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「日本の宇宙開発ベンチャーを巡るいくつかの動き」(その11)

長谷川 義幸 [プロフィール] :6月号

1.苦労したロケット開発 (*1) (*2)
(1) 羅老(ナロ)ロケット
 韓国のロケット開発は、1993年の観測用ロケットの打ち上げから始まった。
 韓国の宇宙開発の開始が遅れた原因の一つは、米国との覚書、ロケット開発に制約がかかっていたことであった。「射程距離180km、弾頭重量500kg以上のロケット開発はしないこと」射程距離の長いミサイルの開発をさせないための制約を米韓覚書で約束していた。このため、地球周回衛星を打ち上げる規模のロケット開発は不可能であった。
 1998年、米韓二国間ミサイル協議により民生ロケット打ち上げについて覚書の制約を撤廃できたので、国産ロケットと射場の建設を開始した。その年の8月、北朝鮮がミサイル発射実験をした。金大中政権は2005年までに「長距離宇宙ロケット」を開発するよう韓国航空宇宙航研究院(KARI)(※)に命じ、予算をつけた。
 ※ KARI : Korea Aerospace Research Institute
 韓国は技術協力を求めるため各国に打診した。しかし、アメリカは韓国が軍事転用することを懸念し協力せず、フランスも高額な金額を提示し実情拒否、中国とインドはミサイル技術管理レジームに参加していないため協力が得られなかった。
 その状況の中、技術移転に協力してくれそうなロシアとウクライナのうち、アメリカとフランスの3分の1程度の価格を示したロシアを協力相手として選定し、2004年10月にロシアのクルニチェフ社とロケットシステム協力契約を結び、「羅老」の開発が本格的に進められることになった。
 当初、韓国は第1段エンジンの技術移転を受けて国産化しようと考えていた。しかし、ロシアとの契約では、第1段ロケットに一切関与できないこと、一部を除いてソフトウェアの修理に参加できないこと、さらに第1段目ロケット送信データもロシアにより暗号化されて内容がわからないようにしていたこと、などの制約があることが判明した。
 このため、技術移転を放棄し完成品を輸入する契約内容となった。しかし、2009年に1号機の打ち上げは失敗し、続いて2010年の2号機も打ち上げにも失敗した。
 2013年の3号機の仕上げにはなんとか成功したが、苦労の連続だった。そして、ロシアとの技術協力契約は終了した。

(2) 国産ロケット「ヌリ(朝鮮語で“世界”)」
 羅老ロケットの打ち上げが終了した後、後継機として国産ロケット「ヌリ」の開発が行われることになった。
 韓国航空宇宙航研究院(KARI)は、羅老ロケット開発でロシアが残していったロシアのRD-151エンジンの実物を得て75t級エンジンの開発を進めていった。
 2018年11月、75t級エンジン1基の試験弾道飛行が実施され、高度100km以上に到達成功した。そして、第一段に75t級エンジン4基をクラスター化した「ヌリ」ロケットを完成させた。2021年に初号機が打ち上げられたが模擬衛星の軌道投入に失敗した。原因は、第3段ロケットの燃焼時間が46秒早く終了してしまい、目標速度の秒速7.5km/sに達しなかったためであった。
 2022年には2号機の打ち上げを行い、ついに衛星の軌道投入に成功した。2023年5月25日の3号機の打ち上げも成功している。

 米国やロシアなどの宇宙先進国は、ロケットの核心であるエンジン技術を絶対に外国には出さない。機密であるはずのロケットエンジンの実物がなぜそのまま韓国に残されたのだろうか?
 KARIの元院長は、「ロシアは韓国にはエンジンのついた第1段地上検証用発射体は、模型だと説明していた。」という。「ロシアは国家の債務不履行に陥って経済的に厳しく社会が混乱していた時だったから、模型のエンジンをわざわざ作るほうが費用も多くかかるので既成のエンジンをそのまま付けておいたのだろう」と推測している。
 KARIはこの状況を逆手にとって、「契約では第1段地上検証用発射体の韓国側への引き渡しが含まれていた」と主張してロシアへの持ち帰りを阻止した。
 後に分かったことだが、この件でロシアのクルニチェフ社の社長が解任された。

2.韓国の宇宙開発、民間へ移行中 (*3)
 2025年11月27日、韓国独自の技術で開発された国産ロケット「ヌリ号」の4号機が韓国南部の羅老(ナロ)宇宙センター(右図)から打ち上げ成功した。
 今回が4回目の打ち上げで、次世代中型衛星と12基のキューブサット(超小型衛星)を高度約600kmの目標軌道へ投入に成功した。打ち上げはKARIであるが、韓国防衛大手ハンファ・エアロスペースが、政府から技術譲渡を受けてロケットの製造から組立、射場運用の全工程を主導した。
 ハンファグループは、火薬製造から始まり、石油化学、鉄鋼、機械、防衛産業、造船、金融などの事業を展開する韓国第7位の企業グループである。
 ハンファグループの傘下であるハンファシステムは、年間最大100機のSAR衛星を含む小型衛星を製造する衛星製造工場を済州島に建設している。
 なお、ロケットの打ち上げは、2026年に5回目、27年に6回目を目指している。

 また、韓国独自の技術で開発された人工衛星が活躍し始めている。
 2025年12月2日には、宇宙航空庁と韓国航空宇宙研究院が韓国独自技術で開発した多目的実用衛星「アリラン7号」が、欧州アリアンスペースのロケット「ベガC」にて打ち上げられ成功したと発表した。重量1840kgのこの衛星は今後5年間にわたり地球低軌道500kmの太陽同期軌道で朝鮮半島を精密観測する予定である。この衛星は高解像度光学カメラを設備し、世界的にもトップレベルの30cm級の超高解像度(小型車かトラックか車の種類まで識別できる)であり、災害監視、国土管理などの能力が向上し、迅速で正確な情報を提供できることになる。
 これらの状況は、韓国宇宙産業がスペースXのように、民間中心体制に本格的に転換される分岐点に入ったという点で評価されている。

○まとめ
 韓国の宇宙開発は政治的な影響もあり遅れをとっていたが科学技術力と経済力を保有している韓国は、国産でロケットも衛星も開発できるようになっており、現在ではベンチャーの衛星開発会社が小型衛星を開発するまでになっている。
 日本は宇宙技術の多くを黎明期に米国から導入した。韓国と違って、米国が日本に技術供与を許可した背景には、「1964年に中国が核実験に成功したため、日本が核兵器とミサイルを保持する方向になるのを米国政策当局は危惧した」「中国が日本より科学技術において優越している印象をアジア諸国に与えないようにアジアの共産化防止政策をとる必要に迫られた」と言われている。宇宙開発は国際政治経済関係の動向による力学に影響をうけるので、自国の国力を日常的に高めておくことが重要であると、この原稿を書いていて認識した。

参考資料
(*1) 韓国航空宇宙研究院 - Wikipedia
(*2) 宇宙開発と国益を考える研究会~アジア太平洋戦略~報告書、2007年、日本宇宙フォーラム
(*3) 韓国宇宙ビジネスが本格始動!ヌリ号4号機成功で「ニュースペース時代」へ|宇宙ビジネスキュレーター

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