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年齢をプラスに変える力

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 先日見た音楽番組で、ユーミンが新作『Wormhole』を紹介する際、「50年のキャリアがあるからできた」と言ったようなことを語っていた。50年分の音源という圧倒的な蓄積があるからこそ、AIと共生する新しいアルバムを生み出せたのだという。さらに2025年11月から始まる「THE WORMHOLE TOUR 2025-26」では、2026年に72歳を迎えることにちなみ、全国72公演を行うと発表していた。そのニュースを聞いた瞬間、「やられた、さすがユーミンだ」と思った。
 「何年働いていますか」と聞かれると、私自身は「相当長いです」といった感じで、つい言葉を濁してしまう。何年働いてきたのかを明かすと、自分が老けたように感じてしまうからだ。しかしユーミンは50年のキャリアを堂々と肯定し、「私だからこそできる」と言い切る。芸能人の場合、ウイキペディアに生年月日も出ているので、隠してもすぐわかってしまうというのはあるが、笑顔と共に堂々と言い切ったその姿は実に美しかった。
 同じように、郷ひろみも年齢を言い訳にしない存在だ。70歳の誕生日ライブでは2日間で70曲を歌い切り、日々の徹底した身体づくりで“年齢不詳”の体型を維持している。黒柳徹子さんも90歳を超えてなお現役で、先日観た『徹子の部屋』スペシャルでは、キムタク相手に驚くほどの語りのキレを見せていた。寝る前にスクワットを50回すると紹介されていて、20回で足が痛くなってやめてしまう私には大きな刺激になった。好奇心も健在なことは、数々の質問や語りからも伝わってきた。好奇心と習慣の力こそ、長く輝き続ける秘訣なのだろう。これまでに長年の蓄積があるからこそ、これまでにインタビューをしてきた俳優さんたちなどの若い頃の映像も次々に流すことができ、それが番組に厚みを加えていた。
 日本の社会では、年齢を重ねることがネガティブに語られがちだ。体力の衰え、外見の変化、会社の定年制度。そうした要因でやりがいを失う人たちを実際に何人も見てきた。しかしユーミン、郷ひろみ、そして黒柳徹子さんは、年齢を重ねることを「衰えること」というマイナスではなく、「経験を積み重ねること」でプラスにもなりえることだと教えてくれている。
 先日受講した講師養成講座で、講師が「50代半ばの今、新人研修を担当している。それを考えれば、75歳になっても、40代・50代向けの研修が十分できる」と語っていたのも、私が今、講師をしているからより一層励みになった。成長は止めなければ続く。努力し続ければ、年齢を重ねても仕事を続けることができるのだ。
 私は現在、個人事業主としてグローバルコミュニケーションのコーチングをしている。生徒は20代から50代まで幅広く、彼らの目に、私がどのように映っているのか気になることもある。見た目は髪の毛の色や目の下のたるみからも年を重ねていることは明らかだし、エンターテインメント業界については学び始めてまだ三年で、知らないことも多い。それでも、年齢を重ねたからこその強みが私にはある。人生経験の厚みは共感力を育て、数多く観たり聞いたりしてきた映画・音楽・ドキュメンタリーから得たものが他者理解の土台になっている。人事やコーチングで培った知見や、長年英語に触れてきた蓄積も活かせる。
 もちろん、経験に依存しすぎないよう、自分でも工夫を続けている。今支援している人たちの世界への理解を深めるために、読む雑誌はプレジデントやTIMEからRockin’ on Japanや日経エンタメなどへと変わり、音楽番組やアーティストのインタビューを積極的に見るようになった。生徒が関わるアーティストの出演もチェックし、好奇心を持って彼らの世界に触れている。AIも英語指導やメモ作成に取り入れ、長年の英語の蓄積があるからこそ、誤回答にもすぐ違和感を覚えて修正できている。英語指導においては、AIと共生できている。
 一方で、「年齢相応に振る舞ってほしい」と言う人もいる。しかし年齢相応とは他人が決めるものではない。本人が「まだやれる」と思うなら、それでいい。そしてその姿から元気をもらったり、蓄積から学んだりする人がいれば、なお素晴らしい。
 以前、アメリカの医師のポッドキャストで、「高齢者たちが青春時代の環境を再現した場所で1週間過ごすと心身が若返った」という研究を紹介していた。身体と心は一体だから、気持ちのあり方が若さに大きな影響を与えるのだという。
 年齢を理由に自分を縮めるのではなく、積み上げた経験を次の世代に役立てたい。疲れや見た目を言い訳にするより、できることに目を向け、年齢をプラスに変えていきたい。
 みなさんにもぜひ、自分が積み重ねてきたものを一度見つめ直してみることを薦めたい。年齢をネガティブに捉えるのではなく、その蓄積を価値として活かす力が、自分の中にあると信じて。

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