PMプロの知恵コーナー
先号   次号

マインドフル・アジャイル

竹腰 重徳 [プロフィール] :3月号

 アジャイル開発は、絶え間なく急激に変化する環境で、ムダを最小限に抑え、協調性、柔軟性を重視した活動することにより、顧客価値を提供します。そのために開発チームや組織は「アジャイル・マインドセット」でアジャイル手法を実践することが不可欠です。「アジャイル・マインドセット」とは、アジャイル価値観と原則 (1) が、完全に頭の中に叩き込まれている状態でのアジャイル手法を使うときの留意すべき大切な心構えで、開発チームの行動指針となるものです。それに基づいてアジャイル手法を使えば真の利益をチームや組織にもたらします (2)。「アジャイル・マインドセット」とマインドフルネスとを組み合わせてアジャイルを実践することを「マインドフル・アジャイル」といい、2つの相乗効果により、大きな効果を上げることが期待できます。

 「アジャイル・マインドセット」はアジャイル価値観から導かれます。
 「プロセスやツールより個人とその相互作用を」という価値観は、高い意欲と多様なスキルを持つメンバーで構成される開発チームが、チーム全体がひとつになり自律的に創造性を発揮してこそ、ニーズに合った顧客価値をもたらすことができるということです。開発チームの協調がアジャイル開発の中心であるという「アジャイル・マインドセット」です。
 「包括的な文書より動くソフトウェアを」という価値観は、実際に動く顧客価値をできるだけ俊敏に試作し、顧客からのフィードバックを得て失敗から学ぶという反復漸進型開発方法が、顧客の要求に合った顧客価値を提供できるということです。すなわち顧客価値の提供を重視するという「アジャイル・マインドセット」です。
 「契約交渉より顧客との協調を」という価値観は、顧客と一体となった協調体制が、顧客の真のニーズを引き出し、顧客満足の高い顧客価値を創り出します。顧客との協調が大切であるという「アジャイル・マインドセット」です。
 「計画に従うより、変化への対応を」という価値観は、顧客の競争優位の顧客価値のため変化に柔軟に対応し、ムダを最小限にしながら開発することが、顧客満足の高い顧客価値の提供と高い開発生産性をもたらします。柔軟な対応が必要であるという「アジャイル・マインドセット」です。
 要約すると、開発チームがアジャイル手法を実践するときには、開発チーム内の協調および顧客との協調と変化に柔軟に対応することにより、顧客の求める真の顧客価値を提供できるということです。

 マインドフルネスの実践は、今この瞬間に体験している現象に注意を集中し、初心者の心で捉え、ありのままに観察し、何の評価もせずに受容し、起こっている内外の現象に気づく能力を向上させます。この実践により、集中力がつき、自分の感情・思考・ふるまいに気づき、相手の感情や考えに気づき、環境に気づき、相手に対する思いやりが育まれ、創造性や明晰な思考能力が強化されます。また、困難な現象も、冷静に受入れ、柔軟な思考をすることができるようになります。私たちの心は、自動思考に陥ったり、ストレスを受けたり、感情的になっているときは、脳が創造性を発揮したり、効果的な協調や冷静な気づきや明晰な思考や意思決定ができませんが、マインドフルネスによって、ストレスは低減し、起こっている現象に対して、より冷静に気づき、柔軟に思考し、明晰な意思決定をし、創造性を発揮し、思いやりを持って行動ができるようになり、幸せを感じるようになります。

 マインドフルネス実践より、開発チームが、瞬間瞬間ごとに、仕事に、チームに、顧客のニーズに何が起こっているか、価値があるのかないのかに注意を向けることができます。また、マインドフルネスは、私たちの心に思いやりも育んでくれ、開発チームや顧客により大きな協調性を可能にします。さらに、マインドフルネスは、創造性や明晰な思考の強化にも関連しており、柔軟な対応を強化してくれます。私たちの心は、ストレスや感情的になったとき、私たちの脳は創造性の発揮、効果的な協調、柔軟な思考ができません。マインドフルネスを通して、私たちの心は落ち着きます。それにより、明晰かつ柔軟な思考ができ、顧客のニーズを満たす顧客価値を創造することができます。

 「マインドフル・アジャイル」は、「アジャイル・マインドセット」とマインドフルネスの組み合わせにより、アジャイルの価値観と原則を真に具現化するアジャイル文化を構築し、アジャイル開発の成功をもたらします。

参考資料
(1)  The Agile Manifest
(2) Ethann G Castell、Unlocking the Agile Mindset、www.SchoolOfInnovation.net

ページトップに戻る