「3Dプリンタ製造」「マルチサイト発射」という技術・事業モデルは、欧州宇宙ビジネスの「次の定番」になり得る要素を備えている。今後1〜2年の試験飛行と資金確保の行方が将来図を決定づけると思われる。

(3)英国Orbex(オーベックス)
 2015年に設立された英国スコットランドを拠点としていたロケット開発企業「Orbex(オーベックス)」は、バイオプロパンと液体酸素を推進剤に使用する低炭素設計が特徴の全長19mの2段式小型ロケット「Prime(プライム)」を開発、テスト飛行を2026年中に予定していた。
 英国政府から総額約3千万ユーロ(約56億円)の公的融資を受け、既存のスペースポートで施設を利用するサクサヴォード宇宙港を射場拠点として設定していた。しかし、2026年1月にデンマークのエンジン子会社が破産申請し、英国政府からの追加融資も見送られた。
 最後の望みだったフランスの宇宙スタートアップ「The Exploration Company」による買収交渉も決裂、資金調達の失敗もあり事実上の経営破綻となった。
 なお、Orbexが計画していたサザーランド宇宙港(英スコットランド北部サザーランド)の権利については、前述のライバル企業Skyroraがリース権を含む資産取得する意向を示している。

(4)ESA(ヨーロッパ宇宙機関)の小型ロケット育成プログラムは苦戦中
 上記Orbexの破綻は、ヨーロッパ宇宙機関の小型ロケット育成プログラムにも影響を与えることになった。0.8億ユーロ(約1480億円)が投じられるこの取組みでは、同機関が2025年7月にOrbexを含む5社を選定したが、選定された企業は2027年末までの軌道投入実証が求められている。現在選定されて残っている企業4社の状況は以下である。

  • ドイツの「Isar Aerospace(イザール・エアロスペース)」 (*4)
     2018年、ミュンヘン工科大学の卒業生3名によって設立され、ミュンヘン近郊に建設された40,000平方メートルに及ぶ巨大工場で年間最大40機のロケット生産が計画されている。同社はロケット部品の約80%を自社内で製造しており、外部サプライヤーに依存する従来の航空宇宙産業とは一線を画した徹底した垂直統合とアディティブ・マニュファクチャリングを行っている。
     出資者にはAirbus VenturesPorsche SEといった欧州産業界の巨頭が名を連ね、Porsche SEは同社が欧州を代表するメーカーになる可能性を高く評価している。1000kgの荷物を投入できるSpectrum(スペクトラム)ロケットの初飛行を、2025年3月にノルウェーのアンドーヤ宇宙港で実施した。ヨーロッパ大陸からの民間初の軌道打ち上げ挑戦として注目を集めたが、打ち上げ約30秒後に姿勢制御を失い墜落した。2回目の打ち上げは2026年3月以降に予定していたが、圧力容器の微細なリーク(漏れ)などにより延期を繰り返している。なお、2026年3月には、日本の宇宙デブリ除去会社であるアストロスケール英国子会社との契約が発表された。
  • ドイツの「Rocket Factory Augsburg(ロケットファクトリー・アウクスブルク:RFA)
     2018年にドイツの宇宙技術・衛星システム会社OHB SEのスピンオフとして設立された小型ロケット企業である。主力機の「RFA One」は、小型・超小型衛星を地球低軌道や太陽同期軌道へ運ぶことを狙った多段式の小型ロケット。2024年8月、スコットランドの射場で行った第1段ホットファイア試験で爆発事故が発生し第1段を喪失。原因を究明・対策し、機体を再製造して初飛行に再挑戦している段階である。世界有数の投資ファンドKKRも出資する欧州有力候補である。 (*5)
  • スペインの「Payload Space(ペイロード・スペース)」
     2011年に設立され、2023年に同社が開発した「Miura 1」ロケットの打ち上げに成功した。そして2段構成では全長34mで、低軌道に1000kgの貨物を投入でき、再利用可能な第1段を有している「Miura 5」ロケットの初飛行を、2026年中にフランス領ギアナのクールーで計画している。
     直近ではスペインの衛星通信企業と打ち上げ契約を獲得や、ロケットの確保と衛星データを使用した新サービスの提供を目指す日本の三菱電機が5千万ユーロ(約93億円)を同社に出資するなど商業的な面で進捗をしている。
  • フランスの「MaiaSpace(マイアスペース)」
     欧州最大のロケットを開発しているアリアングループ(エアバスとサフランの折半出資子会社)傘下の仏ベンチャー企業Maia Spaceは、再利用可能ロケットの開発計画を進めている。2024年1月にアリアンスペースから1億2500万ユーロの出資を受けたことが報道された。
     Maia Spaceは、再使用型ロケットを2026年中の初打ち上げを掲げている。

(5)まとめ
 大型ロケット(Ariane6)で存在感を示している欧州だが、小型ロケット分野ではまだ1社も商業的な軌道投入を達成できていない。一方、アメリカではRocket Lab(ロケットラボ)が小型ロケット「Electron(エレクトロン)」で2025年に21回の打ち上げを成功させ、市場を牽引。さらにスペースXのFalcon9(ファルコン9)がライドシェアミッションで小型衛星を圧倒的な低価格で軌道投入、高いシェアを獲得しており、欧州との差は歴然としている。
 欧州小型ロケット育成プログラムに残る4社が2027年末の期限内に軌道投入を実証できるかどうかが、ヨーロッパの小型ロケットの未来を左右することになりそうだ。

参考資料
(*1) リンクはこちら
(*2) リンクはこちら
(*3) リンクはこちら
(*4) リンクはこちら
(*5) ロケット・ファクトリー・アウクスブルク(RFA)の上場はいつ? — 独小型ロケットとIPO候補の注目度【2026】 | 宇宙旅行.com

1ユーロ=185円 で換算

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