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Force Majeure異説

プラネット株式会社 中嶋 秀隆 [プロフィール] :5月号

 国際プロジェクトのリスク・マネジメントを考えるとき、必要な用語のひとつに”Force Majeure”がある。原語のフランス語を英語に直訳すれば、“Major Force”であるが、英語では一般に”Acts of Gods”(神のなせる業)という。日本語に訳せば「大いなる力」であり、「不可抗力」という訳語が定着している。文字通り「抗せざる力」だ。
 インテルで契約担当をしているときのエピソードをひとつ紹介しよう。日本の取引先と契約を締結しようとすると(例えば、代理店契約)、シリコンバレーのインテル本社から分厚い原案が送られてくる。それを日本の候補の会社に届けて検討を依頼する。インテルとしては、自分たちが原案を届けることで、いわゆる「書式の戦い」(Battle of Form)を避け、相手をこちらの土俵に乗せようというわけだ。
 すると数日後に日本の候補会社から修正案が届く。それを1つひとつインテルの社内弁護士と調整するのは、厄介な仕事だ。やりとりがえんえんと続く。日本の商慣行を言葉を尽くして英語で説明しても、米国人である社内弁護士は、UCC(米国商法典)に基づいた、型通りのにべもない返答をよこす。
 そんなやりとりに辟易していたある時、4月1日のエイプリル・フールがやってきた。「この弁護士はいつも紋切り型の答えしかよこさないから、すこしからかってやろうと」考え、彼にメールを送った。
 「インテルが提案した英文契約書のある項目に、日本の代理店候補から修正案が出された。”Acts of Gods”という語は、日本の文化では受けられない。そこを”Acts of Buddha”に変えてほしいとのことだ」。
 すると米国人は弁護士は「困った。すこし時間をくれ」という。やがて、数日後、彼は次の回答をよこした。
 「Acts of Buddha”は困る。だが真剣に検討した結果、インテルが受けられるぎりぎりの線は“Acts of Nature”である。これで何とかまとめてくれ」。
 エイプリル・フールのいたずらメールが、思わぬ進展を見せたことであった。

以上

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