PMプロの知恵コーナー
先号   次号

破壊的イノベータとマインドフルネス

竹腰 重徳 [プロフィール] :3月号

 スティーブ・ジョブス(アップル共同創設者)、ジェフ・ペゾス(アマゾン創設者)、マーク・ベニオフ(セールスフォース・ドットコム創設者)といった著名な破壊的イノベータたちは、革新的な創造力によって破壊的イノベーションをもたらし、彼らの企業に圧倒的な競争優位と莫大な富をもたらしています。ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授等が、彼らのような著名なイノベータのインタビューや75ヵ国以上の500名を超えるイノベータなどを8年にも及ぶ調査分析した結果、破壊的イノベータは、破壊的イノベーションを起こす5つのイノベーション・スキルを持っていることが解明されました (1) 。
1. 関連付ける能力(Associating)
イノベータは、知識分野、産業、地理を超えた意外な結びつきを生み出す力を持っている。時に問題を細部に分析し、時に俯瞰して全体を見下ろすズームインとズームアウトの視点を持ち、常に物事の意外な組み合わせを考えることで、幅広い経験の点と点をつなぎ、最終的に新しいビジネス・アイデアを創出する
2. 質問能力(Questioning)
イノベータは、型破りな質問によって現状に異を唱える。常に常識を疑い、5W1Hの質問や、「もし~だったら」という質問を畳みかけることで、それまで見えなかったものを明らかにしようとする
3. 観察能力(Observing)
イノベータは、意識的に周りの世界を注意深くうかがい、目に映るものを固定概念に同化させず、これまでの経験にとらわれず物事を鋭く観察することで、新しいアイデアを掘り起こしている
4. 実験能力(Exprimenting)
イノベータは、新しいアイデアのプロトタイプを具体的に作ることにより洞察を得、実験しながら、自分のアイデアを成功させるための手掛かりを手に入れ、革新的なビジネスモデルを作っていく
5. ネットワーク能力(Networking)
イノベータは、新しいアイデアや洞察を引き出すために、いろいろな考えや視点を持つ人と話をする。自分と異なる分野の人々と触れ合う機会を積極的に増やすことでアイデアを刺激する
 この調査の中で、クリステンセン教授等は、これらの5つのスキルは必ずしも生まれ持った素質だけで決まるものだけでなく、誰でも訓練により後天的に強化できるスキルであることを明らかにしています。
 冒頭にあげたスティーブ・ジョブス、ジェフ・ペゾス、マーク・ベニオフは皆、マインドフルネスの実践者であることから、彼らの卓越した5つのイノベーション・スキルは、マインドフルネスで得られる10のスキル(気づき、集中、ビギナーズ・マインド、受容、洞察、思いやり、平静、感謝、相互依存関係、無常) (2) が役立っているのではないかと思い、5つのイノベーション・スキルとマインドフルネスの10のスキルの関係性を考察しました。
関連付ける能力・・・気づき、洞察、相互依存関係、無常
質問能力・・・気づき、受容、ビギナーズ・マインド、洞察
観察能力・・・気づき、受容、集中、ビギナーズ・マインド、洞察、無常
実験能力・・・気づき、洞察、平静、ビギナーズ・マインド、無常
ネットワーク能力・・・気づき、受容、ビギナーズ・マインド、思いやり、感謝
 この考察の結果、5つのイノベーション・スキルに、マインドフルネスの10のスキルが役立つと考えられ、破壊的イノベーションを起こす5つのスキルを向上する訓練の一つとして、マインドフルネスの実践が有効であると思います。破壊的イノベーションに成功しているグーグル、ヤフーなどの企業は、マインドフルネスの実践訓練を社内で導入して効果を上げています。

以上

参考資料
(1) クレイトン・クリステンセンet al、イノベーションDNA、櫻井祐子訳、翔泳社、2012
(2) 竹腰重徳、マインドフルネスで得られるスキル、PMAJオンラインジャーナル2月寄稿文、2019

ページトップに戻る